0229・終わらない洗脳
今日も今日とて平民街を巡り洗脳していく。既に宿の連中は終えて、今は平民街へと繰り出しているが、幾らなんでもおかし過ぎる。どうもこの聖都に居る連中は何がしかの犯罪に関わっているっぽい。
というのも、どうやらこの国は奴隷制を敷いているらしいのだ。それも<奉仕人>という名前にして奴隷とは分からないようにしているらしい。とはいえ、やっている事は奴隷制と変わらないし、更に性質が悪い部分もある。
それは奴隷じゃないからと言って、堂々と奴隷以下の扱いをしている事だ。<無償の奉仕>という教えを嵩に来て、無償の奉仕を強要している。正しくは無償が当たり前と化しているのだ。
そのうえ、それは田舎から食えない為に売られてきた人、またはスラムで人狩りを行い集めた人らしく、その為に態とスラムを放置している始末である。<善の神>が上層部以外を洗脳しろと言うのも当たり前でしかない。
何故上層部を放置するのかと思ったら、上層部は残してクーデターを起こさせる気なのだそうだ。善人になった以上は悪事を許さないだろう。そして国の上層部が悪事を働いているとすれば、確実に善人は上層部をどうにかしようとする。
とはいえ権力者が自分の椅子を譲る事など無い。となると待っているのは内戦だけである。首を挿げ替えて新しい者に変え、そのうえで法律を様々に変えていく。どうもその形に持って行きたいようだ。
聖都の住人の九割が善人なら出来るだろうという事だが、社会実験というか洗脳実験というか、やらせようとしている事も滅茶苦茶な気がする。まあ、ミクは命令通りに粛々とやるだけであるが、数が多くて大変なのだ。
愚痴の一つも溢さないと、やっていられないぐらいに数が多いのである。それでも少しずつ進め、今日も朝焼けの中を宿の部屋に戻るのだった。
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たとえダンジョンを攻略しても洗脳は続くので、先に洗脳を終わらせようと思うミク。ローネとネルを起こして提案すると了承されたので、今日は休みとする事に決まった。
どうもローネもネルも昨日のダンジョンが大変だったのか、気分的に連続で行きたくないらしい。ネルは回復もしきっていないようだ。ローネは【高速回復】のスキルを持っているので大丈夫だが、ネルは持っていないからだろう。
薬を飲ませれば回復するが、そこまで無理をする必要もない。部屋を片付けたら外に出て宿の延長をし、エイジ達に声を掛けてから食堂へと移動する。朝食を注文して席に座るとエイジ達が来たが、どうやらかなり疲れているらしい。
「俺は大丈夫ですけど、俺以外は大変みたいなんです。それで、申し訳ないんですが……」
「心配しなくても今日は休みにするつもりだから、ゆっくりと休んでていいよ。私がやらなくちゃいけない事があってね、それで休みにせざるを得ないのよ。もしかしたら明日も休みかもしれない」
「まあ、ゆっくりしていいなら助かります。俺以外は声を出すのも大変みたいなんで……」
【超速回復】を持っているエイジ以外は全員体力が戻っていないらしく、精神的にも相当疲弊しているようだ。朝食後も気力の無い足取りで宿の部屋に戻っていったので、昼ぐらいまで寝ているつもりかもしれない。
宿の従業員も含めて善人にしているので大丈夫だろうと思い、後をヴァルに任せてミクは百足の姿で窓から出る。日中に百足の姿で動き回る事は多くないが、誰が見ているか分からないので慎重に行こうと警戒しながら進む。
まだ行っていない区画に入り、<奉仕人>も含めて全員を洗脳していく。善人になれば<奉仕人>を解放する可能性が高いが、解放された瞬間、憎しみのあまりに人殺しをされても困る。なので<奉仕人>も纏めて洗脳するしかない。
