0244・ミキの家族
話も終わり、そのまま食堂で夕食をとる事になった。適当に取りに行って席に戻ってくると、エイジ達も食堂にやってきた。ところが、あからさまにミキが上気した顔をしており、さっきまでヤってましたと言わんばかりの雰囲気を出している。
エイジは苦笑いしているものの、シェルとオーロは呆れていて、イマイチ何があったのか判断がつかない。ミク達の近くにミキを座らせて食事を取りに行ったので、とりあえずスルーする。聞く事なんて面倒な事はしないミク達であった。
そのままスルーされたミキは食事中に正気に戻っていたが、その後は恥ずかしそうに食事を続けていた。最後まで何があったか分からなかったが、聞いたところで惚気が始まるだけである。
その事は東達にも話してあるので、軍人四人でさえスルーした。それが一番良いと判断したらしい。相手は腐っても星川財閥のお嬢様である。余計な事は言わないに限るのだ。軍人たる者、処世術は立派に身に着けている。
昨日と同じ部屋に戻りローネとネルを撃沈した後、分体を停止して監視をしながら遊ぶミク。ヴァルは魂に戻って休んだ。
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あれから10日。検査やその他を終え、何も異常が無く、かつ病気も持っていない事が分かった。既に軍の建物を出てもいいのだが、世間の騒ぎが尋常ではないのと狙われる可能性が高い為、未だに保護という状態で陸軍本部に居る。
そんなこの日、それぞれの高校生は親族に会っているらしい。ミク達は朝から演習場で、陸軍の軍人相手に魔力の感じ方や動かし方などを教えている。それを撮影中でもあるので、軍人連中は全員真剣だ。まあ、魔法を使う為なので元々真剣ではあるのだが……。
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「………」
「「「「「………」」」」」
ここはミキが居る個室。星川家の親族とテーブルを挟んで対面しているが、どちらも表情が硬い。ミキは臨戦態勢かのように構えており、そんなミキに親族が困惑しているというのが正しいだろう。
ミキが抜き身の刃のようなオーラを出しているので、迂闊に話しかける事が出来ないのだ。
「……いったい何の御用でしょうか? 少なくとも何かあるから来られたのですよね。で、あるならば用件をどうぞ」
「………ふぅ。どうして美輝がそこまで私達を圧迫してくるのかは分からないが、聞くところによると家に居た時より随分と雰囲気が良いと聞く。それは何よりだが、複製されたという世界で何かあったのかね?」
「………私が何故男性嫌いになったのかを思い出し、その元凶の一人は殺されました。……その男の名は西条董二。複製された世界にあの男も複製されており、複数の女性を無理矢理にスキルで操って弄んでいました」
「「「………」」」
「何故か私はその事を忘れていましたが、その事は都合が良かったのでしょう。私には真実を全く教えませんでしたね? 私が一般人の子供を好きになっては、星川家の為の駒として使えませんから仕方ないのでしょうが……」
「違うぞ、美輝。私達はそんな事など考えていない! ただ、お前の為にも思い出させない方が良いと思ってだな……」
「世界の星川財閥です。子供を使うぐらいは普通の事でしょう、従業員だけで何百万人ですから当然とも言えます。ですが、それなら自分達を先に犠牲にしてから言っていただきたい。そして、私は貴方がたの駒になる気はありません。星川家と無関係になる為なら、私は他国に情報を売りましょう」
「「「なっ!?」」」
「先ほども申しましたが、私に真実を知らせないで都合よく使おうとした。この時点で親族であろうが何であろうが信用などしません。親族ほど争うもの……そうですよね、御祖母様?」
「………ふふふふふふ。まあ、その通りさね。昔からそんな事は変わらないよ。星川という家の為、多くの者が犠牲になってきた。確かに昨今の星川は親族を犠牲にせずとも済んでいる。とはいえ、犠牲にするなら自分から先にしろというのは当然だろうねえ」
「「「「………」」」」
「まあ、私としては美輝が出て行くというなら、それでいいと思うよ。ただ勘違いはしてほしくないね。美輝、この子達はあんたを使う為に教えなかったんじゃなく、単純に相手の男の子、暗持影二君に興味が無かっただけさ」
「御祖母様は知っておられたのに……ですか?」
「私は独自に調べたからねえ、だから知ってるんだよ。とはいえ、隠居したのがしゃしゃり出てもしょうがないから黙ってただけさ。何か理由でもあるんだろうと思ってたんだけどね、単に興味が無かっただけだと分かった時には呆れたよ。相手の男の子にお礼の一つも贈らなかったしねえ」
「「「「………」」」」
「信じられない。何が品行方正に生きろ、なのやら……鼻で笑うような事をよくも口に出せましたね。貴方がたも西条董二と変わらない人間ですか?」
「流石にそれは言い過ぎだろう。宗家のクズは、宗家の手で秘密裏に処刑されてる。何たって小学生の美輝を手篭めにしようとしていたクズだ。当然ながら向こうが始末するさ。ただ、あんな男が複製されるなんて事があるとはね」
「私を魅了系のスキルで無理矢理に支配しようとしてきましたよ。最後はミクさんに貪り喰われて死んだそうですけど。まあ、間違いなく喰われて死んだでしょう、ミクさんはダンジョンマスターを殺せと神様から命じられていたそうですし」
「あの妙に整った怪しい女の事かい? 普通あんなのはあり得ないんだけどね。あの女は整い過ぎている、まるで作り物のような女さ。自然さがまるでない。精巧な人形が動いているみたいだよ」
「流石は御祖母様と言うべきなのか……。ミクさんは肉塊です。本来の姿は宙に浮いている肉の塊。それが美しい女性の形になっている。それがミクさんであり、本質は<喰らう者>。星でさえ喰らい尽くす、正真正銘の怪物」
「「「「………」」」」
「あー……そりゃ何かい? 私達の命は、あの作られた美女に握られてるって訳かい?」
「そうです。ただ、神様が好き放題喰い荒らすのは止めて下さっていて、ミクさんも神様相手だと勝てないので命令に従っている……と聞きました、神様を愚弄したり、悪徳な者は喰っていいと神様は認めているそうですね。スラムの住人が、次の日には全員消えていたという事もありました」
「あーあー、そりゃ駄目だ。どうにもならないねえ。トトゥルブ神話に出てくる神話生物みたいなもんかい。どう考えても勝てないじゃないか……となると、敵対せずに流した方がいいね」
「ですね。放っておけばヤマトに居る工作員も、消えるか善人に洗脳されている筈です。ミクさんは洗脳する為の薬も生み出せますから。後、あらゆる病気を治す薬も作れますから、御祖母様は貰って飲んだらどうですか? 交渉は出来る方ですよ、理性がある方ですので」
「ふんふん、成る程ねえ。話してみる価値はありそうだ。ああ、私は美輝が家を出る事には賛成だからそのつもりで。後の事はそっちで何とかしな。まともな親子関係を作ってこなかったお前達が悪いんだ、諦めな」
「「そ、そんな……」」
「そもそも、そこに後継者は居るだろう。お前より優秀なのが。それが嫌なら養子でも入れな。星川という家が存続すりゃ良いのであって、血が繋がる必要なんてないんだからねえ」
どうやら美輝の祖母こそが星川家のドンらしい。どうにも他の連中が小者に見えて仕方ないが、それでも何だかんだと言って続いていくのだろう。ミキの兄は優秀らしく、最初から口を出してはいなかった。ただし興味も無いようであったが。
ミキもあまり話した事は無く、兄の事をよく知らない事を今さらながらに思い出すのだった。結局、自分も家族の事を知らないという事を。




