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0245・エイジの家族




 「「「………」」」


 「「「「「………」」」」」



 ここはエイジの家族が居る個室。ミキの家族の所と変わらず沈黙が支配していた。ただしミキの居る個室と決定的に違う箇所があり、それはお互いに何を言っていいか分からない事だ。そういう理由で沈黙している。


 エイジは一緒に居るシェルとオーロをどう紹介するべきか悩んでいるし、家族の方は変わったエイジと他の星の女性たちにどう接していいか分からない。そんな沈黙も、エイジの姉が連れた子供が破る。



 「………びえーん!!!」


 「あ、ああ。もしかしたらだけど、そろそろお乳の時間じゃないの? ちょっと他の「少しお待ちを」個室を借りて……」


 「あの……私がお乳を上げて良いのであれば、私が上げましょうか? 魔力も豊富になりますし、きっと子供の為にも良いと思うんです」


 「あらあら、良いの? ならお願いしちゃいましょうよ。本当に魔法というものがあるそうだし、これから魔法があるのが当たり前になっていくんでしょう? だったら魔力っていうのが沢山あった方がいいわよね!」



 そう言ってエイジの母親が娘に言うと、娘の方も案外乗り気で子供を渡す。旦那の方は良いのか? と思っているが、子供の為になるなら口を挟む気は無いようだ。ちなみに赤ん坊は、早速勢い良く飲んでいる。よほど美味しいらしい。



 「それにしても姉さんに子供がねえ……いや、オリジナルの記憶はあるんだけどさ、複製された俺も居る訳で……。あの暴力姉さんが子供を産むって……あ、いえ、何でもないです」


 「何と言うか……影二は変わったな。昔より明るくなったし、眼鏡は無くしたようだが面影は残っている。そう思えるくらい変わったなぁ。痩せるとそこまで変わるなら、もっと早くに痩せられたろうに」


 「これは【超速回復】の効果で痩せたんだし、痩せて速く動けるようにならないと死んでたしね。正直どうこうと考えている余裕はそこまで無かったよ。皆が居てミクさん達が居てくれて何とかさ。俺達だけなら絶対に死んでた」


 「そんな事が……まあ、影二がそこまでになるくらいだ、本当に色々とあったんだろう。それよりも、そろそろいいかな?」


 「ああ。こっちが蛇女族ラミアーの女性で、シェル。こっちが牛人族の女性でオーロ。結婚しなければ四人で一緒に居られると思うんだ。だから結婚は出来ないかなぁ……」


 「やっぱりそういう関係だったのね。申し訳ありません、もし下らない事を言われているのでしたら……」


 「申し訳ないんだけど、それは私達をバカにしてるよ。私達は私達の意志で旦那様を選んだんだ。一人の女として、添い遂げる男を選んだんだよ。それを間違いだと他人に言われたくはないんでね」


 「……申し訳ありません。ですが、うちの影二がそこまでですか……。親としても、そこまでだとは思えないんですけどね」


 「まあ、頑張るから見ててよ。これからはダンジョンに潜る仕事もおそらく出来るだろうし、そうなると別の星で戦ってきた経験は必ず生きる。盗賊だろうが魔物だろうが殺して生き延びてきたんだ。それはこれから役に立つよ」


 「人殺し……それを誇るのもどうかと思うけど? 私も数日経って仕方ない事だと思うんだけど、それでも……」


 「姉さん。そんな考えだと、子供も含めて殺されるんだよ、あの星じゃ。生き残る為には、生き残る強さが要るんだ。くだらない寝言を言っていると殺されて奪われるんだよ。殺された後に犯されるんだぜ? しかもそれが普通ときてる。正直、経験の無い人に何かを言われたくはない」


 「「「「………」」」」



 シェルとオーロの雰囲気からも冗談ではないと分かったのだろう、流石にその話題を続ける事はなかった。殺さなければ殺されるという過酷な環境を生き延びてきた相手に対し、労う事なく攻撃するのは如何いかがなものか。


