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0226・面倒臭そうな国




 エイジ達が余裕の姿を見せているのには理由があり、それは本体空間にて神が徹底的に叩き込んだからだ。所詮は人間種なので限度はあるものの、神は暇潰しもありエイジ達に面白半分で叩き込み続けた。


 正直に言って、エイジ達にとってこの一ヶ月は地獄と言っても良かったのだ。それを潜り抜けてきたエイジ達にとって、盗賊などというチンピラはザコと言って差し支えない。何故ならアーククラスの前ですら、動いて戦えるようになったのだから。


 その事はエイジ達にとって少なくない自信となった。まあ、ミクの本質を少し向けられたら微動だに出来なかったのだが……。それはアンノウンだから仕方ないとして、エイジ達の自信にはなったのだ。


 エイジは<集目の盾>を使い盗賊の目線を集めつつ後退。当然のように盗賊は追い駆けてくる。そこにミキの袈裟切りが右から、シェルの突きが左から襲ってくる。更にエイジは後退し、そこに滑り込むようにオーロが突進を開始。


 盗賊の一人を突き刺した後に止まり、そのまま強引に手元に引き寄せつつ脇構えに持ち、刃を寝かせてから水平に振りぬく。その時には既にミキもシェルも一旦下がって邪魔にならないようにしている為、オーロは全力で振りぬける。


 まだ向かってきていた二人の腹を切り裂くと、盗賊は臓物をブチ撒けながら倒れていく。あっと言う間に五人が倒され、<集目の盾>の前にオーロが居るので効果を失う。とはいえ残りの三人は、何が何やら分からない間に五人殺されているのでパニックだ。


 そしてそんな隙を見逃す筈は無く、素早く近寄ったミキが首を切り、シェルは首を突き刺し、オーロは真っ直ぐに振り下ろした。その一撃は首下にまでメリ込み、一撃で死亡が確定する。


 あっさりと勝利したエイジ達は、武器に【清潔クリア】の魔法を使い綺麗にして納めたら、まだ戦っている向こうを見つつ休憩する。正直に言って助けてやる義理が無いし、仲間の命が最優先である。


 実際、神との訓練では何度も死に掛けたのだ。死んではいないものの、<天生快癒薬>が無ければどうなっていたか分からないほどに酷い怪我もあった。まあ、その時にはミクが治してくれただろうが……。


 神から情け容赦の無い訓練を受けたので、今や彼らは歴戦の兵士以上にシビアな物の考え方が出来るようになっている。それでも一ヶ月かそこらでは根本からは変わらない。良い意味で彼らは大人になったと言えるだろう。善性は無くしていないのだし。


 そんな事を思い出していると向こうも終わったようだ。絡むと碌な事が無いので待っているのだが、馬車が一向に進もうとしない。どうしたんだ? と思っていると、向こうの騎士が近付いてきた。何だか面倒臭そうな予感。



 「貴様ら! 我等が聖女様が御礼を言われるそうだ。さっさとこっちに来い!」


 「いや、そんなの要らないんだけど? そういうのが面倒で助ける気が無かったのに、何で関わってくるのさ。放っておいてくれていいから、早く進んでくれるかな。私達も移動したいし」


 「五月蝿い! 貴様らの意見など聞く必要も無いわ! さっさと従え!!」



 ミク達は顔を見合わせて溜息を吐く。どうしてこういう連中は無駄に関わってくるのか。本当に気持ち悪い連中である。こっちは関わりたく無いのだから、その空気ぐらい読めよ、と思うのは当然であろう。


 馬車に近付くと他の騎士が警戒するが、エイジ達の表情があからさまに渋いからだろう、敵意まで向けてくるようになった。そんな中、馬車の中から聖女が出てくる。煌びやかな衣装ではなく白一色なところは好感が持てるがそれだけだ。


 あからさまに綺麗な生地に、美しく作られた服。明らかに聖職者として浮いてしまっている。上に立つ者として貧しい服では困るのだろうが、それにしても……と思ってしまうのだった。



