0240・運動能力
食堂に案内されたミク達は朝食を食べながら、東達に説教されているエイジ達を見ている。昨日男女で泊まってヤっていたのがバレたからだ。ちなみにバラしたのはベルで、あっけらかんと事実を言った。そもそも悪い事とは思っていない。
「えー……何でベルが怒られてるの? 好きにヤって何が悪いのか分かんなーい。そもそもシロウがいいよって言ってるし、サエだっていいよって言ってるんだから、関係無い人が口出さないでよー」
「いや、そうは言われましてもね。流石に夏目君は高校生だし、まだ責任の取れる年齢じゃないんですよ。成人とも認められてないので、そういう歳の男の子とですね……」
「まあ、高校生なんてヤりたい盛りだけどな。何だかんだと言って男でも女でも変わらんさ。実際、夏休み明けには誰々と誰々がヤっただ何だという話になったもんだし、そういう歳の頃だからなぁ」
「東大尉! いったい誰の味方ですか!? 今は宿舎でそういう事をしていたという事でしょう! 宿舎でそういう事は禁止ですし、責任のとれない事をしてはいけないのだという事をですね……」
「責任も何も、妊娠しないように【上位清潔】は教えたよね? ………だよね。【上位清潔】以上なら確実に妊娠を防げるんだし、好きなだけヤればいいと思うよ? 病気の元だって綺麗になるし」
「「「「へ?」」」」
「お前達は魔法が無かったから知らんのだろうが、【上位清潔】を使えば性病の元は全て綺麗に落ちるぞ? 実際に感染したら【高位清潔】が必要だが、綺麗にするだけなら【清潔】を何度も使えばいい」
「ミクがエイジ達に言ってたけど、快適な暮らしを送りたければ魔法を使い熟せばいい。そうすれば快適で綺麗な生活は送れる。私達だって服は毎日綺麗にしているし、体も毎日綺麗。これに関してはミクの御蔭だけど」
「俺達だって長くミクさんに綺麗にしてもらっていますしね。流石に【超位清潔】は使えません。そもそもアーククラスの魔法ってシャレにならないレベルですしね。それを普段使いでポンポン使うのは、流石としか言い様がないです」
「体だって服だって魔法であっさり綺麗になるもんな。気付いたら【清潔】を使って手とか綺麗にしてるし。その所為か文化レベルの低い星だったけど、病気は一つもしなかったなー。もちろんミクさんが綺麗にしてくれてたんだけどさ」
その話を聞きながら、東達は聞き取りを先にした方が良いんじゃないかと思い始めていた。今日はエイジ達の体力測定などを考えていたのだが、急遽上にかけあう事を決めてその場を離れる東。
適当に見送って、雑談をしながら食事をする一行。食事後にも【清潔】の魔法で綺麗にするエイジ達。何故魔法を使ったのかと北川が聞くと、歯磨きしなくても綺麗になるからとエイジ達は言う。その事実に頭を抱える北川と、目を輝かせる残りの二人。
軍人にとっては、出来得る限り短い時間で身支度を整えなければいけない事と、汚れても簡単には綺麗に出来ない事が挙げられる。そんな中、いつでも何処でも使える<魔法>という画期的なものが現れたのだ。生活が一変する。
その事実に目を輝かせている西口と南野、そして変わりすぎる事への対応で頭を抱える北川。両者の背負う責任の違いが明確に出た形である。そんな中、東と共に上里陸軍医や他にも複数人が来てミク達を案内する。
よく分からない部屋に案内されたが、どんな生活をしていたかを含めて詳しく聞いた方が良いとなったようだ。昨日は記者会見が迫っていたので、あまり長い時間が取れなくて急ぎ足になっていたらしい。なので今日はじっくり聞くそうだ。
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「ふーむ……何とも言い辛いな。中世のエウロペ風かと思ったらそうでもない。では中世のヤマト風かと思ったらそうでもない。ましてや中世の中華帝国風でもない。微妙な感じだな」
「いえ、そもそも別の星なんですから自分達の星に当て嵌めるのが間違いでは? こういう時には素直に別の星だと考えた方が良いでしょう。先入観を持つと碌な事になりません」
「確かにそうだな。それよりも魔物が居てその肉が食べられている。それ自体は自然な事だと思うのだが、魔力を多量に含んでいる肉の方が美味いとなると、世の畜産農家が何を言ってくるか分からんぞ」
「特にアメリケンとオーストキリアですか? あの二国は我が国に牛肉を売りたくてしょうがないみたいですしね。まあ、我が国は結構買うので当然なんでしょうけども……水面下で圧力かけてきそうですね」
「といっても、向こうさんにもダンジョンはあるんだ。何れその事は向こうの国民にもバレるぞ? そしたら圧力なんて掛けられんと思うがね。むしろ国内に流通している肉をどうするかの方が先じゃないか?」
「待て待て。我々は肉の話を聞いただけではないのだぞ。他にも重要な話は山のようにあったろう。まず第一に魔法が使えれば日々の生活が激変する。この事に関してだ。生活という基本部分が激変するのでは、対策をとらんとマズい」
「確かにな。洗剤関係の企業から家電の企業まで、非常に幅広い分野が打撃を受けるぞ。それ以上に魔道具だ。魔力で動く道具という画期的な物まである。クリーンエネルギーなうえに他国に依存しなくても済む。これは本当に画期的な事だ」
「ああ。ここに気付けば、各国は間違いなく彼らの身柄を狙ってくる。この11人、いや正しくは9人をどう守るかだ。御二人は何をされても皆殺しにして帰ってこれる方だからな、正直に言って我等が何かしても邪魔にしかならんだろう」
本人を前にしてハッキリと言うものである。事実なので誰も何も言わないしスルーしているが、彼らの話し合いは続く。それに興味の無いミク達は、食堂に移動して昼食を食べた後で演習場へと移動した。
今度は身体能力のテストだ。しかし困った事があり、【覇気】や【怪力】に【剛力】や【健脚】などのスキルをどうするかである。色々悩んだものの、最後にはどちらもテストする事になった。
100メートル走を最初に行うのだが、一番速いのはシロウで9秒98。一番遅いのはベルで10秒78だった。十分に速い気はするが、それでも結構な差はある。
ちなみに【健脚】を使うとエイジは9秒62で、ベルは9秒27であった。ぶっちぎりで世界新記録である。そのうえ走り方が適当なのにも関わらず9秒27という速さだ。真面目に練習すれば8秒台も夢じゃないかもしれない。
その後に何処かの肉塊が適当に流したら2秒11だった。あまりのタイムに全員がスルーしたのは言うまでもない。人間種ですらないのだから当然ではあるが、圧倒的すぎて意味不明である。
次々に色々な測定をしていくが、やはり現行の人類に比べて高い能力を持つ事が分かった。明らかに違うのだが、それは戦闘訓練を始め努力の結果なのか、それとも魔力や闘気の御蔭なのかが分からない。
特にエイジ達はそれなりにミク達から戦闘訓練を受けている。その事がどう出るのかがサッパリ分からない以上、一定以上の意味は無い結果となった。特に二名ほど異常な奴等が居るので、余計に混乱している。
ちなみにローネとネルの記録も、ミクと同じく参考記録に留められている。何故なら体が小さいネルでさえ、100メートルを本気で走ると5秒86だったからだ。
エイジ達でさえ呆れたのは当然であろう。




