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0021・<魔女ゼルダ>




 <閃光>の宿を出た魔女ことゼルダは、冒険者ギルドへと歩いていた。何処の国でも、何処の町でも変わらず町の外に近い建物。少し町の者に聞けば、すぐに場所が分かる。そんな建物が冒険者ギルドだ。


 ちなみに村には冒険者ギルドが無い。それは無くても問題無いからだ。各村には大抵専属の冒険者達が常駐しており、それと商人に村人で用が済んでしまう。村に専属で居るのは基本的に歳のいった冒険者である。


 彼等が半分引退の様な形で村に住みつき、魔物の被害から村を守る。更に肉などは腐らせないように村で食べたり、干し肉にしたりと働く。そういった事は村人もするので、持ちつ持たれつの関係を築いているのだ。


 どうしても常駐している者だけでは無理な場合のみ、町の冒険者ギルドに依頼される。町の仕事だけでも十分多いので、冒険者の数は基本的に足りていない。ダンジョンに行く者も多いので尚の事である。


 それはさておき魔女ゼルダだが、彼女は冒険者ギルドを見つけたようで中に入っていく。中に常駐する冒険者からの視線を無視し、<黄昏>を見つけたゼルダは真っ直ぐに歩いていき話しかけた。



 「ちょっといいかしら? ここのギルドマスターと話がしたいのだけれど、時間はあるわよねぇ……?」


 「少々お待ち下さい。お聞きして参ります」


 「いえ、私が直接行くからいいわ。ア・ナ・タじゃ埒があきそうにないからね」



 <黄昏>とも呼ばれる、高位吸血鬼であるカレンに対してコレである。なかなかいい根性をしていると言えるが、両者共に永遠を生きる存在でもあるので、同格と言えば同格なのだ。更には別の意味でも同格だ。


 この世界には魔物や特殊な存在を区分するランクが存在する。主に魔物に使われるのだが、カレンやゼルダにも該当するランクが規定されており、それは……。


 劣等=レッサークラス

 通常=ノーマルクラス

 上等=ハイクラス

 高位=グレータークラス

 超位=アーククラス

 不明=アンノウン


 この六つのランクである。これこそが魔物の等級を表すのだが、同時に永遠を生きる種族や悪魔なども、冒険者などはランクで分けて呼ぶ。そしてカレンもゼルダも高位種であり、グレータークラスに区分されている怪物である。


 まあ、本物の怪物たるアンノウンがバルクスの町に居る以上、グレータークラスなど唯のザコでしかないのが悲しいところではあろう。ちなみにアンノウンに該当するのは、本物の怪物たるミクである。そもそもアレ以上の怪物など存在しない。


 この町の付近に出てくる魔物の大半は、レッサークラスからノーマルクラスだ。ただし<魔境>だと変わり、<大森林>と<大地の裂け目>ではハイクラスが、<天を貫く山>ではグレータークラスの討伐記録が過去にある。


 それほどまでに危険なのが<魔境>なのだが、毎年命を散らせる若者が後を立たないのもバルクスの町の日常だ。そんな高位の力を持つ二人は、現在ギルドマスターの執務室で睨み合っていた。


 カレンは何を言いに来たのか薄々察しており、ゼルダはカレンが気付いているであろう事を理解している。そもそもこの二人は知り合いである為、お互いの趣味嗜好を把握しているのだ。



 「いい加減、自分の気に入った女性にアピールさせようとするのは止めなさい。貴女が何の理由でここに来たのかぐらい分かっているのよ!」


 「分かっているのなら話は早いわ。あの子の体は人間種の至宝とも言えるものよ。私は、あの子に相応しい格好をさせる! これは宣言よ! 貴女の許可なんて得る気は無い!!」


 「なんで貴女はこうも下らない事ばかりしようとするのかしら。それは別として、いい加減に他人を自分の趣味に巻き込もうとするのは止めなさい! <痴女ゼルダ>!!」


 「私は痴女じゃなくて<魔女>よ! 魔・女!! ふざけてるでしょアナタ! 今すぐ滅ぼしてやってもいいのよ!!」


 「「………」」



 激しく睨み合っており、お互いに一歩も譲らない姿勢を見せているが、当人を完全に無視しているのは理解しているのだろうか? それにそもそも怪物は、バカが寄ってくるなら割と喜んで着る気もするが……。


 そんな彼女達の睨み合いに終止符を打ったのは、部屋に入ってきた他の受付嬢だった。



 「失礼しま、ヒッ! ……あ、あの、ギルドマスター。一階に<迅雷のイスティア>様が来られていますが、如何いたしましょうか?」


 「ここに通してくれる。この痴女は、そろそろ帰るから」


 「へえ、どうやら本気で殺し合いがしたいようね……」



 受付嬢は<触らぬ神に祟り無し>と逃げたが、この二人は<迅雷のイスティア>が部屋に来るまで睨み合っていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 ところ変わって、こちらはミク。コソっと血抜きをしようと思っているのだが、割と周りに冒険者が居て鬱陶しいようだ。倒した獲物に【清潔】や【冷却】を使うのは問題無いのだが、血を吸うとなると他人の目が邪魔なのだろう。


 仕方なく穴を掘って血を捨てているのだが、それをジッと「勿体ない」と思って見てしまうのだった。そしてそんな表情ですら、周りから「キャーキャー」言われる始末である。本人からすれば面倒な事このうえないのだ。


 結局、ミクは適当に魔物を間引いてバルクスの町に帰るのだった。このままでは肉が欠乏してストレスになりそうなぐらいである。そんな内心のイライラを表には出さず冒険者ギルドまで戻り、ギルドの裏の解体所で査定を受けていく。


 何故か最初の頃より状態が良くないが、周りに冒険者が居て鬱陶しかったと愚痴を溢すと、職員も納得してくれた。溜息を吐きながらギルドに入り、中央の受付嬢に木札を出すミク。カレンが居ない事を不審に思ったが、気にせず報酬を受け取る。



 「ミク様は今回の結果でランク3になりましたので、新しい木札に交換いたします。少々お待ち下さい」



 そう言って中央の受付嬢は、裏に木札を作るように言いに行った。ミクは五日前にランク2になっていたのだが、今回の狩りの結果でまたランクが上がるようだ。


 カレンに報告した後でちょこちょこ脳を弄っていた為、想定より時間が掛かったものの、本来ならもっと早かった筈である。それでも登録して十日と少しでランク3は、他の冒険者に比べて十分に早い。


 だからこそ、知らない馬鹿が下らない事を言い出すのである。



 「おい、そこの女!! 俺達のパーティに入れてやガッ!?」



 これもミクのストレスが溜まる理由の一つである。バカがこの容姿に引っ掛かるのは良い。何故か周りの冒険者がボッコボコにしてしまうのである。その所為でバカを食べる事が出来ていないうえ、邪魔をするなとも言えない。


 ミクは深い溜息を吐きながら冒険者ギルドを後にするのだった。今日の夜に町を出て魔物をたっぷり喰ってこよう。そんな決意をしながらカレンの屋敷に向かって歩いて行くミク。


 まさかの流れに、どうしていいか分からなくなるのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 カレンの屋敷に来たミクは、マリロットの甲斐甲斐かいがいしい世話を受けていた。初めての夜から妙な気に入られ方をしたのか、自分の主よりも世話を焼いてくるマリロット。とはいえ、何故かカレンもそれを許している。


 これはフェルメテもオルドラスもそうなのだが、ミクは何故カレンが許しているのかよく分からないのだった。人間種の心の機微は、まだまだ肉塊ミクには難しいもののようである。


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