0259・お久しぶりのクレイジーモンキー
食事やトイレ休憩を終えてボス部屋の中に入ると、中から現れたのはハイフォレストベア五頭だった。それなりの数ではあるものの、そこまで苦労するような敵じゃない。安全も考えて素早く前に出たミク達が倒していると、戦闘中のミクに突然発砲があった。
ミクは吹き飛び、撃った男の兵士は慌てて取り押さえられるも、ローネ達は冷静にハイフォレストベアを倒す。兵士達に取り押さえられた男はジッと黙っているものの、5層のボス部屋でもミクに銃口を向けていた者だった。
ボスを倒し11層に転移させられたタイミングでむくりと起き上がる。その事に多くの者が驚いているが、ローネ達が全く心配していなかったのが答えだ。ミクが吹き飛んだのは自分からであり、そもそも銃弾を受けてなどいない。
ミクはそのまま取り押さえられている男に近付き、右手の掌を頭の上に置く。途端に抵抗も一切しなくなり、目が虚ろになった男。ミクは詳しい話を聞き出していく間、ローネ達は周囲の警戒だ。
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男はヤマト皇国の隣の半島国家のスパイで、潜伏し戸籍を偽って軍に入り込んでいた。他の兵士にも質問させて全てを聞きだした後、<幸福薬>を注入して善人の洗脳を施す。周りの兵士が訝しむ中、立派な善人になった男が口を開き唖然とする。
周囲の研究者や学者もビックリしていたが、ユミが一喝した後、情報を流出させた奴は善人になって世の中の役に立ってもらうと言った。その言葉を星川家のドンが言った以上、余計な事をすれば冗談ではなく変えられる。
ここに居る研究者や学者とて、その程度の事ぐらいは理解している。だからこそ彼らは下らない事などしない。世の中を上手く渡るコツぐらい、彼らとて知っているのだ。
他に怪しい奴が居ないかを聞き、居ないようなので先へと進む。11層は森の地形になっており、非常に歩きにくい。研究者の中にはフィールドワークがメインの者も居るが、殆どは篭もっている研究者ばかりである。
既に足が痛いや腰が痛いなどと言っているが、それでも植物というのは研究対象として重要な物だ。傷む足腰とは別に、彼らの目は輝いている。動物学者は森の地形に出てくる魔物に興味津々だが、遂に奴が現れた。
「ウホッ!? ウホッ! ウホッ! ウホーーーッ!!!」
毎度お馴染みのクレイジーモンキーである。更にクレイジーモンキーの声に反応して、別のクレイジーモンキーまで現れた。色々な意味で碌でもない層である事は間違い無いだろう。まさかの層だとも言えるし、男性キラーの層とも言える。
研究者や学者を中心に置き、周りをミク達が固めて殲滅していく。東達が許可を貰って銃を撃っているが、クレイジーモンキーにはそれなりに効いているらしい。あくまでも、それなりにしか効いていないのが厳しいところだ。
倒し終わった後の死体を動物学者が検分しているが、予想以上の筋肉の硬さとしなやかさに驚いている。どうやら相当高レベルの運動が可能な肉体をしているらしい。それよりも驚いているのは股間に対してだが……。
「私も初めて見るので何とも言えませんが、その……凄く、大きいです///。それに柔らかくて伸縮性がありますし……何でしょう、狭くても入りそうですね///。この魔物は何故、大きくしているのでしょうか///」
「それはクレイジーモンキーという猿の魔物で、オークと対を為す性欲しか頭にない魔物だよ。オークは雌を見つければ犯そうとし、人間種でも無理矢理に孕ませる事が出来る。当然、産まれてくるのはオークの子供だよ」
「オークどもは雌だと見るや、格上のオーガの雌ですら襲い種付けを行う。それも多数で襲って犯すのだ。奴等にとって孕んでいるかなど関係無く、犯せる雌がいれば絶対に犯す。女はとにかくオークに気をつけねばならん」
