0266・大江戸ダンジョン31層到達
結局<浄銀の剣>は陸軍本部に提出する事にした。剣を使うのはミキだが、そもそも物が良くない武器を態々持つ気が無く、今も使っている竜鉄の剣に愛着もあるからだ。ミキの場合は他のメンバーと違って特殊な効果のある武器ではなく、ミクが作った武器ではあるが、それが一番合っている。
「【勇剣術】のスキルと【覇気】。これに集中するには特殊な効果とか付いてない方が良いんです。代わりに頑丈で切れ味も鋭いですし、それだけで十分だと思いますよ」
「まあ、私が渡された武器もそうだけどね。ゲームなら特殊な効果がある物とかが強力だけど、現実だと咄嗟に使えないならシンプルに優秀な物の方がいいね。どんな良い物でも使えなきゃ意味がない」
「俺のは硬くなる棍棒と相手を集める盾ですから、割とシンプルですよ。ただし集めすぎると大変なので、そのバランスがなかなか難しいんですけど……」
「ゲームでタンクが持つと優秀な盾だけど、現実だと集められた魔物が一斉に襲ってくるもんな。飽和攻撃を受ければ殺されるしかないし、クラスが上がると捌ける数も減るしで大変だろうと思うわ」
「そろそろ休憩も終わりにして、ボス部屋へ入るぞ。お前達でもそろそろ死闘となるかもしれんのだ。気を引き締めろよ」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
ローネが皆の気を引き締めて、ボス部屋へと入っていく。この層だと出てくる者を決め付けない方がいい。全員が何となく出てくるボスを理解しているが、それでも口には出さずに見守る。
地面に魔法陣が浮き出て輝き、出てきたのはグレーターヴァンパイアだった。美女のヴァンパイア、イケオジのヴァンパイア、そして美少年のヴァンパイア。最後のだけ初めて見るが、何故か短パンを履いてサスペンダーをしている。
エイジが最前線に出て<集目の盾>を使うも、相手には全く効いておらずバラバラに動く。流石に焦ったエイジは一番動きの遅いイケオジのヴァンパイアを、体を張って無理矢理にでも止めにいく。
美女のヴァンパイアはシロウを狙って攻めてきたが、ベルが短剣を使って阻む。サエも矢を撃って援護し、シロウが魔法を使う隙を何とか作り出そうとしている。ヴァンパイアの動きが速く、魔法を使う隙が見出せない。
ショタのヴァンパイアはミキと戦っているが、どうも魔眼か何かを使って魅了しようとしているらしい。ミキには碌に効いていないが、シェルとオーロには影響がある。ユミが叩いて正気に戻しているが、ミキの援護に回る事が出来ない。
ミクはその様子をビデオカメラで撮影し、ローネとネルは後ろからアドバイスをしている。ヴァルはいつでも介入出来る様にスタンバイしており、今のところは助ける気が無いようだ。
イケオジの攻撃をエイジが上手く捌いて一撃を加えるも、流石はヴァンパイア、碌に効いていない。【聖化】系の魔法で弱体化させないと、本来ヴァンパイアは非常に強いのだ。それを如実に表している戦いであろう。
しかし、それでもいつかは均衡が崩れるものである。シロウが隙を上手く使い【高位聖化】を使って弱体化に成功。弱体化した美女はベルの<射剣>で喉を穿たれ、そこに【魔力弾】を集中して叩き込まれた。
シロウは素早くショタにも【高位聖化】を食らわせて弱体化させたのだが、その直後、ミキの【岩落とし】で真っ二つにされて死亡。その速さと容赦の無さにシロウの方がビビる。
ショタを切り殺したミキはエイジに加勢しつつ、シロウに【高位聖化】を使うように言う。シロウもビビってる場合じゃないと思い、最後のイケオジに【高位聖化】を叩き込んだ。
