0239・激動の一日を終えて
陸軍本部の宿舎。そこの空いている部屋で寝かせてもらえる事になったが、最大で四人部屋らしい。見せてもらったが、簡易的な二段ベッドが二つあるだけの簡素な部屋だった。まあ、ミク達は特に気にしないし、エイジ達も気にしないようだ。
そう思い四人部屋にエイジ達が入ろうとすると止められた。何故男女一緒に部屋に入ろうとしているのかと。そういえば言ってなかったなと思っていると、ミキがあっさりとカラダの関係があると暴露した。
その一言に東は頭を抱えたが、ここではそういう事は禁止として男女別々の部屋に分けられた。女性陣から物凄いブーイングがあり、エイジとシロウは苦笑いしている。それを見て東達も関係を理解したらしい。
「流石に宿舎の中でそういう事をされても困る。この宿舎にはそれなりの兵士達も寝泊りしているし、ここは壁も薄くて声が漏れる。正直に言って迷惑になるので止めていただきたい」
「声なら魔道具を貰っているので大丈夫です。……コレですけど、部屋の中の音が一切漏れなくなるという魔道具で、【音魔法】の【消音空間】の効果があるそうです」
そう言って見せられた魔道具とやらに目を剥く四人。「部屋の中の音を漏らさないなんて、いったいどうやってるんだ?」と驚いているが、そんな物が簡単に出てきた事に再度頭を抱える。コイツらこんなのばっかりか、と。
色々な事をスルーして放り投げ、とにかく部屋を男女で分けて寝かせる。ミク達は一室なので、それを見たミキ達が怒る。何故あの四人は一緒なのかと。
「いやいや、女性二人と肉の人と使い魔だろう? いったい何の問題があるんだ? 何故怒っているのかまるで分からないんだが……」
「こちらこそ分かりません! そもそもローネさんとネルさんは、ミクさんとヴァルさんとカラダの関係があるどころか、そういう関係ですよ? 体を自在に変化させられて、男性にも女性にもなれるうえに妊娠しない相手。そう言ってましたし」
「「「「………」」」」
東達が何とも言い辛い顔をローネとネルに向けてくるが、二人は鼻で笑うと自分達の思いを話し始めた。伊達に1000年以上も生きていないのだ、ローネは。
「お前達は何か勘違いしているのだろうが、愛の形など人それぞれだぞ? 私はミクを愛しているし、その事は胸を張って言える。お前達のように寿命があるうえに短い者ほど形に固執するのかもしれんが、私達のように長く生きると形など如何様でもよくなる」
「そう、ローネの言う通り。自分が心の底から愛せる事が大事なのであって、愛の形など極めてどうでもいい事。私も子供は二人産んでるし、両方寿命で死んでいる。もう子供を看取る気も無い」
そのネルの一言に深い感情がある事を理解した東達は何も言えなくなり、汚さないのと迷惑を掛けないなら好きにしてくれと諦めた。ミクは【超位清潔】を使って完璧に綺麗にしてるから問題無いと伝えた。
東達は綺麗にする魔法があるならいいかと、諦めてその場を立ち去る。この時、両者の間に認識の齟齬が生まれた。というより、念を押さなかったのが悪いのだが、コレ幸いにとエイジ達とシロウ達で部屋に入って行ったのだ。
それを見て呆れながらも放っておこうと決めたミク達は、さっさと部屋に入って休む。二段ベッドが左右に一つずつあるだけの殺風景な部屋である。ただしヤるには何の問題も無いと、真ん中のスペースに毛皮を敷いて早速脱ぎだす二人。
その二人に呆れながらも満足させ、ベッドの下段に寝かせていくのだった。ミクとヴァルはベッドの上段に寝転がり、分体を停止して最低限の監視だけをする。いつも通りの変わらぬ夜が過ぎていくのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
明けて翌日。起動したミクは、眠る前に使った【超位清潔】を朝一で再度使う。いつものルーティンワークだが、綺麗になると清々しい気分になるので一度も忘れた事は無い。病気になっても困るのでしているという部分も当然ながらある。
ミクとヴァルだけならどうでもいいのだが、ローネやネルは病気になる可能性があり、何か問題があっては困るという事だ。そうやって気を付けてやっている時点で、他とは一線を画す存在となるのだが、肉塊はその辺りを理解していない。
適当に過ごしているとローネが起きたので朝の挨拶をし、その音でネルも起きたようだ。朝食などをどうしようかと思っていると、突然大きな音がして他の部屋がバタバタと慌ただしくなった。どうやら兵士達が起きたらしい。
部屋の外に出ると、部屋の扉の前に並んでいて番号を叫んでいた。どうやら兵士の訓練のようなものらしく、何かは分かったので部屋へと戻るミク達。そうしていると、エイジ達とシロウ達が起きて部屋に来た。
どうしたのかと思ったら、先ほどの大きな音で目が覚めたらしい。まあ、兵士を起こす為の音となればアレぐらいのものが必要なのだろう。そんな話をしていると、東達が慌ててやってきて謝罪を始めた。
何かと思ったら、間違えて新兵用の宿舎に泊めてしまったとの事。ここは本部の敷地の西にあるのだが、通常の兵士用宿舎は東にあるらしい。宿舎の建物自体は同じ形の物なので、昨日は色々ありゴタゴタしていて確認不足だったようだ。
「別に大して気にしてないよ? そもそも大きな音より先に起きてるし、私は眠る事も無いしね。ずっと起きてるというか、眠るという事が出来ないと言うべきかな? まあ、眠りたいとも思った事は無いけど」
「そ……そうですか。まあ、とりあえず食堂に案内しますよ。皆さんには本部のパンフレットでも配っておいた方がいいかな?」
「でしょうね。パンフレットには本部の建物の位置とか色々書いてありますし、それに入られて困る区画には、常に兵士が立ってますから問題ないでしょう。そもそも皆さんが機密を見ても意味ありませんし」
「情報漏洩の観点からは絶対に駄目なんだけど、高校生四人は見ても分からないでしょうし、他の方達はもっと意味不明でしょうからね。そもそもパスと暗号を突破しないと読めもしません」
「機密に首を突っ込む気なんてありません。さんざん余計な事に巻き込まれてきたんです。優しさを持つのは良いが、身内だけにしろと何度も怒られましたよ。人助けで揉め事に巻き込まれましたから」
「そんな事がなあ。人を助ける事は正しい事だが、それで仲間の命が危険に晒されれば本末転倒だ。余計な事は絶対にするなと陸軍でも習うが、それでも失敗をするまで余計な事をする奴は居る。仕方がないさ」
「陸軍の兵でもそんな奴居るんですね。オレ達はその失敗から余計な事はしないと決めましたよ。それで襲われている馬車を見てたら、今度は盗賊が向かって来ましたしね。こっちが巻き込まれる気が無くても、巻き込んでくるんですよ」
「しかもその時助けた聖女って人がダンジョンマスターで、私達は最後にかなりの傷を受けてしまいましたし。まさかいきなり転移で現れて【魔力嵐刃】を使ってくるとは思いませんでした」
「アレは酷かったよねー。ホント、ダンジョンマスターって碌な奴等じゃなかったよー。最初の奴も最低だったけど、その後も碌な奴等じゃなかったしー」
「まあ、流石は神様が「殺せ」って命じる連中だったよなー。アレは「殺せ」って言われるわ」
確かにダンジョンマスターどもは納得の酷さであった。ミク達も含めて「うんうん」と頷いているのが、その証拠であろう。




