0255・ダンジョン二回目
最初のダンジョンアタックから10日ほど過ぎた。エイジ達は学校というのがあるらしく実家へと戻って行ったが、ミク達は陸軍の本部に未だ居る。というのも、最も重要な情報を持っているのがミク達だと各国にバレたようなのだ。
総理大臣という人物の下に、各国の大使から会わせろという連絡が相次いでいるそうだ。全て外交当局で止まっているらしいが、総理案件になるのも時間の問題ならしい。ミク達にはサッパリ分からないし、極めてどうでもいい事である。
「まあ、今の総理大臣なら特に問題無いんじゃないかねえ。そもそもウチが後ろから圧力を加えなきゃいけない奴じゃないし。歴代の中にはウチが後ろから目を光らせないと売国行為をするクズが居たからさ」
「「「「………」」」」
どうやらその売国奴どもは、それなりにヤマト皇国で有名な連中らしい。何故かしつこく今も国会議員という職にあるようだが、何でも他国の手が入り込んでいる連中でなかなか駆逐できないようだ。重ねて言うが、ミク達にはどうでもいい事である。
そんな話をしながらも、今日は二度目のダンジョンアタックだ。一度目はエイジ達が居たが、二度目は軍人4人とユミの訓練となる。ユミは毎日本部に来てはミク達から訓練を受けていて、メキメキと上達しているのだが、軍人四人はイマイチ上手くならない。
一応武器としては鉄の棒を持って来たので、今はそれを練習している。将来的には短槍か槍を持たせたいらしく、今は用意が出来てないので棒で訓練中だ。とはいえ武器としてみれば、棒は殺傷能力が低い。無い訳ではないが、棒で戦うというのは本来玄人向けである。
未だ殺し合いとしては、素人に毛の生えた四人では無理だろう。そう思い、ミクは本体で竜鉄の短槍を四本作る。ちなみに槍に決まった理由はコストと扱いやすさだ。量産しやすいのと、そこまで訓練が必要ない事が上げられる。
特に刀は最初に却下されたらしく、アレは十分な技術が無ければ扱えないと各方面から言われたそうだ。ミクも幾つかの動画を見て刀の特性を理解しているので、言いたい事はよく分かる。武器は簡単で頑丈なのが一番良い。
よほど腕に自信があるなら別だが、素人が無理して持っても壊して終わりである。何より武器は敵を倒すのに振るうのであって、自分の技術を見せ付ける為に振るうのではない。ミクの場合は敵を殺して喰らう為であるが、殺す事に変わりは無いのだ。
そんな事を話しつつ軍用車両に乗り、再び大江戸ダンジョンへと向かう。攻撃などは受けないだろうと言われているが、受けたところでミク達が滅びる事は無い。ローネやネルでさえ復活する以上は、特に気にする必要が無いのは知られている。
とはいえ軍としてのポーズは必要だし、態々他国に怪しまれる事をしたり隙を見せる必要も無い。なので今でも軍人四人が専属のように付いている。本人達は微妙で、色々な事をさせられるので変わってほしいらしいが……。
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大江戸ダンジョン第1層。相変わらずのゴブリンやコボルトである。ミクは撮影をし、ローネとネルは軍人四人を監督している。ユミにはヴァルが付いているので特に問題無し。エイジが実家に帰ったが、ユミは本部に来て何故かミク達と一緒に居たり泊まったりしている。
もちろんカラダの関係はあるのだが、ミクにも色々な技を教えてくれているので、そこは感謝していた。異性を篭絡する為の数々の技。これからどんな星に行かされるか分からない身としては、間違いなくプラスになる技術だ。
そんな関係ではあるものの、完全にヴァルの声に嵌まったらしく、今も耳をヤられながら戦闘している。まあ、ヴァルが看ているので危なくは無いだろう。本当に危険なら助けるのは簡単だし。
それにしても軍人四人が酷い。動画を見た一般人からも叩かれていたらしいが、確かに自分の国の軍人がコレでは不安になっても仕方ないとは言える。ミクも流石にこの星の戦争形態は大凡理解したので、今は仕方ないと諦めているが。
