0270・大江戸観光
ダメになっている三人を【超位清潔】で綺麗にしつつ、ミクはヴァルと今日の予定を話し合う。40層以上あるのは確認できたし、今日は休みでもいいなと思いつつも何をするか悩む。
別にやりたい事がある訳でもないので、どうしたものかと考えていると、ローネやネルが起き上がり「観光しよう」と言い出した。別に構わないと言えば構わないのだが、大丈夫だろうかと思うも、ユミが起き上がり「大丈夫だよ」と言ってきた。
「ある程度の準備は整えてきているさ。いつまでもミク達を陸軍の本部に閉じ込めておく訳にもいかないしね。それにヤマトには47都道府県にダンジョンがあるんだ。それぞれのダンジョンに行ってもらう可能性を考えたら、移動の手段などは確保しておかないとね」
そう言うとユミは朝早くからスマコンで何処かに連絡しているようだ。ミクはいつも通りワンピースとスカートに竜革のサンダルという格好で出かける。ローネはライダースーツ、ネルは竜革のジャケットとズボンだ。
拉致誘拐の可能性を考えると、ちゃんと防御力のある服装をするしかない。ヴァルは麻のシャツに竜革のズボン、そしてネメアルの毛皮だ。ちょっと見た目は暑苦しいものの、本人は汗も掻かないので問題無い。
食堂に行って朝食を食べた後、陸軍本部の入り口で待っていると小型のバスがやってきた。コレに乗って観光をするらしい。ただ、人の多い所はパニックになる恐れが高いので、連れてはいけないとの事。
バスの中から色々な所を見て観光していると、後ろから同じ車が尾行してくるのが分かった。ユミや星川家のスタッフも気付いているが、何処の誰かは分かっていない。振り切ろうとすると事故を起こす可能性があるので、尾行を撒く事ができないようだ。
とはいえ無理に撒く必要も無いので放置する。マスコミなら幾らでも潰す手口はあるし、工作員ならリアルタイムで軍に情報を送っているから問題無いとの事。何処かに監視の人員を配置しているらしい。さすがは星川家というところである。
そういえば記者会見の際にミキを人殺しと言って演説していた記者がいたが、現在は行方不明だそうだ。ちなみに星川家は何もしていないらしい。ユミが「おそらく裏の連中から切り捨てられたんだろうさ」と言っているので、そういう事なのだろう。
様々な場所を見つつ、敷地面積の広い店に入る。どうやら料理屋らしいが、一部の高位客しか入れない特別な店らしい。流石に後ろから尾行していた連中も、この店には入れないらしく何も出来ないようだった。
店の中は贅を凝らした作りなのだろうが、ミク達にはサッパリ分からない。しかし料理は抜群に美味しかったので、そこは満足であった四人。やはり美味しいは正義である。
ただ、ミクとしては遠くからカメラを向けている奴がいて気になってしょうがなかった為、そちらに向かって超高速の狙撃を行った。【魔縄鞭】を使い、庭の小さな石を弾き飛ばして2キロほど先の奴のカメラを潰す。
上手く破壊できたが、カメラを向けていた奴は倒れて動かなくなった。目が潰れでもしたのだろうか? ミクにとってはどうでもいいうえ、ミクが小石を飛ばしたとは証明できないので興味も無かった。
ミクの態度が変なのでユミが聞くと、その言葉が返ってきたので頭を抱えた。何故2キロ先の人間がカメラを向けているのが分かるのか、何故2キロ先のカメラのレンズを小石で狙撃できるのか。
あまりにあまりだが、そういえば肉塊だったんだなと思い出し、ユミは全てを放り投げる事にした。ミクの説明では、魔力の残滓も発見出来ないので証明は無理だと言っている。
そもそも魔力の残滓を証明する事すらこの星では出来ないのだから、狙撃の証明は絶対に不可能だ。憶測にしかならない。
ついでに何処へカメラを向けていたかを説明せねばならないし? そんな事を自ら言い出すというのは、様々な法律に違反している事を自白するようなものである。即刻自分が逮捕されてしまう為、警察に被害届けを出す事すら難しい。
そこまで考えが通れば、放り投げても問題無いと分かる。安心して、ユミはゆっくりと美味しい料理に舌鼓を打つのだった。
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昼食後はそこまで観光する場所も無く、バスから降りられないのではこれ以上の観光は無理と判断し、陸軍本部に戻る事に。その途中でまたも尾行の車が現れたが、今度は道路脇の小石が飛んできてタイヤがパンクしていた。
その後ろの尾行の車は、飛んできた小石が助手席の窓を割り、慌てて停止する羽目になったようだ。色々な不幸が起きているようだが、珍しい事もあるものである。バスの中の者は全員が何かをスルーしているが……。
陸軍本部に戻ってきたミクは、ようやく一息吐く。あのウザイ連中の魂は覚えているので、レイラに言って喰わせようか悩む。ミク達を追っていた連中がいきなり消えたら怪しまれるだろうが、証明する事は不可能だ。
そもそもやってくるのはムカデだし、そのうえそのムカデは汚れを何も落とさない。なので証拠物は無く、完全犯罪は達成されるのだが……。連中が犯罪者かどうか不明というのが困ったところなのである。
困ったものの、仕方なく最後には諦めるミク。簡単に喰っていると神どもに何をされるか分からない。そのリスクを天秤にかけた場合、流石に分が悪いと判断した。賢明だとは思うが、代わりにストレスは溜まる。
食堂での夕食後、ローネ達を満足させたらレイラを送り出す。出来得る限り舐めるように殲滅せよと、そう言って。
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変な連中に追いかけられてイライラするのは分かるけれど、出来得る限りバレないようにするに決まってるじゃないの。主の怒りも分からなくはないけど。それにしても、この国の繁華街は夜も明るいわねぇ。
その御蔭で起きている連中も多いし、喰えるのも多いから助かるけれど……って、あら? あれって昼間、主が小石で狙撃した奴よね? 斜めに布を巻いて………あれって包帯っていうんだっけ? とりあえず少し探りましょうか。気になるし。
………ここのホテルに泊まってる? まあいいわ。気配を探っていれば、どの部屋に行くか分かるし。着いた……みたいね。ちょっとだけ窓ガラスの端を食べて侵入させてもらいましょう。
「それで、そんな大怪我をしたと? それを我が社に補填しろと言われてもな。しかもデータも残っていないんじゃ、こっちには何も無いじゃないか。治療費を請求されても困るぞ」
「何故だ!? あんたらの仕事を請けてコレだぞ! 片目が潰されて、目の周りもズタズタだ! あんな怪物を追い掛ける仕事だなんて聞いてないぞ!! 契約自体が無効じゃないか!!」
あーあー。主が怪物であり肉塊だと知らないと、唯の美女だものねえ。美女のプライベートを探ろうとしたってところかしら? その結果が片目を失う事になったと。まあ、その仕事を請けたのは自分なんだし自業自得じゃない。
あらら、椅子を蹴り上げて出て行っちゃった。最後の捨て台詞を聞く限り、あの男は放っておいた方が良さそうね。主に関わると良くない事が起こると吹聴してくれそうだもの。となると……こっちかしら。
「チッ! ウチの社の妙な噂を流される前に対処するか。どのみち、あんな小者は山ほどいる。ウチは天下の文旬様だぞ。底辺のゴミが調子に乗るな」
……調子に乗っているのは誰なのかしらねえ? まったく。まずはコイツからじっくりと情報を聞きだしましょう。必要ならコイツの会社の者も殲滅ね。




