表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/500

0251・生物を殺すという事




 軍人四人以外にユミも戦わせているが、飲み込みが早く非常に優秀だった。流石は星川家のドンと言えるが、軍人四人がポンコツだとも言える。特に若い女性二人は、一撃で倒せず余計に苦しませていた。


 そんな苦しむゴブリンを見せて、「お前の所為で苦しんでいるのだから、お前が止めを刺せ!」とローネが怒っていた。無意味に敵を苦しませるのは拷問と何も変わらない。それを理解しろと、烈火の如く怒り狂っていた。


 エイジ達はとっくに理解しているので何も言わず、「自分達にもそういう頃があったなあ……」と見守っている。コボルトに関してはユミは戦えるが、軍人四人は無理なのでエイジ達が主に倒していた。



 「しっかし、ここまでこの星の軍人が脆いとは思わなかったぞ。遠距離武器ばかり使っている弊害だろうな。己の手で敵を殺すという事をまるで理解していない。感触にギャーギャー言い、相手を殺して青い顔をするなど新兵と変わらん。お前達は本当に軍人か?」


 「そう思えるほどに酷い。おそらくは殺せる相手が少ない事が原因なんだと思うけど、これからはダンジョンに行かせて殺しの訓練をさせるべき。武器はメイスを使うのがいい。とにかく壊れ難い武器で練習、これしかない」


 『流石に一国の軍人が敵を殺せませんでは話にならんからな。遠距離武器では殺せると言っても、それでは何の自慢にもならん。これから先、魔法やスキルを使う奴が増えれば近接戦闘は必須だぞ? その時にこの国の軍はどうする気だ?』


 「「「「………」」」」


 「まさか祖国の軍人がここまで腑抜けになっているとは思わなかったよ。必要なら人間でさえ殺さなきゃいけないっていうのに、魔物相手でさえコレとは……先が思いやられるねえ。爺や婆にやらせた方がマシかもしれないよ、これじゃあ」



 ボロクソに言われているが、それぐらい殺しで怯えるというのは駄目なのだ。自分の手で殺すというのは、相手の命という”感触”を得て初めて現実になる。その現実を背負って戦えないと話にならない。それで駄目になるなら、訓練しただけの素人と何も変わらないのだ。


 軍人である以上、殺し合いの中で戦えなければいけない。近接戦闘がこれから増えていく以上、銃しか使えませんでは兵士になれない可能性すらある。しっかり殺しを乗り越えてもらおう。その為にも軍人四人にゴブリンを殺させていく。


 元々訓練している以上、体力はあるので連続でも問題無い。なのでゴブリンが出たら戦わせ、コボルトならユミかエイジ達に倒させる。ネルが手鏡を持っているのでウロウロしつつ進み、5層に到着するとボス部屋だった。



 「5層でボス部屋って事は、このダンジョンはボスが多そうですね。代わりに休憩出来る場所が多いと考えれば、それはそれでアリですけど。そういえば初回のボスって軍の人は既に知ってるんですか?」


 「大きなゴブリンと普通のゴブリンが10体出てくるそうだ。軍は銃で一掃したから相手の強さなどは分からんそうだが……」


 「ホブゴブリンだろうなー。5層でハイゴブリンは流石に出ないだろうと思う。銃があれば突破は出来るだろうけど、途中で絶対に殺されるな。銃さえあればダンジョンが攻略出来るかって言えば、そんな甘いもんじゃないし」


 「何より奥まで行くのに体力がいるもんねー。歩き詰めで大変なんだよー。現実のダンジョンは体力勝負なところがあるから、地図を描いて最短ルートを通って、なるべく体力を温存して進むしかないのー」


 「身も蓋も無い現実だけど、実際にダンジョンなんて物があればそんなものかい。まあ、良い運動になるから気にしなくてもいいかねえ。体が物凄く若返ってるから、本当に軽いんだよ。若いって素晴らしい事さ」


