0233・第三惑星ネオガイア・大江戸
ここはヤマト皇国の首都の中心である大江戸市。突如光の柱が大江戸駅の前に立ち昇ってから半日、詰めかけた観光客や野次馬、更にはマスメディアなどでごった返している。
しかしヤマト陸軍が光の柱を中心に規制線を張っているので、それ以上は近付く事が出来なかった。ヤマト陸軍の兵は油断する事なく構えている。70日ほど前に突如現れた地面の紋様。それの上に立つと突如としておかしな場所に飛ばされる。
そんなあり得ない物が急に出来て、世界中の混乱が未だ収まらない中、今度は首都である大江戸でおかしな事が起きたのだ。海外の宗教者は天使が降臨する前触れなどと無責任な事を言っているらしいが、そんな信仰などないヤマト人としては鼻で笑う話である。
しかしながら何が起こるか分からない為、陸軍が規制線を張って監視し、いつでも攻撃出来る態勢を整えていた。そんな中、突然光が狭まっていき消えていく。慌てて緊張感を持って銃を構えたが、中から人間のシルエットが見えて困惑する。
光が完全に消えると、そこに居たのはミク達一行だった。眩しい光がようやく止んだかとキョロキョロしているミクは、ドラゴン革のライダースーツだった。ピッチリしたライダースーツは、ミクの魅惑のラインをむしろ強調する結果にしかなっておらず、実にセクシーである。
一応防御の事も考えてこの服装なのだが、ミキとサエからは結構なツッコミが入っていた。その気持ちはミクには欠片も理解出来ないので、暖簾に腕押しだった結果、ミキとサエの方が諦めてしまう。まあ、自分の男の視線を奪うなという意味なのはミクにも分かるのだが……。
日中だった事もあり周囲はよく見えるのだが、何だか物々しい感じであり敵意を感じる。これはミキも同じで【精神感知】が使える今、周囲の敵意や悪意も感じられるのだ。慌てて前に出て、銃を構えている兵士に訴える。
「待ってください! 私達は敵ではありません! 私は星川美輝、星川財閥の星川美輝です!!」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
周囲に居た兵士が一斉に銃口を上にあげ、慌てて本部と連絡をとる。エイジ達もどうしていいか分からず、周りが慌てているのをジッと見守るしか出来なかった。
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美輝が自分の事を言ってから一時間後、一行は陸軍の車両の中に居る。詳しくは分からないが、一般車両に見せかけた装甲の厚い車両らしい。ミク達にはサッパリ分からないが、何となく鉄の馬車みたいなものかと思っていた。
その中で兵士から、今は陸軍本部に移送中なので我慢して乗っていてほしいと言われている。現場の兵士には、既に人間種以外も乗っていて、更には別の星の住民でもある事は伝えられていた。向こうも半信半疑ではあるものの、一応は納得したようだ。
大きな建物のある敷地に入り、そのままよく分からない地下へ車両は進んで行く。何でも遠くから攻撃されても守る為に、地下に本部があるらしい。ネルはその説明を聞き納得していたが、他のメンバーは興味も無くスルーしている。
車両を降りた後でウロウロと歩かされたが、ようやく広い部屋に案内され、そこの椅子に座らされる。簡素な椅子なのはどうでもいいのだが、結構な人数が居るようだ。その中で一番偉そうな人物に話しかけられる。
「私はヤマト皇国陸軍大将、中島平八郎という。別の星の方々とは聞いている、宜しく頼む」
あからさまに此方を怪しんでいるのだが、分かりやす過ぎないかと思う。もう少し隠せよと言いたくなるが、そういう交渉術なのか? そう思いミキを見るも、ミキは顔を左右に振る。そもそも【スキル】を知らないというのは事実らしい。
こちらが挨拶を返さないので「ムッ」としているが、ミキが感情がバレバレだと言うと、すぐに表情を消した。「だからそれじゃ意味が無いんだよ!」という一行の心のツッコミは、致し方ないであろう。
「ゴホンッ!! ……私は東という。大尉という立場にあるのだが、伝わるだろうか?」
「私は西口中尉です」
「私は南野中尉」
「私は北川大尉です。宜しく、皆さん」
東という人物以外が女性なのは、女性が多い事への配慮なのだろうが、そんなものなど無い星の者達なので配慮が理解出来ていない。エイジ達は分かっているが、文化の差って難しいなあ……と思っている。
「すまない、少し聞きたい事がある。星川財閥のお嬢さんに関しては最速で問い合わせをしたのだが、何故か部屋に居た筈のお嬢さんが居なくなっていると回答があった。それに相違ないかな?」
「ええ、間違いありません。私はオリジナルとの統合も済んでいますから、自分の部屋に居た記憶もあります。もちろん複製体の方が主体ですし、その事にはオリジナルも納得しているでしょう。おそらくでしかありませんが……」
「「「「「???」」」」」
その後、ミキ達ヤマト皇国の四人は色々説明を何度も何度も行う事で、ようやく伝わる事は伝わったらしい。向こうは半信半疑どころか二割も信じていないようではあるが……。
「しかしな……いきなり魔法とか【スキル】? とか言われてもな。子供の遊びではないのだからして、我々軍人がそんな与太話を信じる訳があるまい? 流石にそれは無理というものだ」
「とはいえ、そうすると後ろの女性達をどう考えられるのです? いったいどうやって現れたのか、具体的に説明する事は可能ですか? テレポーテーションなど実用化されていませんし」
「魔法とか神の奇跡とか言われた方が、むしろしっくり来ると思いますけどね。光の柱が立ち、中からこの星には居ない人達が現れた。その方が分かりやすいし大衆受けすると思います」
「ちょっといい? そもそも私達が信用できないなら、<人物鑑定の宝玉・一級>で調べればいいじゃない。ほら、これで貴方達を調べた後、私達を調べれば済むでしょう?」
そう言ってミクは、テーブルの上に<人物鑑定の宝玉・一級>を置く。意味が分からず首を傾げる軍人に使ってみるように言うと、東という人物がおずおずと触れた。
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<東 信二郎>
種族・人間
性別・男
年齢・32
【スキル】・無し
【加護】・無し
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「うぉっ!?」
「「「!!!」」」
手を置いた東は自分の前に出たウィンドウにビックリしたものの、その後はゆっくりと見ている。とはいえ、スキルも加護も無いステータスでは見る場所も無く、然したる意味も無い。正直に言って、話にならないステータスである。
しかし本物だと分かったのだろう、次は大将の男が使うらしい。
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<中島 平八郎>
種族・人間
性別・男
年齢・56
【スキル】・無し
【加護】・無し
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<西口 明>
種族・人間
性別・女
年齢・24
【スキル】・無し
【加護】・無し
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<南野 翔子>
種族・人間
性別・女
年齢・24
【スキル】・無し
【加護】・無し
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<北川 菜々>
種族・人間
性別・女
年齢・29
【スキル】・無し
【加護】・無し
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軍人と言ってもこんなものかと、落胆するミク達だった。




