0250・魔物との戦いとは
スキルなどが随分増えているので、結構前に作っていて忘れられている薙刀をアイテムバッグから取り出す。
竜鉄で作られている薙刀なので非常に切れ味や耐久力は高いのだが、それでもエイジ達の装備よりは落ちる。そこは説明したが、竜鉄という素材に唖然としているようだ。……軍人四人が。
「我々は銃を持っているから構わないのですが、それでも竜鉄とやらで銃が作られれば、より良い銃が作れるだろうとは思う。それが良いのか悪いのかは別にして……ではあるが」
「銃って、この星の兵士なんかが標準装備しているそれでしょ? 言葉は悪いんだけど、それ使ってもあまり意味ないと思うよ。最も大きな部分は掛かる費用が合わないって事が大きい」
「刃物なら適当に【清潔】でも使えばすぐに綺麗になるが、それは一度撃つとそれだけで金が掛かるのだろう? 少なくない金が一度の攻撃で消費されていく。すぐに借金塗れになると思うが……」
「そんなにですか? 私達も戦闘用ナイフとか持っていますけど……」
「ミクならナイフでも問題ない。それどころか、ナイフ一本でドラゴンすら殺すのがミク。それはともかく、素人に必要なのはリーチ。とにかく近接戦闘は避けるのが基本。遠距離武器に特化した兵士は接近戦に弱い」
「「「「………」」」」
流石に「ムッ」としたのもあるのだろうが、それ以上にミクがビデオカメラを回しているので、しっかり反論しておかないとマズい。そう思い口を開きかけたが、東の機先を制するようにローネが話していく。
「お前達は分かってないのだろうが、相手は魔物だぞ? 人間種の兵士ではない。必要なら噛み千切りにくるし、爪で薙ぎ払いにくる。相手は毛と皮と脂肪と筋肉の塊だ。ただのナイフ一本で勝てると思うのか?」
「「「「………」」」」
「相手は人間種みたいに、簡単に刃物が入ったりしない。毛で滑らされ、皮で受け止められる。脂肪は衝撃を吸収し、強力な筋肉で押し返される。人間種など足下にも及ばないパワーとタフネス。それ相手にナイフ一本でどうする?」
「「「「………」」」」
『ここに居るのはゴブリンとコボルトだ。コボルトはともかくとして、ゴブリンは人間種の皮膚とあまり変わらん。だからこそ大した事はないと思ったのかもしれんが、そんな考えだとフォレストベアに殺されるぞ』
「それにしても、ユミって普通に戦えてるね? 思っている以上に根性も覚悟もあるみたい。結局のところ、最後にものを言うのはこういう部分なんだよね。根源的な生きるという意志と、敵を殺すという殺意。これこそが一番重要なんだよ」
ゴブリンが近付いてきて棍棒片手に襲ってきていたのだが、上手くゴブリンの攻撃をかわしたユミは更にバックステップで離れ、脇構えだった薙刀で足を切り、倒れたゴブリンの脳天に振り下ろした。
明確な殺意を持って敵を殺す見事な一撃であり、ミキが驚いた程である。
「おばあさ………ユミさんの戦い、見事でした。……あーもう、何か慣れないよ。それにしてもユミさんって、あそこまで戦えるって事は軍に居たのは事実なんですね」
「ははははは……私が嘘を言うわけないだろう。短い間ではあったけどね、それでも軍人として敵を殺したのは間違い無い事実さ。………その物言い、ミキはもしかして初陣で派手な失敗でもしたかい?」
「うっ……そ、それは………」
「剣を持って戦えそうな気がすると言って、剣を借りたんだけど……へっぴり腰で失敗して、あわや相手のナイフで刺されるところだったよ。何故かその時、俺の【挺身】のスキルが発動して代わりに刺されたけど」
「そうそう、あの時はビックリしたよな。急にエイジがミキちゃんを飛ばして、代わりにゴブリンのナイフが腹に刺さってたもんな。抜いたら腸が出るから抜くなって言われて、オレ達パニックになってたっけ」
「あー……ミキ、あんたもしかして?」
「はい。その時に昔助けてもらった事を思い出したんです。フラッシュバックするように重なって、気付いたら泣きながら「死なないで」って言ってました。邪魔だと言って横にやられましたけど……」
「そうだったねー。その後、ミクさんが魔法であっさり治してくれたんだよ。結局それで治ったんだけど、その後からミキちゃんはエイジ君にべったりだよね。ずっと傍に居るし、あっさりカラダの関係も持ったし」
「それはね。良いなって思ってた人に助けて貰って、死んじゃったんじゃないかっていう衝撃で忘れてたけど、もう一度命を助けてもらった訳だし……。私だって女だから、しょうがないよね?」
「成る程ねえ。興味があったというか、良いと思ってた男に2度も助けられたら、そりゃあ女が燃え上がるのも仕方ないかい。で、あっさりとヤっちまったと。まあ、若い時は情熱で動いて良いんじゃないかと思うよ、私は」
「お互いに初めてだったので、ミクさんから精力剤と媚薬を貰ったんだっけ。アレって怖ろしく効くからビックリするんだよな。鑑定では神様の作った薬だって出てるし、初めてでも大丈夫って出てたし」
「何だい、そりゃ。初めてを台無しにする薬を神様が作ったっていうのかい? 風情も何もあったもんじゃないねえ!」
「神様は作っただけで、使うかどうかは本人次第って出てました。私は嫌な思い出にしたくなかったので使いましたけど……。ま、まあ……初めてだったのに物凄く気持ちよくて、恥ずかしい事をいっぱい口走ってしまいました」
「そういえば結局流されたけど、恥ずかしい事って何だったのよー。ほら、ここには皆しかいないし、言っちゃえ! 言っちゃえ!」
「軍の人だって居るでしょう!? 絶対に言わないよ、恥ずかしい事なんだから!!」
そんな和気藹々というか、楽しそうな雰囲気のまま進んで行く。そもそも恥ずかしい事を口走っているが、ミクがビデオカメラで記録している事を忘れているのだろうか?。
そしてミキが話している最中、ユミがミクの方をチラチラ確認していたのに気付いていないようだ。
孫の恥ずかしい言葉を記録しているのに、ミクの方に向かってサムズアップしていたユミ。絶対にカットせず流すつもりである。祖母から孫への援護射撃なんだろうが、全世界に見られるという事を理解してやっているので性質が悪い。
エイジ達も一人ずつ戦っているが、危なげなく勝利している。ここはゴブリンやコボルトしか出ない層なので、勝つのは当たり前であり、ザコとの戦いに危ない場面などない。それよりも軍人四人が問題だった。
ミクの使っていた<剣王竜のメイス>を貸してやったというのに、おそるおそる戦うし、挙句の果てにはへっぴり腰である。軍人がこれでは話にならない。そのうえ、頭からシャワーのように血を噴出している姿を見て吐く始末である。
ユミでさえ顔色を変えていないというのに、軍人がこの体たらくでは話にもならない。ミク達は急遽方針を変更し、ユミと軍人四人を鍛える事にした。本体が急ピッチで竜鉄のメイスを量産し、四人に一つずつ渡す。
それを青い顔をして持つ四人。軍人なんだから少しはシャキっとしろと言いたいが、この状態では何を言っても無駄である。新兵の病気に近いものであろうが、自分の手で何かを殺すという事に慣れてもらわないと困るのだ。
こいつらを仕込んで、それを陸軍に広げようと思っている身としては、この程度の事で立ち止まらせる訳にはいかない。なので荒療治をする事にした。