 そう言われるのは当然であるし、殺し合いしかなかった相手に他の選択肢をとれという事、その事自体が傲慢でしかない。殺さなければ殺されるという環境を知らないからこそ言える事でもあろう。シェルとオーロはエイジの姉を下方修正した。


 子供が母乳を飲んでお腹いっぱいになったのだろう、眠り始めたのでオーロはすぐに子供を返した。どうやらシェルとオーロの機嫌を損ねたらしいと分かったのか、すぐに話題を変えてきた。



 「そういえば影二、高校はどうするんだ? お前はここに居なきゃいけないみたいだし、未だ出る事は出来ないのだろう? 学校は特例で出席している事にしてくれているらしいが、このままではな」


 「言いたい事は分かるけど、軍の人達に聞かないと分からないよ。俺達に異常は無かったし問題無いけど、外の反響が凄すぎて出すに出せないんだってさ、もし外に出したら周りを囲まれるか、最悪他国に拉致されるって言われたよ」


 「「「「!?」」」」


 「拉致ってお前なんで!? いったい何をしたんだ影二」


 「俺じゃないよ。いや、俺なのかな? とにかく魔法とかスキルとかの使い方を知っている奴っていうのは、各国は喉から手が出るほど欲しいんだって。最悪は拉致して無理矢理連れて行く可能性があるって言われたよ。さっきの人殺しの話じゃないけど、コレが現実なんだ」


 「「「「………」」」」


 「分かる? ヤマト皇国だって、本当はそんな平和な国じゃないんだよ。ただ表面上は平和に見えてるだけ。それがこの国の実態であり、皆に見えないように軍の人が毎日頑張ってくれているのが現状だよ。一度命のやりとりを経験すると、馬鹿みたいな妄想には囚われなくなる。それは間違いない」


 「「「「………」」」」


 「まあ、ミクも言ってたけど、人間種が欲からの争いをするのは自然な事さ。私達だって人間種だけどね、結局そこから離れる事は出来ないんだ。もし争いをするなんて間違ってるって思うなら、そういう事を言う奴が間違ってるんだよ」


 「そんな! そんな事は……!」


 「ミクさんは言ってましたよ。争いが間違っているなんて愚かな事を言う奴は、争いを他人に押し付けて、その利益だけを貪っているクズだと。その事すら理解しない愚か者だと。殺し合いでなくとも、利益の奪い合いはずっと続く。それが人間種の欲だと、そうおっしゃっていましたね」


 「………」



 流石に堪えたのか口を開かなくなったエイジの姉。結局、親族といえども決定的に道を違える事はあるんだなーと、暢気のんきに考えているエイジ。何故なら、即座に諦める事が出来たからだ。


 意識を切り替えないと死ぬ可能性がある中で生きてきたのだ、良い悪いは別として、駄目なら即座に切り捨てるという意識は既に出来ている。自分が思っているよりもドライだと思うも、よくよく考えれば優先順位を付けているだけだと理解する。


 ローネやネルから徹底的に扱かれた事がこんなところで生きてくるとは思わず、つい笑ってしまうエイジだった。それを疑問に思う家族に、エイジはハッキリと言った。



 「父さんや母さんはともかく、姉さんは俺の中で順位が高くないって分かっただけだよ。生き延びたければ優先順位を付けろ。要らない物は切り捨てて、助けたい者だけは絶対に助けろ。そう教えられたんだ。殺し合いの環境じゃ、全員を助けるなんて絶対に不可能。だから優先順位を付けるんだよ、トリアージみたいに」


 「………」


 「ダラダラ生きられる環境と、生き延びようとしなければ生きられない環境は同じじゃない。ダラダラ生きている奴に善を説かれても、過酷な環境の連中は激怒するだけさ。なら、お前がこの環境でやってみせろ。そう言われるのがオチだ」



 どうやらエイジは予想以上にあの環境に順応していたらしい。良くも悪くも、姉の無意識の見下しに対して喝破した。あんな環境でも生きている人達は沢山いる。無条件に見下される筋合いは無い。


 エイジはそう思ったのだろう。


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