 「貴様ら何をしておる! さっさとひざまずかんか!! まともな礼儀も知らん愚か者が!!!」



 騎士が喚いているものの、ミクなど面倒で欠伸をする始末だ。もちろんわざとであり、そもそも肉塊に欠伸などという動作は必要ない。何故なら眠る必要が無いからだ。それを見た騎士が余計に激怒するが、聖女は気にせず挨拶してくる。



 「皆様、襲われていたところを助けていただき、真にありがとうございます。つきましては「そういうの要らないから」私達の……」


 「そっちの護衛とかしないし、御礼も要らない。そっちのようなのには何度も巻き込まれた事があってね、碌でもないのはよく知ってるの。私達は使われる気も無いから。じゃ、皆行こうか」


 「なっ!? おい、貴様ら!! 待てっ!!!」



 騎士の言葉も無視し、ミク達は早歩きで進んで行く。馬車よりも速いのでドンドンと進んでいき、いつしか後ろに見えないぐらいまで引き離した。その後も黙々と歩き続け、聖都ガラヤに辿り着く。面倒な奴等に絡まれるとはツいてない。


 聖都という都の中に入るのだが、何故か冒険者証で問題無かった。神から聞いていたとはいえ、同じ物で問題無いのは不思議な物である。まあ、これに関してはエイジ達の方が複雑だ。何故なら冒険者を教えたのは、古い時代の召喚者なのだ。


 どいつもこいつも魔物と戦うといったら冒険者。他にも様々あっていい筈なのに、一律冒険者なのは間違いなく故郷の連中が関わっている。そう思うと、顔から火が出そうなほど恥ずかしいエイジ達だった。


 いわゆる厨二病を客観視してしまった時のようなものだろうか、もしくは黒歴史ノートを歳をとってから実家で発見した時の気分だろうか? とにかく彼らは故郷の者がやった事が恥ずかしくてしょうがないらしい。


 しかしこれはエイジ達の勘違いである。ヤマト皇国と似た国というのは、他の宇宙の星にもあったりするので、ヤマト皇国だけとは限っていないのだ。過去に誰が来たかは神しか知らないが、神が教える事は無いので勘違いしたままであろう。


 聖都の中に入って宿を探すと、スラム近くに安い宿があったので行ってみる。怪しい宿だが、聖女と絡まなくても済むのでこっちの方が良いだろうと決めた。3人部屋を三つとり、スラム近くの食堂に行く。


 聖国と言いながらスラムがあるが、これは何処の国にも出来るものなので仕方ない。夕食を注文し席に座って待っていると、近くのテーブルに冒険者の格好の奴が座り話し掛けてきた。



 「よう、お前さんらもダンジョン目当てでやってきたのか? だったら止めとけ。ここのダンジョンじゃ売り払う時に税として半分持っていかれるぞ。だからこそ売らないで持ち帰って食う奴が多いんだがな。余程の実力者じゃねえと儲からねえぜ?」


 「まあ、実力者なら儲かるんだが、信者どもがいちいち絡んできて寄進しろだ寄付しろだの言ってくるんだよな。自分らでダンジョンに入って儲けてこいってんだ。何であんな連中に払わなきゃなんねえんだか。意味が分からねえ」


 「まったくだ。こっちがどんな思いで戦って儲けてると思っていやがるんだ。武具だってタダじゃねえし、使えば消耗するっていうのに、あのバカどもは何も理解してねえ。それどころか酒飲む金があったら全部寄付しろみたいに言ってきやがる。頭がおかしいんだよ」



 相当の鬱憤が溜まっているらしいが、いちいちミク達が聞いてやる義理も無い。さっさと食事を終えて宿に戻るのだった。


 それにしても厄介な国のようである。予想以上に住民と信者と上層部が乖離している事が見えてきた。ダンジョンマスターを殺したら、さっさと離れる事を決意するミク達。それが賢明である。


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