そもそも<善の神>のオーダーは、上層部以外の”全員”だ。今はまだ冒険者には殆ど手を出していないが、宿の従業員などを洗脳していく最中に序でしてやればいい。既にミク達が泊まっている宿の中はメンバー以外全員が善人になっている。
平民街をウロウロし洗脳していくが、なかなか終わらず夕日が出てきた。一旦宿の部屋に戻り、3人と一緒に部屋を出る。エイジ達に声を掛けて食堂に行き、夕食を注文したら席に座って今日の成果を話していく。
「平民街の半分は確実に超えてる。おそらくは夜の内に終えられるとは思うけど、貴族街の方は無理だね。そもそも<聖教>の国だっていうのに、普通に貴族が居るんだよねー、この国」
「そういえば宗教とやらで国を治めている癖に、何故か普通に貴族どもが居るな。普通なら司祭などが貴族の代わりに居ると思うのだが、おかしな国なだけに適当なのかもしれんな。もしくは、かつては普通の国だったか?」
「途中から中身が変わったなら分からなくもない。ただ、その場合は今までの国より甘い蜜を貪れるようになったからでしかない。そうでないと貴族どもが変える事に同意しない筈」
「残念ながら平民街では理由は分からずだね。まあ、そこを掘り下げる必要があるかどうかは知らないけどさ。私は命令を粛々と熟すだけだし」
そんな会話をしていると、欠伸をしながらエイジ達が現れた。どうやら夕方まで寝ていたらしい。彼らは夜に眠れるのだろうか? そんな四人の心配も関係なく、彼らは夕食を注文して席に座り雑談を始めた。
食事の終わったミク達は、エイジ達に一声かけて宿の部屋へと戻る。今日の夜も当然出るのは分かっているので、ローネとネルは素早く用意して準備を完了させた。その行動力に呆れつつ、ヴァルと挟んで満足させていくミク。ヤレヤレである。
二人を満足させて寝かせた後、いつも通り後をヴァルに任せ、ミクは窓から百足の姿で出て行った。平民街に素早く進み、未だ洗脳が終わっていない者達を洗脳しつつ、家々を移動していく。この移動に無駄な時間が掛かっていて、ミクは苦労をしている。
洗脳自体は簡単に終わるのだが、移動に時間がとられる所為でイライラしてくるのだ。喰う場合であれば欲求を満たせるのでそこまで腹も立たないのだが、洗脳では欲求も満たせない。その部分でストレスを溜めつつも、何とか平民街が終わった。
貴族街は数が少ないので短い時間で終わるだろう。何処までするべきなのかは分からないが、朝になるまでミクは洗脳を続けるのだった。
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朝になって部屋に戻ってきたミク。ローネとネルを起こして朝食に行き、昨日と同じ様に食べたら戻る。エイジ達には今日も休みだと言ってあるので、今日は満足するまでシているだろう。昨日は回復を優先せざるを得なかったようだし。
宿の部屋に戻ったミクは百足の姿で窓から出る。再び日中ではあるものの、後は貴族街くらいしか残っていないので今日中には終わるだろう。そう思って頑張って洗脳していると、<善の神>がやってきて近衛騎士も洗脳するように言ってきた。
まだ終わらないのかと思うものの、そこまで数が多くなく固まっている連中なのでいいかと思い、貴族街が終わった後は近衛騎士の建物へと行く。聖国には城が無く、真ん中には巨大な建物がある。エイジ達が教会と言っていた建物だ。
その近くに近衛騎士の詰め所や宿舎があるのだが、そこへと移動する最中にあの五月蝿い騎士を発見した。あの時と同じく喚き散らしているようだが、何か様子が変だ。近くに寄って聞いてみる。
「聖女様が部屋におられぬだと!? いったいお前は何をしていたのだ! 早く探せ!! 聖女様に何かあったらどうする気だ!!!」
どうやら聖女が居なくなったらしいが、嫌な予感しかしない。おそらくはスラムに近付く事はないと思うが……。
そんな嫌な予感を持ちつつも、ミクは近衛の建物に入り、中に居た騎士を洗脳していくのだった。




