0222・ゴブリン四将軍?
30層まで駆けるように進み、現在はボス部屋前で休憩中だ。中で何が出てくるかは分からないが、ボスすら自由に変えられるので考えても意味は無い。適度に気を抜きながら、雑談しつつ体力と精神を回復させる。
十分に回復したらボス部屋の中に入ってボスを待つ。扉が閉まり現れたのは、高さ2メートルを越える巨大な蟷螂だった。その鎌は異常な程に鋭そうで、刃のように鈍く輝いている。
「散開しろっ!! コイツはデスマンティスだ! あの鎌でやられたら、あっさりと切り殺されるぞ!! とにかく回避しつつ魔法で攻撃、足を潰せ!」
「エイジ! こいつにその盾は駄目。渡しておいた竜鉄のタワーシールド! それと、間違いなくグレータークラス。相当の切れ味と速さだから注意!!」
「分かりました!!」
エイジは素早く盾を交換し、竜鉄で出来たタワーシールドを持つ。これで耐える事は可能だろうが、あまり良い事でもない。蟷螂だからこそ当然のように噛み付き攻撃をしてくる。鎌だけに気をとられていると殺されかねない。
それらの言葉を何度も言い、エイジ達に注意を促すローネとネル。ミクとヴァルは蟷螂系とは戦った事があるが、このデスマンティスは初めてだったので、迂闊に口を挟んだりはしない。知らない場合は余計な事を言うべきではないからだ。
グレーターデスマンティスの鎌を回避しつつ、前衛組は後衛が魔法で足を潰してくれるのを待つ。流石に10匹も居て大変だが、ミク達も戦ってくれているので何とかなっている。エイジ達だけだと数で詰んでいる可能性が高い。
エイジは2匹から攻められているが、タワーシールドで防ぎ、棍棒で弾きながら何とか凌いでいる。流石はグレータークラスと言うべきか、パワーも尋常では無いし、特に鎌のスピードがシャレにならない。
それでも移動速度は遅く飛べないようなので、その部分は楽であろう。ミク達の場合は、ミクが前で回避しつつ、ヴァルが足を潰している。ローネとネルが鎌腕を切り落として無力化。そうやって動ける数を減らしていく。
未だに矢を射ってくる可能性が否定出来ないので、無力化していく方が後で態勢を整えられるので都合が良いのだ。そうやって減らしていき、最後の一匹になると全員が一ヶ所に集まり、態勢を整えてからヴァルが殺す。
そうやって31層に転移されたが、射られる事は無かった。地形は荒地で狙いやすそうだが、こちらが対策をとっている以上は無駄な事はしないのだろう。この層ではバーサクブルとかクレイジーホークが出てくるので、一行は出来得る限り急いで進む。
魔物の攻撃を凌ぎつつ倒し、ゲットしたら収納しながら赤い魔法陣を探す。そうやって転移していき39層のボス部屋前。既にアーククラスが出てくるのは確定しており、あとは何を出してくるかの話となった。
「今まで狼とゴーレムと蟷螂なんだよな。最後は人型が来るのかね? それとも、もっと変な魔物が来たりして。Gじゃなきゃ戦えますけど、Gだけは勘弁してほしいですね」
「おい、止めろエイジ! こんなところで口にしたら変えてくるかもしれないだろ! 向こうはこっちの話を聞いてるかもしれないんだから、そういう事を言うのマジで止めろ!!」
「す、すまん!! すっかり頭から抜け落ちてた。聞かれてたらおかしなヤツを出してきかねないし、本当にすまん。そっちの方に関しては気が抜けてた」
「ここまで来たら何が出てきても戦うしかあるまい。エイジは前で防ぐ。前衛組は出来得る限り早く無力化するか倒す。後衛組は魔法で援護。それぞれがやるべき事を果たせ。でなければ、アーククラス相手だと死ぬぞ」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
