0269・国宝? 白熊王の円月刀
40層のボス部屋、中に入って少し経つと大きな魔法陣が輝き、そこから現れたのは白熊だった。とはいえ、この圧力は間違いなくアーククラスである。エイジ達でさえ動きがぎこちない。動けているだけマシだが、完全に気圧されている。
ここは素早く決めるべきだとヴァルが近寄ると、凄まじい圧を加えてきた。
「グルルァァーーー!!!!!」
凄まじい咆哮と圧力が吹きつけ、それだけでユミが失神した。エイジ達も竦んでしまい、まったく動けない。そんな中、ヴァルが近付き素早くバルディッシュを振る。袈裟に振られたバルディシュは、アークホワイトベアの爪で素早く防がれた。
しかし遅い。ヴァルの影から接近していたローネが近付き、必殺の【天命殺】を放つ。その一撃でアークホワイトベアは死亡。一行は地面に出てきた巨大な魔法陣で41層へと転送される。
ただアーククラスに放った代償は大きく、ローネの魔力と闘気は殆ど底をついている。倒す相手が強ければ強いほど、代償として魔力と闘気を消費してしまうスキルであり、当たり前だが万能な必殺技ではない。
既に倒れて荒い息を吐いているローネ。ミクが背負ってユミを起こした後、ヴァルとネルを前に立たせて脱出を図る。地面に落ちている湾曲した剣を手にし、一行は鬱蒼と生い茂るジャングルの中を移動していくのだった。
途中でジャイアントボアや、クリムゾンコブラなどが現れたので倒して回収しつつ、青い魔法陣から無事に外へと脱出。ヤレヤレと思って外を見ると、既に夕方で待っていた軍人六人に軍用車両に乗せられる。
そのまますぐに出発し、陸軍本部へと戻っていく。高校生達を家に帰さないといけない為、急ぐ必要があるそうだ。それは仕方ないと納得し、手に入れた剣を<鑑定板>で鑑定する。
■■■■■■■■■■■■■■■
<白熊王の円月刀>
シミターと呼ばれる形の剣。剣身はアークホワイトベアの爪で出来ており、非常に強靭かつ鋭い。ドラゴンすら容易く切り裂く切れ味を持ち、魔力を流すと周囲の水分を集めて剣身を洗い流す。水場の近くだと殆ど魔力を消費しないで済む。ダンジョン産。
水を集め汚れを取る程度ではあるものの、この星では第一号の魔剣である。
■■■■■■■■■■■■■■■
「ふーん……思っているよりも優秀な剣だね。長さもそこまで長くないし、これはローネに持たせるのが一番良いかな? 陸軍がとやかく言ってきたら、余っている素材でこの<円月刀>というのを作って渡そう」
ミクは円月刀というか、湾曲した剣の形が気に入ったらしい。剣身もそこまで長くなくローネに似合いそうという事もあり、少々強引にでも持たせようと考えた。特にここ最近のローネはリーチが足りていない感じなのだ。
暗殺などが多かったローネとしては、やはり短剣が使いやすいのだろうが、ここまで普通の戦いが続くと流石にしっかりした武器が必要であろう。ミクもそう思ったので新たな武器を考えたのだ。あえてリーチの長い武器にしてもいいのだが、多分ローネでは使い熟せない。
なのでショートソードか打刀ぐらいの長さの物が望ましい。片手で使えるものだから、小太刀ぐらいだろうか? ローネには湾曲した剣の方が似合いそうである。ミクは久しぶりの物作りにワクワクしながらも、楽しげに悩むのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
陸軍本部に戻ってきて話すと、中島大将は譲ってほしいと言ってきたので仕方なく渡す。鑑定結果を中島とユミに見せると、ユミは「少なく見積もっても数億円かねえ?」と言い出し、中島の顔が真っ青になった。
「この星で初めての魔剣とやらなんだ、最低でも数億円になるのは当然だろうに。この星で初めてという歴史的な価値を理解してないのかい? しかもドラゴンを容易く切り裂くと書かれてる。つまり、この剣は<ドラゴンスレイヤー>だ」
ドラゴンを殺す武器というのは、各国に伝説として複数存在するほどである。今まではただの空想であったが、ここにある円月刀は本物のドラゴンキラーでありドラゴンスレイヤーである。本物の価値は凄まじいのだ。
試しにユミが持って魔力を流すと、近くのコップの水が減り、剣身から水が湧き出すように出てくる。こうやって洗い流されるのかと納得し、次に近くの椅子の足を切る。アルミで出来ている椅子の足は、何の抵抗も許されずに切り裂かれた。
「これは流石に……ちょっと尋常ではありません。もしかしたら戦車の装甲すら切り裂かれるやも……。冗談でも何でもなく、漫画やアニメのような事になりかねませんよ」
「ああ、私もそう思うよ。流石にこの剣の切れ味は色々おかしい。ボスを倒すと極々稀に、武具や道具に薬が手に入るって聞いたけどさ。それにしても、手に入った物の性能がおかし過ぎる」
驚いている二人を見ながら食事をし、終わったので部屋に戻る。しかるべき研究機関に送られるのだろうが、アレを研究してもあまり意味は無いだろう。精々水を集めている方法が分かるだけではなかろうか。
まあ、研究とはそんなものの繰り返しだろうけど。そんな事を考えつつローネ達三人を撃沈し、窓から出て行くレイラを見送る。ヴァルは大元に戻り、ミクは剣王竜の素材で小太刀を作るのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日。ミクは小太刀以外にも色々作って暇を潰していた。SDカードはとっくに渡してあり、昨日は手伝っていない。理由はそこまで新しい部分が無いからであり、短い動画にしかならないからである。
新情報があれば素早く出していくものの、同じ情報を何度も出してもしょうがないのだ。なのでミクやヴァルが手伝う必要性は無い。<白熊王の円月刀>に関しては、総理大臣が大々的に発表するそうだ。
星川財閥が買い取って研究機関に回されるものの、この星で初めての魔剣である。ヤマト皇国としても鼻高々であろうし、それゆえに大々的にお披露目をしないといけない。とはいえ、ミク達にはどうでもいいのだが。
そんな事を考えているとレイラが戻ってきた。様々な者を食べてきたからか警戒されているらしく、鳥の姿で遠出をしてきたそうだ。それでも200人を越える人間を送ってきたのだから、どれだけ犯罪者が多いかよく分かるであろう。
様々な国の犯罪者が入り込んでいるのにしても限度というものがあると思うのだが、未だその限度には達していないらしい。どれだけ入り込み、どれだけ悪さをしているというのか……。そんな事を考えながらも自然と口角が上がるミクだった。
その後レイラを労っているとローネが起きだし、何故か猛烈に甘え始めてきた。珍しいが偶にあるので、好きなだけ甘やかしてやる。キスしたり触りあったりしていると目が覚めたのだろう、顔を真っ赤にして離れた。
いつもなら照れたローネがゴニョゴニョ言い訳をして終わるのだが、何故かレイラが追撃を仕掛け、それにミクも乗る羽目になった。結果、色々な物を噴きながら歓喜の叫びを全身で表現したローネは、現在忘我の境地を彷徨っている。
今までで一番アレだが、女としての本懐を完全に遂げたようだ。白目を剥き、涎を垂らしてダメな顔をしているローネを見つつ、ジト目を向けてくるネルとユミ。二人も十二分に満足させ、攻める事に飽きたレイラは本体に戻って行く。
改めてレイラの腹黒さというか小悪魔部分に溜息を吐きつつ、三人の意識が回復するまでヴァルと雑談をするミクだった。