「それと対を為すのがクレイジーモンキー。こいつはとにかく男の尻を犯す事しか考えていない。同族の雌と他種族の雄にしか興味を持たない魔物で、男はとにかく気をつけなきゃいけない。こいつも雄を見るや集団で襲ってくる」
『前に敵対していた白耳族の男が襲われて、最後には見せてはいけない顔を晒していたぞ? 口と尻から垂れ流していたが、その状態でアレな顔だからな。その後に死んでいるから本人は知らんだろうが……』
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「「「「「///」」」」」
ドン引きしている多数の人物と違い、一部の女性軍人はなにやら別の反応をしているようだ。ミクはスマコンで調べていた時の「攻め」だとか「受け」だとかを思い出したが、すぐに忘れる事にした。だってクレイジーモンキーの頭と変わらないし。
その後も森の地形を調べるも、クレイジーモンキーが大量に出てくるので限界に達したのだろう、研究者や学者がギブアップした。尻を狙われるプレッシャーでストレスが限界に達してしまったらしい。仕方なく青い魔法陣から離脱する。
女性の研究者や学者は問題無かったのだが、彼女達も周囲をレイパーに囲まれていると考えれば気持ちは分かるので、撤退に関しては文句を言わなかった。そもそも体力が限界に近かったのもあるのだろう。
外へと脱出し、全てを纏めて軍用車両に乗り帰還していく。陸軍本部への道で、東がミクに謝ってきた。まさか半島のスパイが軍の中に居るとは思っていなかったらしい。それと、報告を上げたら恐らく協力を頼まれる事も。
(となると、やはり早急に使い魔をもう一体作製しておいた方がいいね。<魔の神>が言うには、最初から肉と関係した形で作れば新たな<使い魔>が出来るって言ってるし、そいつを上手く使えば問題無いかな? 何故か他の神どもも乗り気なんだよね)
『神が乗り気とか、嫌な予感しかしないな。どういう形になるにせよ、俺の後輩ではあるのだが……。神が強く関わってくる時点で、おかしな奴になる可能性が高そうだ。俺と協力が出来ればいいんだがな』
(そこは命じれば大丈夫でしょ、多分。駄目なら、単独行動で使う奴で決定かな? どのみち私なら全て把握できるし、最悪は喰らって潰せばいいよ。それが出来るのは分かっているからね)
どうやら二人だけの話は纏まったようである。その後は東が質問してきたので、クレイジーモンキーとの戦い方を一つ一つ教えていく。といっても正攻法というか、基本的な事だけだ。基本を守って複数で戦えば十分勝てる相手ではある。
クレイジーモンキー自体は銃が効いている事からも分かる通り、そこまで強い魔物ではない。身長が2メートル近く、雄と見ると股間を勃てて襲ってくるだけである。……それが嫌? そこは諦めろ。
「やはり諦めるしかありませんか……。いや、女性を襲うオークという魔物も居るのです。女性とて同じように教われる可能性があるという事ですから、我々男が情けない姿を晒す訳にはいきませんね」
「まあ、そうだねえ。それにしても本当に雄しか襲おうとしない魔物が居るなんて、驚くと共に面白いと思うよ。オークの様に孕ませて子孫を残そうとするならまだしも、どうして本能に忠実な者が非生産的な事をするんだろうね?」
「さてな? ただ、魔物が当たり前の星では、クレイジーモンキーはオークすら襲っているぞ? 奴等は雄であれば同種族以外は気にしない。何故か同種族の尻は掘らんみたいだな」
奴等の事など幾ら考えても無駄である。そもそもクレイジーモンキーという尻を掘るのが好きな魔物が、何故か絶滅していないのだ。その時点で欠片も意味が分からないではないか。奴等がどうやって増えているかは、ある意味で生命の神秘であろう。
それ以上考えたくもないとも言うが……。