しかし遠距離武器、飛び道具ばかりの戦争の弊害だろう。自分の手で他の生物を殺す事に忌避感を抱きすぎである。そんなものを持っていても、向こうは一方的に殺しに来るのだから足枷にしかならない。それを分かっていないのだ。
なので現在一人ずつゴブリンと戦わせている。四人で連携するのもいいが、それは一人で倒せるようになってからだ。ゴブリンくらいは一人で倒せないと困る。そもそも駆け出しでさえ倒せるのがゴブリンなのだから、軍人が苦戦する事自体あってはいけない。
そんな事を言いつつ倒させていき、5層のボス部屋前で休憩する。昼食を食べつつどうだったか聞いていくと、前回よりはマシになったとの事。前回の後、若い女性二人はゴブリンを殺す夢を何度も見たそうだ。
「その程度なら特に問題は無い。初めての殺人でもそういう事はある。とはいえ殺す事を躊躇うなよ。お前達の教えにもあるだろうが、躊躇うと仲間が死ぬぞ。それだけは絶対に忘れるな」
「仲間を死なせたくなければ、冷静に自分のやるべき事を粛々とやる。これが一番味方を死なせなくても済む。とにかく冷静になる事が一番であり、パニックを起こす事が最悪だと覚えておけばいい」
そう言ってボス部屋へと入る。中に入った一行は、早速ボスの下へユミとヴァルが行き、残りのメンバーで通常のゴブリンを倒していく。前回よりもリーチがあるからか、安定して倒せているようだ。
ユミは走って近付くと、脇構えから水平にホブゴブリンを切りにいく。ホブゴブリンは近付いて柄の部分を胴に受けるもそのまま前へ。ユミはどうするのかと思ったら、思いっきりホブゴブリンの股間を蹴り上げた。倒れ伏して悶絶するホブゴブリン。
後はバックステップで離れて、脳天に薙刀の刃を落として終了だ。実はミクが贈った剣帯に短刀も差しているのだが、それは使わずに勝利した。ケチをつける必要の無い勝利だろう。
ユミは【龍王覇気】を既に使えるが、現在は封印している。魔力と闘気の消費がミキの持つ【覇気】よりも大きい為だ。その分効果は高く、周りへの威圧もより強い。その分だけ使いどころが限られるので、扱い難いという側面もある。
そんな事を考えつつミクが軍人四人にカメラを向けると、四人は思っている以上に苦戦していた。ゴブリンが上手く連携しているからだ。既に四体は倒しているようだが、残りの六体も上手く連携していて隙が少ない。
むしろ数が減った事でしっかりと連携が出来ている。こりゃ苦戦するなと思っていたら、時間を掛けるのはマズいと判断したのか東が仕掛けた。上手く端の一体に攻撃し、他のゴブリンが東に向くと残りの三人が攻撃を開始する。
ゴブリン側はそれを予期していたのか反転、三人に襲い掛かっていく。完全に出鼻を挫かれたが、一対一の東が素早く倒して他の応援に入る。西口と共同で倒し、南野の援護に行くように指示。
北川のフォローに入ろうとした時、相手の攻撃に晒されている北川を見て突っ込む。東はゴブリンの持っていた剣で切られたものの、そこまでの傷ではない。ところが北川はパニックを起こしてしまい、何も出来なくなってしまった。
とにかく必死にゴブリンに槍を突き付けることしか出来ず震えている北川に、ゴブリンは一足飛びに近付いて襲いかかるも、後ろから東がゴブリンを刺し殺す。東は怪我をしたからか、むしろ冷静に自分のやるべき事を果たしたようだ。
全て倒したからか6層に転移されるも、北川が泣きながら東に謝罪している。東も血を流したからか若干ふらついているようだ。
これでは無理だろうと思い撤退を言い始めた東に対し、ミクは【超位治癒】で治療した後、水色の薬をコップに少し入れて飲ませる。
次に北川にピンク色の薬を多めにコップに入れて飲ませ、土魔法でカマクラのようなものを作製。中に二人を入れて空気穴以外を閉じる。ユミとミクがサムズアップして喜んでいると、ローネとネルとヴァルが呆れて溜息を吐く。
西口と南野が不思議な顔で見ていると、カマクラの中から北川の嬌声が聞こえてきた。その声を聞いた瞬間、西口と南野は全てを理解してスルー。休憩に入るのだった。




