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0023・アンノウンという存在




 魔女ゼルダが全身から魔力をたぎらせ、右手に集束していく。それを感知した怪物ミクは即座に<暴食形態>へと移行した。


 <美の化身>とも言われる肉体がみにくい巨大な肉塊に変化し、多くの歯や牙に触手が生えてくる。


 それを認識した魔女は即座に後ろに下がり、集中させていた魔力で魔法陣を構成する。そして醜悪しゅうあく肉塊ミクに対して魔法を放つ。



 「何よコレは!? ……【火焔爆熱フレアボム】!!」



 魔女の反応自体は極めて速かったのだが、そもそも攻撃魔法は室内で使うような魔法ではない。


 そして不用意に放たれた広範囲を破壊する上級魔法は、肉塊にいとも容易たやすく喰われた。魔力も魔法陣も何かもを、あっさりと当然のように喰われたのだ。魔法など無かったかのように。


 ミクは正真正銘の<喰らう者>である。それは肉に限らず、魔力や闘気どころか精神や魂さえ喰い荒らす怪物なのだ。


 これこそがアンノウンであるという理由に他ならない。アンノウンというランクは、正体不明かつ理解不能な相手に対して使われるランクである。


 これ以上ミクに適したランクなど存在しない、そう言えるほど正しい位置づけだ。まさしくもってアンノウンである。そんなミクは何故か魔法を放ってきた魔女を喰おうとせず、人間形態に戻っていく。


 その瞬間「ピン!」ときたカレンは、魔女に対して思いっきり同情するのだった。本来なら食い殺される筈が、永遠に渡ってゴミどもを始末する仕事に従事する事になったのだから。つまり、同僚が生まれた瞬間であった。


 ちなみに今回ミクを止めたのは魔神である。更に魔神はゼルダに対して、ミクにとある秘法を教えろと命じた。


 それ自体にゼルダは渋い顔をしたが、神命である以上は逆らえない。しかも拒否すれば目の前の怪物に喰われる。尚の事、拒否は無理であった。



 「あー……ん~……はぁ。魔神様から貴女に対する賠償として、<魔女の秘法>を教えろという事らしいわ。実際には全てじゃなくて、【使い魔創造】だけらしいけどね」


 「そもそも勝手に人の屋敷に来て、勝手に客人に魔法をぶっ放そうとした割には随分偉そうね? 貴女を殺人未遂として始末してもいいのよ? ミクと協力すれば絶対に殺せるし」


 「そんな怖ろしいことは止めてちょうだい! 私が目を付けた相手が<神の使徒>だなんて、想像できるわけないでしょ!!」


 「それ以前に、赤の他人に趣味を押し付けるなって言ってるでしょうが……。まったく、あの魔法だってもし発動していたら、貴女の全財産を根こそぎ奪うところよ? ウチは侯爵家相当なのを理解してるの?」


 「うっ……」



 どうやら被害に関係無く、とりあえずで魔法を放とうとしたようだ。これでは魔女とは言えず、単なる危ない人である。上級者は被害の程度を考えて、普通は低い等級の魔法を使うのだ。それでも十分な威力は出るのだから。



 「まあ、ミクは<美の化身>であり、裏では<喰らう者>だからねぇ。魔力も闘気も喰われて終わるのよ。そのうえ肉体も何かもを喰われるし……。流石アンノウンとしか思えないわ」


 「アーククラスすら当たり前の様に凌駕する。これこそがアンノウンだと見せ「バタン!」付けられたわ……ね?」



 暢気のんきに会話するグレータークラスの後ろで、頑張ってもハイクラスに届くかどうかのイスティアは気絶した。ミクの<暴食形態>の圧に耐えられなかったらしい。


 今回は食べるためと言うより、怒って形態変化をした為に圧が少し漏れ出たのだ。その余波を喰らって失神してしまった結果、倒れたのだった。


 顔を見合わせて肩をすくめたカレンとゼルダ。この二人は案外いいコンビなのだろうか? 言われると絶対に嫌がるであろう事は、考えなくても分かるが……。


 そんな二人を他所に、本体に送っていた剣帯を武器付きで取り出すミク。その後チュニックを着てズボンを履き、革のジャケットを羽織って革のブーツを履く。最後に剣帯を着ければ終了である。


