0284・千葉ダンジョン終了
このダンジョンの31層からはゴーレムが出現した。当然ながらハイクラス以上であり、グレータークラスのゴーレムすら出現している。ミクとヴァルは適当に倒しているものの、他のメンバーは苦戦続きだ。
ヴァルは<八握の剣>を使いあっさりと切り飛ばし、ミクはドラゴンバスターで叩き潰す。そんな二人とは対照的に、残りの三人は手足を切り落とし、最後に胴体を壊してコアを抜き出して倒している。むしろ三人の戦い方のほうが正しい。
「ゴーレムコアは繰り返し使える魔石のようなものだからな。ただ、ゴーレムコア自体は手足よりも脆い。当然だが胴よりも脆いので、貫通攻撃を使うとコアも破損するぞ。そしてその場合、価値は完全に無くなる」
「コアは欠けても使い物にならなくなる。慎重に取り出してほしい。そこまで脆い物ではないとはいえ、さっきローネが言った通りゴーレムよりは脆い。攻撃方法はよく考えてほしい。あの二人は例外」
「ゴーレムの胴体を叩き壊してるからねえ。それはともかく、普通の者はこれほどの切れ味の武器も持ってないし、その場合はどうしたら良いんだい?」
「お勧めは鈍器。ピッケルかハンマーがいい。とにかく壊す。ひたすら壊す。時間が掛かってもいいから壊していき、最後にコアを抜き取れば停止する。ゴーレムコアは、ゴーレムから抜き出されたらただの魔石と化す。ただし最充填可能な魔石」
「そりゃ、また……。間違いなく大荒れするような内容じゃないか。最近、遂に魔道具の情報も解禁したけどさ。それからウチの財閥にもちょっかい掛けてくる阿呆が増えたからねえ。そういう欲深い連中だから教えて貰えないっていう自覚が無いのさ、あいつら」
ちなみにネルがユミに教えた魔道具の知識は、基本中の基本だけだ。それ以外は自力で頑張れと言ってある。理由は二つあり、一つは自ら努力して研鑽せねば何事も上達しない事。二つ目は、独自の発展を阻害する可能性がある事。
この二つの理由により、基本中の基本しか教えなかったのだ。まあ、言っている事は最もな事であり、普通なら反論のしようも無い事である。それはともかくとして、ミク達は適当にゴーレムを倒しながら進む。
そのゴーレムの隙間を縫って、ブラウンレッドボアが攻撃してくる。ゴーレムも土色であり、紛れて攻撃してくる厄介仕様の層だ。ちなみに赤色なのは吐いてくる毒の色である。そう、この蛇は毒を噴射してくるタイプなのだ。それが余計に厄介になっている。
ミク達が早々に足を潰すので、ゴーレムの下敷きになって死んでいる奴が多いが、そこは見て見ぬフリをしてやるべきだろう。流石に哀愁が漂っている。
そんな地形もどんどん進んでいき、ようやく39層。ボス部屋まで辿り着いた。十分な休憩を挟み、出てきたのはアークランスディアーだった。体高3メートル。その角は何本かが捩れながら前に突き出ており、騎兵槍のようになっている。
戦いが始まった瞬間、凄まじい速さで突進してきたが、それをヴァルが全力で防ぐ。槍角で突進されたものの、ヴァルの着ている<獅子王の毛皮>は貫けない。そのまま体を受け止めたヴァルは、そり投げでアークランスディアーを地面に叩きつける。
その瞬間、一気に接近したローネがアークランスディアーの左後ろ足を切り裂く。やはり剣王竜の素材は凄まじく、アーククラス相手でも切り裂けるようだ。更なる追撃をネルが行い、雷撃棒を全力で使う。
全力の雷撃を受けたアークランスディアーは流石に動きが鈍ったうえ、左後ろ足も失っている。最早勝機は無いかのように思えたが、土を集めて足にし再び突進してきた。まさかの義足にビックリしたものの、それでも元の足とは雲泥の差であった。
素早く回避したネルが、千鳥十文字で首を突き刺して勝利。これでアーククラスの討伐三体目である。少し待つとアークランスディアーの死体は消え、2メートルほどの大きさのランスと赤青の魔法陣が出てきた。
ミクがランスを拾い、そのまま40層へと転移していく。40層は洞窟であり、再び土蜘蛛が居た。今度は他のメンバーが倒そうと思ったものの、土蜘蛛はヴァルの前に歩いて近付き、何事かを背中から呟くと消えていった。
拍子抜けするというか唖然とした一行は、気を取り直して進んで行く。すると白銀色の鏡があったので拾い、その奥の青い魔法陣から脱出する。今回の最奥は意味が分からなかったが、鏡に関して嫌な予感がしている一行だった。
帰りのバスの中でミクが鑑定すると、案の定な結果が出る。
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<槍鹿王の騎兵槍>
アークランスディアーの角をそのまま使った騎兵槍。特殊な効果は無いものの、その凄まじい頑丈さと鋭利さで抉り切り裂いていく。細い角が幾重にも絡まっている形で、それぞれの角が刃の様に外を向いている。その形状ゆえ、突き入れられると傷口がズタズタにされてしまう怖ろしい武器。ダンジョン産。
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<怨嗟の鏡>
黄泉に落ちた土蜘蛛達の怨嗟を集め放つ鏡。土蜘蛛達の憎悪と怒りを溜め込むほどに強力になるスキルを宿す。魔力と闘気を込めると【黄泉の常贄】というスキルが使用可能。ダンジョン産。
土蜘蛛を倒し、<八握の剣>の正式所有者となった<使い魔>しか使用出来ない。材質は不明。
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『やはり俺か。とことんまでヤマト王権というのを憎んでいるらしいな。いや、もしかしたらダンジョンが出来て、ようやく彼らも日の目を見るようになっただけか?』
「それはあるかもしれない。私達とて歴史として知っているだけで、本当はどのような人たちであったか碌に分かっていないんだ。彼等が何故ヤマト王権に逆らったのか、彼らの文化とはどういう物だったのか。一切分かっていないんだよ」
「まあ、仕方あるまい。負けた側というのはそういうものだ。歴史とは勝者が紡ぐものであり、虐殺してでも勝たねばならん。それが出来ねば唯の負け犬だ。そんなものは、どんな星でも証明されている。大事な事は一つ。<敵は殺せ>だ」
「本当にそう。虐殺してでも勝たねば、自分達の全てが奪われ失われる。歴史というものは繰り返す。人間種が人間種である限り、永遠に闘争が終わる事は無い。遥か先の子孫のためにも、殺せ」
「………」
絶対的な答えを突き付けられると、人は二の句を告げられないものである。どんな奇麗事を言ったところで無意味。虐殺してでも勝利しなければ、全てを奪われるのは歴史が証明している。仮に全てを奪われなくても、待っているのは奴隷である。
その事はどんな星でも、どんな人間種であろうとも変わらない。その事をミクもヴァルもローネもネルも知っていた。神々に見せられ、嫌というほど真実だと叩きこまれたのだ。神が下界を嫌がる筈である。そんなゴミどもを見続けなければならないのだから。
ミクをイジって遊んでいるのも分からなくはない程に、人間種の性根は腐りきっている。そこに希望など無いのだ。それが分かっているだけに、神どもは人間種に一切期待しない。当然と言えば当然である。
そんな話をしながらの帰りの車中、ユミとスタッフ達は何も言えなかったのだった。もちろん、ミク達も責めたい訳ではない。人間種とはそんなものだと理解しろと言うだけである。言葉は悪いが、それを前提に対処しろという事だ。
人間種に善なる者など存在しない。マシかクズかだけである。




