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0289・殺意の武者




 ユミの驚きが十分に回復するまで休憩し、ようやく冷静になれたようなので40層へ。そこは夕日に照らされた小山の上だった。そこには兜を失い、髷が乱れ、右目に矢が刺さり、左腕を失って血を流す武者が居た。


 その武者は何も分かっていないのだろう、狂ったように叫ぶと右手に持った刀を振り上げて走ってくる。素早くローネが前に出て<剣王竜の小太刀>を振るうも、相手の刀に受け止められた。


 それに驚くことも無く、ローネは素早く切り返すも、バックステップで離れる武者。そして着地すると再び一気に攻めてくる。片手で刀を振り下ろしてきたので受け止めるも、凄まじいパワーに膝を突くローネ。


 再び振り上げてから下ろしてくるも、それは横っ飛びで回避した。既にボロボロで右腕しかないにも関わらず、異常なまでに強い武者である。ローネは改めて目の前の相手に対し、全力で集中する。


 相手の水平切りに対し半歩後ろにズレる事で回避したローネは、下段に構えていた小太刀を斜めに振り上げる。すると、武者は柄を使ってローネの切り上げを防ぐ。止められたローネは相手の腹に前蹴りを放ち、後方へと飛び退く。


 お互いに気が抜けない状態で二合三合と打ち合い、隙を見出そうとするも両者共に隙を作らない。何度も攻防を繰り返し、30合を超えた辺りで変化があった。相手の動きが少しだけ大雑把になったのだ。


 その隙を逃がさず、袈裟切りに対しローネはギリギリの回避をしつつ踏み込む。そして下段から右足を切り裂くように振り上げた。接近距離ではあったが、膝と腰の関節を上手く使う事で十分な斬撃を放つ。


 相手は右足を切り裂かれ倒れるも、それでも闘志は衰えない。「天晴れ」と思いながらもローネは躊躇無く首を刈り、勝利をものにした。


 すると、その首が宙に浮き上がり何事かを呟くと、煙のように消えてしまうのだった。ローネは何故か酷く納得できる何かを呟かれたと感じたものの、戦闘の終わりに緊張を弛緩させる。



 「いやー、あの落ち武者が誰なのか分からないけど、ローネと互角に戦えるって怖ろしすぎるね。しかも右腕一本でアレだ。メチャクチャすぎる気がするよ。ダンジョンに作られたから、あんなに強いのかねえ?」


 「いや、そうではあるまい。ダンジョンに作られたという部分はあれど、技術自体は間違いなく人の物だ。だからこそ達人クラスの者だった事が分かる。私としてはあれでギリギリだな。相手に両腕があったら私は負けていた」


 「この星では長く魔法の使い方を知らなかったから、代わりに近接戦闘が磨かれたのかもしれない。ヤマト以外の国には古い武術が殆ど残っていないらしいけど、それは連綿と続く人達の魂を捨てたに等しい」


 「まあ、世界の何処でもそうだけど、平和になると武術というのは失われてしまうからね。良い悪いは別にして、一度失われたものは二度と元には戻らない。かつての刀の製法が失われた時に、それを復活させる事ができなかったように……」



 少し遠くに青い魔法陣が出てきたので移動するのだが、その魔法陣の近くに刀が落ちていた。ミクが拾おうとすると「バチッ」と弾かれたのでローネに拾わせる。予想通りローネなら何も起きなかったので、そのまま外へと脱出した。


 帰りの小型バスの中で<鑑定板>を出して鑑定すると、なかなか面白い鑑定結果が出る。



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 <狂骨王の骨盾>


 アークスケルトン・ベルセルクが使用していた盾。骨で出来た盾であり脆いものの、それは始まりでしかない。骨を吸収させればさせるほど硬く強靭な盾になり、更に吸収させた骨で修復も可能。意思は無いが生きている盾となる。ダンジョン産。



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 『ほう、骨を喰わせる事で強化が可能な盾か。おそらく強力な魔物の骨でなければ思ったほどの強化はされんのだろうが、便利な盾ではあるな。獲物の骨を喰わせて処理するのに丁度いい』