その後はミキに切られ、シェルに突き刺され、オーロが振り下ろして止めを刺された。死体には胸元までハルバードの刃がメリ込んでいる。それもしっかりと撮影していたら、31層へと魔法陣で転移していく。
「おー……31層からは海の地形かー。久しぶりにデカイ蟹を見るけど、あれって絶対俺達が昔戦ってた奴じゃないよな? あんなにハサミがデカくなかったし、何より右のハサミ。あれハサミっていうより巨大な刀じゃないか?」
「さしずめ<剣客蟹>ってトコじゃね? 名前があるかどうかは知らないけどさ。あの蟹の右手、あれって殆ど加工しなくても使えそうだけど、それってオレの気のせいか?」
「いや、おそらくだが使えると思うぞ? それとあんな蟹の魔物は私も初めて見る。シロウが言った<剣客蟹>とかいう名前でいいのではないか? もう1種類居るようだしな」
そういうローネが指差す先には、異常に盛り上がり硬そうな甲殻を纏う蟹が居た。トゲトゲが沢山ついた甲殻であり、ハサミは普通のハサミだった。それに対してユミが声を上げる。
「何だかモンスターをハンティングするゲームにこんなの居たねえ。武器として確かに使えそうだけど、それ以前にここは31層だ。アレは間違いなくそれに見合う強さをしてるだろう。倒せるのかい?」
試しにヴァルが近付き、<剣客蟹>の攻撃をかわしてバルディッシュを叩き込む。それだけで右腕が切り落とされ、泡を吹きながら暴れ始めた。ヴァルは丁寧に一本ずつ足を落とし、動けなくしてから胴を断ち割って倒す。
一番安全な形で倒したのだが、やっている事は蟹の解体であった。その後は中の内臓とか肉は捨て、足とハサミだけを回収して別の蟹へ。こちらはエイジが<大鎧蟹>と名付けていた。
<大鎧蟹>もヴァルが同じように倒し、中身を検分しつつアイテムバッグに仕舞う。どうにも甲殻は硬く、肉は食べられそうだが……蟹みそは食べられそうにない。どうも毒が蓄積してるっぽいのである。
試しに足の甲殻を切って中身を取り出し、<鑑定板>で鑑定したが毒は無し。【超位清潔】を使って生で食べてみたが、驚く程に美味しかった。舌が肥えている筈のユミが絶賛する程だ。
結局この日は蟹を乱獲して帰る事になった。甲殻などは研究機関などに渡すが、足肉はミクが大半を持つ事に。足の長さが3メートル、根元の太さが直径25センチほどの足である。可食部位は非常に多い。
軍用車両に乗って帰り、本部に着いたらSDカードを提出。食堂に行って夕食をとってきたら、食事をしながら話す。先ほど中島大将が近くに座ったのだ。
「今日で31層まで行ったけど、なかなか大変というか新種の魔物まで出てきて時間が掛かりそうだよ。特に20層から先がアンデッドの層だから大変だね。私達は綺麗にしてるからいいけど、ダンジョン内から病気の元とか持ち帰る奴が出るかも」
「病原菌をですか……。アンデッドという言葉から、おそらくゾンビなどが出てくるのでしょうが、感染症なのか病原菌なのか……判断に悩むところですな。実際のところは分かりませんが、妙な物を持ち帰られても確かに困ります」
「おそらくは大丈夫だと思うけどね。アンデッドというのは穢れた魔力で作り出そうとするか、条件が整わないと誕生しないらしい。狙って作るのは難しいらしいから、余程の事がない限りは普通の病気だけだろうさ」
「そうですか……」
「そもそも軍でさえ長い間行けないだろうし、突破するのはもっと無理だよ。今のエイジ達で何とかってところかな。今までのダンジョンに比べても難易度は高いよ。反面、何故か罠が無いけど」
「そういえばそう。私の【罠発見】にも全く反応が無いのー。巧妙に隠されてるのかなーって思ったけど、やっぱり無かったんだねー」
この星の者達が入るので、意図的に罠を設置していないのだろうか? 【世界】が創っただけに判断に困るミクだった。