 「軍人さん達は少しは体力が回復しました? 少しでも休憩で体力を回復できるようにしておいた方がいいですよ。そうじゃないと逃げる体力が無くなって死ぬしかなくなりますから。生き残りたければ、逃げる体力は常に温存しておく事です」


 「「「「はい」」」」



 何だかエイジ達が上官っぽくなっているが、軍人四人はようやく彼らの生きてきた道が過酷だったと理解したようだ。盗賊を殺し、魔物を殺す。文字にすればこれだけだが、そこには多くの苦労と覚悟があったに違いない。自分達は軍人だというのに……そんな風に考えているのだろう。


 ミク達が居たのでそこまでの苦労はしていないのだが、エイジ達は敢えて何も言わなかった。言ったところで訂正できる気がしなかったからだ。おかしな思い違いをしている人に何を言っても無駄であり、だからこそ黙っているのである。冷静になってから訂正すればいいやと。


 休憩も終わりボス部屋に入ると、事前情報通りにホブゴブリンとゴブリン10体が出てくる。エイジが一番前に行き<集目の盾>を使って敵の目を集め、寄ってきたところにシロウが【爆音衝撃サウンドショック】を放った。


 それだけで敵は気絶し、後は殺していくだけの作業だ。当然軍人四人にもやらせるのだが、嫌そうな顔で潰していく四人。そろそろ慣れないもんかとエイジ達ですら思い始めていた。しかしそれは間違いである。何故ならエイジ達には【精神耐性】があるからだ。


 一切スキルを持っていない四人と、最初からスキルを持っていたエイジ達。それは同じではないのだ。「それにしても慣れない奴等だねえ」とユミも思っているみたいだが。訓練だけの軍人とは大凡おおよそこんなものなのだろう。


 そんな風に考えていると全て倒したのか、ミク達は次の層へと転移させられる。今度も平原だったので、おそらく同じ地形が10層続くタイプだろうと当たりをつけた。少し周囲を感知系スキルで探ると、フォレストベアを発見する。



 「この層からフォレストベアが居るんだけど、陸軍はここまで来てるんでしょ? フォレストベアにその銃っていうのは効いたの? その辺りを聞いておかないと今後の方針にも関わるからさ」


 「あー……えー……まあ、いいか。私達の通常兵装である<14式歩兵突撃銃>では、かなりの数を撃たないと倒せない事が分かっています。特に胴体を狙っても無理で、ひたすら顔というか頭に撃ちこむ必要がありますね」


 「となると、場合によらなくても赤字かな? まあ、向こうにフォレストベアが居るから、エイジ達に倒させようか。フォレストベア程度だとエイジ一人で問題ないけど一応ね」


 「まあ、そうですね。とはいえ、エイジが流してミキちゃんが切りつければ終わりますけどね。いつもの必勝パターンその一」


 「必勝パターンその二は、エイジ君が流してミキちゃんが攻撃。それでも耐えた魔物にはシェルさんの突きをプレゼント。ちなみに必勝パターンその三は、シェルさんの後にオーロさんが突撃するよー」


 「そうやって自分達なりのパターンを作っておく事は重要だ。そしてそれに固執しない事もな。そのパターンで倒せないとなれば、相手の強さを計れるだろう? そういう事を含めて、戦いの事前準備は非常に大事なのだ」


 「そう。勘違いしている者もいるかもしれないけど、戦いというのはバカではできない。敵の前で戦う胆力。冷静に自分のやるべき事を果たす集中力。敵を冷静に分析し弱点を攻める知恵。頭が良くないと戦闘は熟せない」


 『力があれば良いと思っているバカは真っ先に魔物の餌食となる。何故なら魔物は頭が悪くないからだ。奴等の頭は敵を殺して食う事に特化しているが、その分野に関してはかなり頭が良い。だからこそ注意せねば殺される』


 「「「「………」」」」



 これからエイジ達の模範的な戦いが始まるが、それを固唾を呑んで見守る軍人四人。彼等が緊張していても、エイジ達に緊張は無かった。だってフォレストベアだし。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