0024・使い魔ヴァル
「他にも色々な姿になれるって言ってたけど、具体的にはどんな姿になれるの?」
『他は主が喰った相手だな。ゴブリンやオークにコボルト、それに盗賊どもにもなれる。あの娼婦にもなれるぞ? 主が洞窟で喰った奴だ』
「ああ……アレにもなれる訳ね。そういえば私が喰ってきたモノなら何にでもなれるのなら、何で最初は三つも頭がある狼だったの?」
『アレは主がそこの狼を美味しそうだと思って見ていたからだな。主の食欲に影響を受けてあんな姿になった。頭が三つの理由は俺にも分からん』
「うう……話す度に<魅惑の声>が聞こえてくるのがツラすぎる。あの声は耳の奥に甘く響くのよ! だって私、女だもの!!」
「「ええ! 仰る通りでございます!!」」
魔女が馬鹿な主従を白い目で見ているが、そんな事はお構いなしに阿呆な会話を続ける三人。先ほどの立ち位置とは逆になってしまっている。そんなワチャワチャ空間を元に戻す人物が目覚めたようだ。
「う、うう……何だか猛烈に嫌なモノを見たような。アレはいったい何だったのだ? 思い出せない……」
「あら? やっと起きたのね、イスティア。貴女が寝ている間に色々あったけど、全て纏めて貴女には関係無いから、気にしなくていいわよ」
「それは確かにそうね。特に関わりも無いし……というか、貴女そもそも何をしにきたの? 黄昏に会いにきたと行ってたけど、他にも何か言ってたわよね?」
「ミクなら目の前………は? ミクが二人………。えぇーーーーーーーーっ!!!!」
使い魔が褐色肌のミクの姿を晒したままだったので、それを見て驚き絶叫を上げるイスティア。それに対して五月蝿さに頭を叩くゼルダと、顔を殴りつけるカレン。やはり良いコンビなのではなかろうか。
「……私が大声を出したのが原因なのでしょうが、幾らなんでもこの扱いは酷いのでは? 確かに私が悪いのですが、ミクが二人に増えているのですし……驚くのも当然でしょう」
「そうとも言えるかな。そろそろ狼の……いや、食べた中にグリーンフォックスっていうのが居たよね。アレで。後、大きさは邪魔にならないくらいで色は黒」
『やたらに細かいが何か理由があるのか? 別にどんな姿でも俺は構わないが……』
「うう……聞いていると色々キツいから、名前を決めましょう。確か使い魔って名前を付けるのよね?」
「ええ、そうよ。私の使い魔である、この子の名前はアルガ。まあ、貴女は知っているでしょうけど。それはともかく、使い魔と認識出来れば何でもいいのよ。自己とは違う、それでいて自分に一番近い者といったところかしら」
「名前はヴァルドラースで決まりよ。絶対にこれで決まり。そもそもミクは何でも良いって言うに決まってるし、適当な名前を付けられるくらいならヴァルドラースで決定!」
「別に良いけど、何でその名前を推してくるの? 何か理由があるなら聞かせてほしい」
「ヴァルドラースというのはね、昔に居たアーククラスの吸血鬼の真祖の事よ。私は会った事が無いし、私を吸血鬼にしたゴミは私が喰ったんだけどね。ソイツから何度も聞かされたのよ、<青の鮮血>の話は」
「<青の鮮血>って私も師から聞いた事があるわ。確か貴公子のような人物だった筈よ。貴族は青い血が流れている何て言うけれど、本当に貴族の手本のような人物だったそうね。実際に領地も持っていたらしいし」
「ふーん、でも長いから却下。短くしてヴァルと呼ぼう。それでいいでしょ?」
『俺は何でも良い。それよりも狐のこの姿が何故いいんだ? 他にも主の役に立つ姿はあるだろうに』
「そこの狼と被るから狼は駄目。何か多いらしいし。次は移動に便利な馬だけど、これを選んでもねぇ……体の大きさが変えられるなら微妙なのよ。となると、乗りやすそうな奴が良いとなる」
『成る程、それで狐の姿か。特に考えもせず、適当に決めたのでは無いのならいい。それより誰か来たぞ?』
ヴァルがそう言うと、そのすぐ後にドアがノックされてオルドラスが入ってきた。何でも夕食の準備が整ったらしい。
それを聞いた全員が、夕食を食べに食堂へ移動していく。何故かイスティアは放置されているが、これが彼女の立ち位置なのだろう。
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食堂で夕食後、何故か再び体を拭かれているミク。特に気にしていないものの、面倒くさいという気持ちは無い訳でもない。とはいえ食事をさせてもらい、泊めてもらってもいるので文句までは言わない。
そしてその横で同じく拭かれているカレン。ゼルダが呆れているものの、カレンもまた美しい肉体である事に間違いは無い。芸術品の一つと言えよう。二人を拭き終わったら今度はゼルダとイスティアだ。
イスティアは恥ずかしそうにしているが、美の化身と二人の美女と比べられると思うと仕方がない。子爵令嬢として鍛えられている美しい肉体なのだが、それでも見劣りするのが悲しい現実だ。
二人も拭き終わった後は、いつも通り裸での雑談を続ける。その内にオルドラスも含めて全員が集まり、いつもの夜になっていく。尚、この夜オルドラスの相手をしたのはヴァルだったが、ヴァルはミクと同じく気にしていない。
ゼルダとイスティアは、この夜初めて「耳の奥に甘く響く」という言葉の意味を理解したのであった。
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明けて翌日。全員が起きた後に、イスティアの要件を聞く話の流れになった。そもそも彼女のミクに対する用とはいったい何だったのか。忘れられていた気がしないでもないが、ミクは思い出したのでイスティアに聞く事にしたのだ。
「私がミクに話がしたかったのは、協力をお願いしたかったからだ。ミクは相手を必ず喋らせるという特殊な【スキル】を持っているだろう? <人喰い鳥>の連中を捕縛したのだが、やはり奴等に喋らせるのは無理だった」
「そいつらの口を無理矢理割らせろって事? 別にいいけど、そんな事の為にワザワザ来たんだね」
『ワザワザではないと思うがな。無理矢理に口を割らせるというのは、常識的に見て難易度が高いのではないか?』
「「「「「!!!」」」」」
未だにヴァルの声には慣れないらしいが、昨夜を経て二人追加されたようだ。ゼルダは声を聞いただけで顔を赤くし、イスティアに至っては両手で顔を覆っている。少なくとも主従はすぐに落ち着けているようなので、そのうちに慣れるだろう。
「それにしても、領都までまた行かなきゃならないのかぁ……。よく考えたらヴァルが居るんだし、乗っていけばすぐに着くね。なら移動が暇って事も無いのかな?」
『主の場合は暇というより、普通の人間種を装うのが面倒なだけだろう。気持ちは分かるが、俺に乗っていれば誤魔化せるだろうから、その部分は今までより楽になる』
「それだけで十分だよ。わざと遅く移動したり、いちいち人間種はって考えるの面倒くさい。しかも人間種を装う所為で、食べられない事も多いしさー」
『主に色目を使っている町の奴等か。それだけ主が美しいからだろうが、あのような流れになるとは……。人間種というのは面白いと思わざるを得んな』
「私にとっては邪魔なだけ。あいつらがクズをボコボコにする所為で、私が外で襲われないんだよ? 御蔭で喰える筈のゴミどもさえ喰えてない。本当、イヤになる」
町の者達が望んでいる方向とは真逆になっているのだが、ミクは止めろとも言えない為、それはこれからも続きそうである。