 「身も蓋もない言い方だが、間違ってはいないな。確かに骨は溜まっていくので邪魔なのだ。田畑に撒くといっても、撒いていい田畑など持っていないしな。強力な魔物の骨の方が野菜の生育が良いとは聞いた事があるが……」


 「それより、次はローネが手に入れた刀を鑑定する番。何となく謂れはありそうだけど、その辺りを知っておかないと使えない」



 ネルの言葉を受け、<鑑定板>をローネに渡すミク。刀を<鑑定板>に置いたローネの前にはウィンドウが出たが、予想とそこまで大きくは違っていなかった。



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 <殺意の紅太刀>


 刀身も鞘も真っ赤に染まった太刀。怨みと憎しみ、そして怒りと嘆き。更に守れなかった多くの者の血が滲み込んでいる。今も負けた者達の怨嗟を吸収中であり、源氏への怨みを晴らせと刀が叫ぶ。ダンジョン産。


 <殺意の武者>を倒した<ローネレリア・エッサドシア・クムリスティアル・デック・アールヴ>しか使えない。怨みと憎しみ、怒りと嘆きを吸収する程に刀は強靭になり、切れ味が増していく。



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 「こういう武器は多いが、それだけ多くの者達が負けて消えていったという事であろうな。げんじ? というのがよく分からんが、おそらくはその名の者が勝者なのだろう」


 「源平合戦だね。その昔、朝廷が持っていた権力を平氏が奪い、平氏が奪った権力を源氏が奪ったんだよ。一度源氏は敗れたんだけど、その後で平氏は許したんだね。その後、反撃されて平氏は滅亡さ。源氏は情け容赦なく平氏の殆どを皆殺しにしたんだ」


 「まあ、普通はそんなものだし、許すのが間違い。徹底的に叩き潰さないと駄目。一度裏切った奴は、必ず二度三度と裏切る。一度目で裏切りに抵抗なんて無くなるから。だから裏切り者は潰せ」


 「それが出来なかったのか、それとも<我が世の春>と栄華を極めていたから許したのか。結果として、それが平氏滅亡のキッカケだったんだろうねえ。徹底的に叩き潰せというのは間違ってないんだよ、本当」



 小型バスがホテルに着いたのでミク達は降りる。そのままホテル内のレストランで食事をし、部屋に入ったらさっさと満足させて寝かせるのだった。


 皆が寝静まった後、ミクは肉を通してアイテムバッグを本体に転送し、本体は<狂骨王の骨盾>に骨を喰わせていく。人間種の骨やら魔物の骨やらが大量に溜まっていたのだ。これ幸いにと全てを喰わせていく本体。


 結構な時間が掛かったものの、全てを喰わせ終わった本体は、アイテムバッグと共に盾を分体に転送する。何故かアイテムバッグに入らなかったのだ。


 受け取った分体ミクは、もう一度<狂骨王の骨盾>を鑑定してみた。すると……。



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 <従者たる骨盾>


 元<狂骨王の骨盾>だが、喰らう者が様々な骨を喰わせ過ぎた為、別物へと変貌してしまった。<喰らう者>が骨を捨てる為の盾であり、自我が芽生えてしまっている。おそらくアーククラスの骨を大量に喰わせた事が原因であろう。ちなみに<喰らう者>には逆らわないし、逆らえない。


 自我が芽生えた事により、【咬み砕き】を使用可能。盾から骨が伸びて、前方の獲物を噛み砕くという攻防一体のスキルである。盾の大きさは自在に変更可能。



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 「……ま、便利になったからいいか、骨も捨てられたし。私は肉が喰いたいのであって、骨が喰いたい訳じゃないしね。で、お前は私に従うの?」


 「………」



 盾は喋ることが出来ないが、プルプル震えているところを見るに怯えているらしい。まあ、本体を知れば絶対に勝てない事は分かるであろう。バカでもない限りは。


 そのさまに満足したミクは、盾を置いたまま分体を停止し本体へと戻る。仮に誰かが侵入してきても、骨の盾に食われるだけであろう。存外に便利な盾を手に入れたと喜ぶミクであった。


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