0243・ダンジョンについて
東達四人はミク達からの聞き取りを終え、ひとまず安堵していた。おかしな情報が流出しなかったのは良かったが、代わりに厄介な宗教関係のおかしな情報が流れてしまった。特に神に関する事は神経質にならざるを得ない。
「神どもの事? それを私達に聞かれても困るんだよね。そもそもアイツらが何してるかなんて殆ど知らないし。更に言えばだけど、アイツらって教えてもいい事しか教えないんだよ、幾ら聞いてもさ。だから聞いても無駄」
「そもそも我ら神子に対しても殆ど干渉される事は無いしな。ミクと出会ってからじゃないか、ここまで干渉されるようになったのは。それが良いか悪いかは微妙なところだな。もっと早く教えてほしかった事もあれば、修行が厳しすぎるとも言える」
「修行はね。色々大変だし、凄まじい努力を積み重ねるしかない。そもそも<神術>と言われるものは難易度が高すぎる。私達のような神子しか使えないとはいえ、流石に100年では足りないほどの修行が必要」
「100年ですか………それはともかく、神に関しては分からないという事ですね? この星では宗教者が多くてですね。まあ、我が国にも居ますけど、我が国の宗教者は緩いんです。ですが他国の宗教者はですね……」
「ああ、神どもが絶対とかいう奴等なんでしょ? エイジ達から聞いてたけど、そういうバカも居るんだろうねーってくらいかな。正直言ってどうでもいいし、神どもが人間如きの言葉を聞くわけないじゃん」
「まあ、当然だな。そも、人間種にとって都合のいい神など妄想の中にしかおらん。そんなものと神を同一視する事自体が、不敬そのものなのだがな。分からん者には分からんのだろう」
「神を己らの都合の良い道具としか思ってないから、そんな下らない妄想をする。そしてそんな醜い者どもを、神が救われる事は無い。剣造という者にも言ったけど、広大な宇宙がいったいどれだけ在ると思ってる? その中のちっぽけな一つの星に、神が救いの手を差し伸べる事は無い」
「「「「………」」」」
「まあ、神どもの事はもういいじゃない。それより他にも何かあるの? 後、宝石の件はどうなった?」
「ああ……宝石に関しては研究所に送る事になった。この星の同じ種類の宝石と本当に同じかどうか成分分析をするらしい。なので、その結果が出てからになる。そこまで時間は掛からないと思うが……」
「もし違ってたら、他の星の宝石という事で高く売れるでしょうしね。ダイアモンドとかルビーとかサファイアとか色々あったらしいですし。全て纏めれば相当の値段になると思います」
「それは良いんだけどさ、この国の軍ってダンジョンに入ってる? 何かそんな気がしなくてさ。ダンジョン内で魔物と戦わないし、魔力も使ってないからスキルを持ってないんじゃないかと思うんだよね」
「魔力の循環も何もしていないという事か。いきなり魔法が使える訳もないしな。エイジ達にも魔法を教えたが、まずは魔力の動かし方から始めねばならなかったので面倒だった。子供と変わらなかったからな」
「普通、子供でも魔力の感じ方や動かし方くらい知ってる。そういうのは自然に学ぶもの。なのに使えないと思っていたからか、魔力の感じ方や動かし方を知らなかった。あれには呆れたけど、よく考えれば、この星はそんな奴ばかり」
「げっ!? ネルの言う通りだ。そんな子供以下の連中に魔法の使い方を教えるの? 私が? ………神どもめ、何でこんな面倒臭い事を私にやらせるのか。自分達が降臨して、さっさと終わらせればいいじゃないの」
「あー……今思ったんですけど、陸軍にも公式サイトあるんですし、そこで魔法の使い方を動画に撮って流したらどうでしょう? そうしたら普及に繋がるのでは?」
