0230・新地形のダンジョン攻略開始
この国は近衛騎士の数が多くないようだ。まあ、国によって違うのだろうが、近衛の数が多い国や少ない国がある。これは王族を守るだけの近衛と、騎士の最高峰としての近衛の違いでもある。
更に都を守るのも近衛にしている場合もあるので、それぞれに応じて近衛の数がかなり違う。王族を守るだけだと300も要れば十分だ。他は兵士だったり普通の騎士で代用できる為なのだが。
この国の近衛がどうなっているのかは分からないが、数としては少ないので要人警護などだけなのだろう。それ以外は普通の騎士か兵士が担当していると思われる。そんな少ない数の近衛を洗脳し、ミクは宿に帰ってゆく。
夕方前に終わってヤレヤレという気持ちはあるものの、どちらかと言うとやっと解放されたという気持ちの方が大きいらしい。宿に戻っている最中、何故か本体の所に<善の神>が来て、礼として手鏡を貰った。
何故手鏡を渡されたのか理解出来ないが、本体を通して後で出すかと思い、今は宿への道を急ぐ。宿の部屋に窓から戻り、中で女性形態になり服を着る。相変わらずローネとネルは二人でシていたようだが、ミクは気にしていない。
再びバツが悪そうに服を着る二人。何故バツが悪そうなのか分からないミクは、気にせず一昨日手に入れた透明の球を出し、手鏡と一緒に鑑定する。………これはどう考えるべきなのだろう?。
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<心眼球>
<魔の神>が作製した、見た目は唯の透明な球。魔力を通して使うと空中に浮かせる事ができ、自在に操作が可能。この球を通して物を見る事ができ、自分の入れない所の映像も見る事が出来る。非常に便利だが、扱いが極めて難しい。神級道具。
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<迷宮の手鏡・二号>
空間の神が冗談で作り、折角だから<喰らう者>に使わせようと<善の神>を通して渡した物。手鏡には自分を中心にした一定範囲が映り、赤と青の魔法陣やダンジョンコアの方角を示すように改良された。これでダンジョンコアの見落としは無くなるだろう。神級道具。
ダンジョン内でしか効果が無く、ダンジョン以外では綺麗に映る”壊れない”手鏡でしかない。
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「「「………」」」
「何をやってるんだろうねえ、神どもは。ダンジョンコアを見落とす事が無くなったのは良いんだけどさ。………了解、了解。本体の所に<空間の神>が来て、前の手鏡を返せってさ。納得いかない物だったから壊すみたい」
「改良された以上は元々の物は邪魔だろうし、確かに壊すだろうな。特に拘りが強ければ。……しかし、何故か相変わらず壊れんのだな? 壊れない方が良いとはいえ、何だかアーククラスの攻撃でさえ壊れない気がするぞ?」
「というより、壊れない。鑑定で壊れないと出ている以上、多分だけどミクでも壊せないと思う。何だか、出来るならやってみろという意志を感じるから、私はそれで間違い無いと思う」
神のやる事を深読みしても無駄なので、それ以上は考えずに夕食に向かう事にしたミク達。部屋を出てエイジ達に声を掛け、食堂に行って夕食を注文する。既に周りも善人だらけなので話をしても問題無い。
「今日でようやく貴族と近衛騎士が終わったよ。あの聖女の事で喚いていた男は、近衛じゃなかったっぽいんだよね。今日も聖女が居なくなったって喚いていたし。何だか嫌な予感がするんだけど、余計な事にならなきゃいいなと思うよ」
「聖女が居なくなったか……。怪しいな。私達が30層を超えた後で行方不明とは。今ごろダンジョンの設定を必死になって変えていたりしてな。まあ、半分は冗談だが」
「帝国の事もある。ダンジョンマスターがダンジョンの外で生活している可能性は無い訳じゃない。偉そうにして自尊心を満たしたい者だっているだろうし。ダンジョンマスターというより、人間種と考えた方が良いと思う」
『ああ、それはそうだろうな。今までの奴を見てきても、欲に濁っているというか溺れている者ばかりだ。その事自体が人間種と変わらんと見るべきだろう。むしろ、そういう連中だからこそ抹殺命令が下ったのだしな』
「そうだねえ。まあ、明日ダンジョンに潜って終わらせて、さっさと次に向かおう。正直に言って、洗脳ばっかりで飽きた。食べられないからイライラするし、いちいち面倒臭いんだよ。この国の末路はどうせ神どもが見ているだろうから、私達が見る意味は無いし」
夕食後、さっさと宿の部屋に戻ったミク達。食事に来たエイジ達にも特に異常は無かったので、聖女に絡まれたとかも無さそうだ。その事に安堵していたのはミクだけではなく、ローネもネルもヴァルもだった。余計な揉め事などは誰も望んでいない。
部屋に戻ったミク達は少し雑談をした後、さっさとローネとネルを満足させて寝かせる。分体を停止し、久しぶりにゆっくりと朝を待つミクだった。
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明けて翌日。食堂に朝食を食べに行った一行は、聖女が居ないという噂を聞く。昨日の事が町中にも広がっているようだが、不思議な事もあるものだ。善人だから流れたのか、それとも誰かが故意に流したのか。
そのこと自体には興味が無いものの、ミク達は何だか面倒な予感に頭を悩ませていた。具体的にはダンジョンマスターの可能性が高まったと思っている。
「ダンジョンの中を弄るのも時間が掛かるのだろうし、全てを変えているなら結構な時間が掛かっても当然だろうと思う。となると、全く新しいダンジョンになっている可能性があるな。面倒な事だ」
「それでも攻略するしかない。私達のやるべき事はそういう事。それに手鏡が新しくなったから、その分は楽になっている。今までは運良く浅い層に無かったけど、これからはそういう事もあり得るかもしれない」
新しい手鏡という部分にツッコミを入れたかったエイジ達だが、そこはグッと堪えた。ここで言うべき事ではないし、周りも理解していないのだから後で聞けばいい。そう思って耐えている。気になって仕方がないのだろう。
朝食も終わり、昼食も買ったらダンジョンへ。中に入って第1層、そこは山の地形だった。前回の墓場とは違っているので驚いたが、すぐに気を取り直して移動を始める。立ち止まっていたら後続の邪魔になってしまうからだ。
歩き始めるも、どうしようかと悩んでいると冒険者が話し掛けてきた。食堂で話し掛けてくる冒険者だが、既に善人になっているので絡んできた訳ではないだろう。
「お前さん達もダンジョンに来たんだな。実は墓場じゃなくなっててオレ達も驚いたんだよ。魔物も簡単になってるし、それなりの値で売れる獣系に変わってる。今日からは今まで以上に冒険者で溢れると思うぜ! おっと、次の層へ行くなら向こうだ。お前らも頑張ってな!」
善人になったからああなのか、ダンンジョンが変わって嬉しくてああなのか、若干判断に困るところである。とりあえずミクは手鏡を出し、魔力を流すと男の言った方角に赤い矢印が出た。それを見て驚くエイジ。
「その手鏡、方角まで出るようになったんですか? もはや反則的な道具になってますね。それってもしかして、ダンジョンコアの方角も分かるんですか?」
「分かるよ。鑑定で、ダンジョンコアの見落としもこれで無くなるって出てたし。まあ、とりあえず進もうか。これで魔法陣の方角も分かるから、より短い時間で進めるでしょ」
そう言って歩き出す一行。攻略は楽になったが、それでも長い距離を進む事は変わり無い。相変わらず、体力が重要なダンジョン攻略であった。




