0216・帝国を越えて魔物の国へ
「魔力と闘気の多い者達を監視しておりましたが、素直に滞在しているだけのようです。ここから東へと行くのか、それとも国境に仕事を求めてきたのかは不明なままです」
「そう、ごくろうさま。そのまま監視を続行してちょうだい」
「ハッ!」
男は退出していくものの、女達は顔を見合わせて話をしていく。どうもミク達の魔力や闘気を感じ、警戒していたらしい。この者達が何処まで把握できたのか分からないが、それなりには優秀なのであろうか?。
それともエイジ達を把握して監視をしてきているのだろうか? エイジを始め、全員がそれなりの魔力と闘気になっている以上、警戒されるのは仕方がないのかもしれない。
「それで、どう思う? あの者達が我が国に来る可能性はあると思うんだけど、だからと言って最前線に来ただけの可能性もある。ある程度の魔力や闘気を持っている者は迂闊に手出し出来ないのよね」
「うむ、そうだな。あの程度ならばそこまで危険視せずともよいが、場合によっては我等も殺されかねん。どのようなスキルを持っているかで戦いの結果など幾らでも変わる。気をつけねば寝首を掻かれるやもしれんぞ?」
「そういうのは冗談でも止めてほしいわね。夜の警戒までし始めたら寝る時間が無いじゃないの。誰も彼もが貴方みたいに殺気や気配で起きられる訳じゃないのよ? ……そんな事は横に置いておくとして、どうするの?」
「ふむ、放っておく……という訳にはいかんのじゃな? 態々こちらから手を出す必要は無いと思うがのう。相手もこちらを分かっておらんのじゃし、このまま通しても問題ないと思うがな」
「私も賛成だ。仮にあの者達が我が国に行くとしても、それで寝首を掻きにきたと考えるは安易であろう。今までにも人間種は来ておるのだ、今さらな事でしかあるまい。それとも人間種というだけで根絶やしにするか?」
「そんな事は考えていない。とはいえ、私達の仕事内容はここで精査する事でしょう? 誰かさんは余計な事をしてくれたけど……」
「別に良いじゃない。それに貴女達だって賛成したでしょう? あくまでも村一つを襲って打撃を与えるだけだし、それ以上の事はしないように魅了してあるわ。私達<一ツ目>に掛かれば造作もない事だしね」
そう言ってフードを取った女の顔には目が一つしか無かった。どうやら<一ツ目>というのは種族名らしく、そのうえ魔眼系種族のようだ。なかなか面倒臭い種族が居るようである。
「我が国でも珍しい種族じゃから、出来ればこういう汚い事はさせとうないんじゃがの。とはいえ魅了の力は強力じゃから、使わん訳にはいかんのじゃろうな。やれやれ、ワシのような年寄りだけを使い潰せばよいものを」
「御老体は後100年は生きそうですがな。それはともかく、さっさと結論を出そうか。このまま話し合いをしていてもしょうがない。我等の、こ……う、な」
ミクは部屋の中に麻痺毒を散布し一気に体を動けなくした。武人っぽい奴は動こうとしていたので脳を操り先に聞いていく。
ゴブリンの国から来ている偵察隊で、国境の町でゴブリンの国に来る奴等を精査。怪しい奴は殺害しているらしい。
ここにいる連中はその仕事をしているそうだ。順番に聞きつつ脳を食べ、後は本体空間に送り込んでいく。コイツらの仲間は多くなく、大半は人間種を魅了して使っていたらしい。御蔭で楽が出来る。
ミクはスラムなどに行き、残っていたゴブリンの国。正しくはゴブルクス王国の者達を全て喰らったのだった。魔物の国が一つではなかったのが、なかなか面白い事だ。明日情報を話しておこう。
そう思いつつ宿へと戻ったミクは女性形態に戻り、ベッドに寝て分体を停止した。
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翌日。食堂で朝食を食べ、昼食を買って町を出た一行は、東へと歩きながら話し合いを行っている。周りには誰も居ないので聞かれる心配も無い。東に行く者は少ないようだ。
「昨夜、尾行していた連中を逆に尾行していったらさ、スラム近くの酒場にまで行ったんだ。そこの二階の部屋にゴブルクス王国の連中が居た。ニューデ村に賊を嗾けたのは、そこに居た四人だったよ」
「ほう。東のゴブリンの国は、正式名称をゴブルクス王国というのか。神からお聞きしていたとはいえ、本当に魔物が国を作っているとは驚きだ。もちろん、あり得んと一笑に付す気は無いが……」
「ゴブリンなんて棍棒を持ってるか、何処かで拾った石を持っているのが普通。まさか人間種と同じ言葉を話し、相手国への攻撃の策を考えるなんて……。間違いなく脅威としか言えない。これは色々考えなきゃ駄目」
「人間と同じように策を考えられるって事は、足を掬われる可能性があるって事ですよね? 俺、詳しく知らないんだよなー。<埋伏の毒>ぐらいしか知らないや。後は<連環の計>?」
「それ、船が燃やされる奴だろうに。この星だと魔法があるから、もっと簡単に燃やされるぞ。せめて<二虎競食の計>とかじゃないか? そっちの方が計略とか策略っぽいけど?」
「何を言っているか分からんが、とにかく魔物と思わず人間種と思った方がいいな。それで、ミクはそいつらをどうしたんだ? 食ったのか、それとも洗脳したかだが……」
「面倒だから食ったよ。後、魅了してたのは<一ツ目>とかいう、目が一つしかない種族だった。初めて見たから驚いたよ。目が一つの代わりに魔眼系の種族みたいだね。それで嗾けたと言ってたよ。それより、隠蔽の装具って作れない?」
「どういう事?」
「そいつらさ、私達の魔力と闘気に目を付けたらしいの。だから警戒して監視してたみたいなんだけど、今後面倒な事が起きそうだから、今の内に対策しておき……」
突然ミクの右腕が肉塊になるとネルを囲み、本体空間へと転送した。実は<魔の神>と<闘いの神>と<創造の神>が来ており、既に準備を整えていた。それを見たネルは本体をジト目で見るが、諦めて物作りを始める。
「突然だったが、神に呼ばれたという事か。いったい何をしてるんだと聞きたいところだが、先ほどの話の流れから言うと魔装具作りか何かか?」
「そうだね。流石に魔力と闘気の両方を隠蔽する為には腕輪の大きさにするしかないんだってさ。それでも隠蔽出来るだけマシだね。私の場合自分で出来るけど、皆は難しいだろうからさ」
「そうだな。そもそも隠蔽系のスキルというのは弱点がある。例えば【気配隠蔽】だと使っている間は魔力を消費するので、魔力の使用を感じられたら一発でバレる。【魔力隠蔽】は微弱な魔力で包むだけだし、魔力を消費する」
「【闘気隠蔽】は同じ理由で闘気を消費し、【精神隠蔽】は感情が動かな過ぎて怪しまれる。隠蔽系のスキルはどんなものでも一長一短あって使い難いんだ。だから結局誰も使わない。使い熟せばバレ辛くなるんだけどね、それでも限度があるし」
「まあ、だからこそエイジ達には隠蔽系のスキルは教えなかったのだ。教えても意味が無いからな。それを覚えるぐらいなら、堂々としていればいい。私達だって堂々としているしな」
そんな話をしていると、国境の砦が見えてきた。一応ここが帝国の東端であり、ここを越えると中立地帯となる。更に向こうへと歩いて行くとゴブルクス王国の砦があり、そこを越えると魔物の国に入る。
他にも色々な情報があったので話していくミクだった。