 重さや武器の抜きやすさを調べ、問題無い事が分かったら剣帯を外す。いつもの野暮ったい格好に何かを言いたい魔女は、それでも愚行を犯す事の無いように「グッ」と堪えた。


 堪えなければいけない時点でアレだという認識は無いらしい。


 カレンが何気なく剣帯を見ると武器が変わっていた。なので質問しようとすると、それより先にゼルダが<魔女の秘法>を教えていく。本来なら魔女にしか教えてはいけない事なのだが、流石に神命ではどうしようもない。


 もし他の魔女に文句を言われたら神命だとハッキリ言い、それでも駄目ならミクに頼ろうと決意するのだった。そのミクに対して教えていくのだが、至極しごくあっさりとミクは【使い魔創造】を成功させる。


 コレ自分が教える必要があったのか? と思うゼルダだったが、その疑問は遠くに放り投げた。それよりもミクが作った使い魔に興味があったからだ。なぜならば、使い魔の姿というのは創造した本人に左右される。


 それは己の魂の一部に領域を作る為、どうしても魂の影響を色濃く受けるからだ。<使い魔>という名称ではあるものの、実際には人型が居たりスライム型が居たりと魔女によって千差万別。だからこそ、決まった形は無い。


 そんな使い魔の誕生を今か今かと待っていたゼルダは、出現したモノを見て唖然とする。周りの者達も若干引いている気もするが、魔女だけは思考が停止せざるを得なかった。なぜなら、こんなモノは見た事が無いからだ。


 頭が三つある犬か狼の使い魔など、彼女ですら聞いた事が無い。そもそも猫型とか犬型や狼型というのは、使い魔として一番数が多い姿といえる。されど頭が三つもあるなど明らかにおかしいのだ。


 流石に驚いてフリーズし続けている訳にもいかないのか、魔女は気を取り戻して使い魔について話していく。



 「あ、頭が三つもあるなんて絶対におかしいわよ。そんなの私だって聞いた事が無いし、狼型は多いけど、頭が三つって絶対にマズい。これ他の魔女に見られたら大問題になるわ……!」


 「え? そうなの? ……だったら頭を一つにして」


 『了解だ』


 「「「!!!」」」



 ミクの使い魔の声は周囲にも聞こえたのだが、その声は何故か男性の姿のミクと完全に同じであった。つまりこの屋敷の女性陣にとっては、夜の一時ひとときに聞き慣れた声なのだ。


 その声は、カレンを筆頭にメイド二人も惹き付けて止まない魅惑オスの声であり、聞こえた瞬間カレン達の中の”メス”が反応したのは仕方のない事である。


 尚、男性でも反応するヤツが一名居るが、この場には居ないので問題は起きていない。



 「自分に出来る事とか色々分かる? 私の方からは多少しか分からないんだけど……」


 『他か? 姿を自在に変えたり、触手を生やしたりなど色々出来るぞ。主の姿にも変われる。……ほらな?』



 そう言って使い魔はミクと同じ姿になった。ただし分かりやすいように、使い魔の方は褐色肌になっている。おそらく見て分かるように配慮したのだろう。全裸なので色々問題があるが……。



 「ちょっと待って! ちょーっと待って! 使い魔は体の大きさを変えるぐらいで、体そのものを変えるなんて出来ない筈よ!? 何であっさりそんな事が出来るのよ! 常識をブチ破らないでちょうだい!!」


 「いや。アンノウンなんだから、常識の一つや二つぐらい簡単にブチ破るでしょうよ。当たり前の事を言ってどうするの?」


 「あー、もう! あーーーー、もう!!!」



 何やら猛烈な葛藤があるらしいが、そんな事は肉塊ミクの前では意味が無い。常識など通用しないが故のアンノウンである。


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