「それはそうかもしれんが……いきなり町中で魔法が暴発とか、テロが起きても困るぞ。間違いなく我々の責任だなんだと騒ぐ奴等が出る。特に我が国に対して工作活動をしている連中は多いんだ」
「それは放っておけるのでありませんか? 各国だって魔法の使い方を教えて貰わねば困るんです。自国だけ魔法の使い方が伝わらないとなれば、国民からの突き上げが凄まじいでしょう」
「何処かの帝国は国民に知らせないでしょうけど、それでも止められないでしょうね。国民が力を持つと、今までの政治内容が跳ね返ってきそうですが、我が国以外は大丈夫でしょうか? 正直に言って、我が国以外でテロが頻発しそうです」
「まあ、何処の国もおかしな連中が居るし、我が国にも居るので何とも言えんが……」
「そういう力を持て余している奴等はダンジョンにブチ込めばいいよ。中で勝手に死ぬだろうし、ダンジョンに吸収されるから死体を処理する必要もない。中で襲われて殺される事もあるだろうけどね」
「「「「………」」」」
ミクの一言で、ダンジョン内での殺し合いというものを現実の事だと認識した東達。元々ダンジョンが無かった星なのだから仕方がないのだろうが、認識が随分甘いと言わざるを得ない。邪魔な者はダンジョン内で殺せばいい、そう考える者は必ず出る。
そうなった場合にどうするか……と考えているのだろうが、考えるだけ無駄である。
「いやいや本当に無駄だから。犯罪をやる奴なんて何処にでもいるし、止めろって言ったところでやるよ。だから危険として教えてやればいい。その覚悟を持って入れと言えば済むよ。そもそも怖がる奴は入らないし」
「まあ、そうだな。ダンジョンのある星でも多くの者が入っているが、その内勝手にルールが出来るものだ。入る奴等にしか分からない事もある。権力者が勝手にルールを制定しても良い事なんてないぞ?」
「そうは言われても、我が国は法治国家でしてな。最低限の法律は制定しなければダンジョンには入れられませんよ。それに魔物の素材で武器を作る。いや、違うか。魔物の素材で防具が作れるとなれば、相当変わりますから……」
「防具ですか? 武器ではなくて……?」
「彼女達が着ている革の服だよ。あの程度の防具で銃弾が防げるかもしれないとなれば、当然だが大きく変わるさ。ドラゴンの革とまではいかなくても、もうちょっと弱い魔物の革も上手く加工すれば化けるかもしれない」
「動物の毛皮から化学繊維へ、そして魔物の毛皮。人類史としたら、ちょっと面白い変遷になりそうですね。それでもダンジョンに入って魔物を倒せば手に入るというのが今までとは違うところですか」
「我が国はダンジョンの数が異常に多い。その事も各国が文句を言ってきそうだな。我が国のダンジョンに入らせろと言ってくるかもしれん。特に同盟国と面倒な独裁国家がな」
「一応建前上は独裁ではありませんよ。民主主義の根幹である選挙をしています。最初から最後まで決まっている、式典みたいなものですけど……」
「まあ、とりあえず今日も情報を上にあげておくか。後の事はお偉いさん達に頭を抱えてもらおう。それにしても魔道具の事が拡散されなくてよかった。アレが拡散されてたら阿鼻叫喚の地獄絵図だし、俺達も過労死するところだったぞ」
「それでも<鑑定板>の情報は拡散されてしまいましたけどね。あのライブ動画、絶対にコピーされて拡散されてますよ。何なら配信中にコピーしてたでしょうね。プロテクトをしても突破されますし。特に工作員はそういう技術を持ってる連中多いですから」
「その辺りは情報技術庁の仕事であって、こっちの仕事じゃないな。軍に言ってくるかもしれないが、上が拒否するだろ。あの人達スマコンでさえ碌に使えないし」
スマートコンピューターと呼ばれる物があり、ポケットの中に入るくらい小さく、遠くの者ともすぐに話せるらしい。用途はそれだけではないそうだが……。