気合いも入ったところでボス部屋に入り、閉じられると出現したのは顔の出たプレートアーマーのゴブリン四体だった。頭の上に「?」が出る一同。アーククラスのゴブリン……にしては覇気も何も無い。にも関わらず、何故かこちらを見下している雰囲気はある。
「ふん! 人間種如きがここまで来おって。途中で死んでおけばよいものを。まあいい、我等はアルノー様に従うゴブリン四将軍。ああ、貴様ら死にゆく者にいちいち名など名乗らんよ。ここで死ぬがいい」
「何を偉そうな事を。お前はここで死んでよい。後の事は私に任せよ、アルノー様の寵愛を受けているこの私にな」
「何を勘違いしているのやら、心根まで醜い者はこれだから困るわ。アルノー様の寵愛を一身に受けているのは私であろうに。そんな事も分からんとは、相変わらずの節穴どもだ」
「愚かな事を。所詮は醜い愚か者に変わり無しか。それだからこそ貴様らは寵愛を受けられんのだ。まあ、私が一番である事は最初から決まっている事なのだがな」
「何だと貴様ぁ!!」
何故か目の前で訳の分からない醜い争いが繰り広げられている。そんな中、サエが弓のスキルである【疾風矢】を放つと、何故か相手の手前1メートルの所で弾かれた。その矢にビックリし、慌てて戦闘態勢をとるゴブリン四体。
「おのれ野蛮な人間種め! 話し合いの最中に攻撃してくるなど、これだから醜い蛮族は困るわ! 少しは教養というものが無いのか!!」
「教養というなら、敵を目の前にして言い争いをしている方が、よっぽど教養が無いと思うけどな。相手を舐めるなという教えは無いのかよ。相手を見下し馬鹿にしていると足を掬われるぞ?」
「ハッ! これだから野蛮で下賤な者は困るわ! 貴様ら如きがどれほど頑張ろうが、我等に勝つ事など出来ん。何故なら我等には、アルノー様から下賜されたこの鎧と剣があるからなあ!」
ゴブリン四体はバイザーを上げて喋っていたのだが、バイザーを下ろし剣を構えて準備万端といったところだ。どうやら余程の鎧と剣らしい。なのでヴァルが前に走り、軽くバルディッシュで攻撃してみる。
相手は避ける事も無くむしろ体当たりをし、バルディッシュを弾いてヴァルに切り掛かってきた。ヴァルは軽く攻撃していただけなので素早く下がり、相手に対して構える。竜鉄で作られたバルディッシュが弾かれて驚くヴァル。
「ハハハハハ……貴様らの攻撃など無駄無駄無駄無駄ぁ!! ここで死ねぇぃ!!」
ゴブリンの一体が袈裟懸けに振り下ろしてくるが、驚くほどに遅い。ヴァルはバルディッシュを剣の刃に合わせてぶつけるも弾かれた。その後に竜鉄のバルディッシュを見ると、少し傷付いていて驚く。向こうの剣はどうやら傷一つ無いらしい。
「ハハハハハハ! 貴様らの持つ程度の低い武器でどうにか出来るとでも思ったか、さっさと死ねぃ!!!」
遅すぎて当たる気もしないが、こちらの攻撃も効かないか? そう思いながらも、バルディッシュからウォーハンマーに武器を変えるヴァル。プレートアーマーを叩き潰すのだが、こいつらの命は気にせずとも問題無い。
そう思い、一気に接近して【深衝強撃】を叩き込む。どんな素材で出来ているのかは分からないが、ウォーハンマーを防いだプレートアーマーは凹む事も無く無事だった。ただし中の肉体は無事では無い。
プレートアーマーの隙間から夥しい血が零れ出て床を濡らしていく。その後「ガシャン!」という音と共に床に沈んだゴブリン。幾ら鎧が凄くても、中の肉体は脆いものでしかない。
それを理解したのだろう、残りの三体が急に喚いて暴れ出した。自分達が死ぬという事を目前にし、恐怖が込み上げてきたのだろう、その様は実に醜いものであった。




