0215・ヨーサ町に到着
さて、生かした盗賊の脳を操って聞き出した事を纏めようと、ミク達は村長の家で話し合いを始める。先ほどオーロのお乳を飲んだ弟は眠ったらしく、今は母親が抱いている。それはともかくとして、まずは聞き出した話だ。
「まず一つ目は、あの盗賊どもはヨーサ町の裏組織三つの合同チームだった。そして二つ目は、奴等は村人を売る気も強姦する気も何も無かった。この村を襲う以外に何も言わなかったのがその証拠。最後に三つ目、奴等の言動から間違いなく何者かに操られている」
『まずは一つ目に関してだが、これは俺達には分からない。多分だけど村人にも分からないだろう。ヨーサ町ならともかく、裏組織など普通の平民には一生関わりないものだ』
「「「「「「//////」」」」」」
何人かの牛人族の女性が耳を押さえたので、牛人族の女性に対しても効果があるらしいヴァルの声。番でもないのに赤面しながら、しかし耳を完全には塞いでいない。それを見たヴァルは発言を終え、黙っておこうと思うのだった。
「ゴホンッ!! 第二は明らかにおかしい部分だな。普通は村を襲えば何かを手に入れるものだ。奴等も襲う前はそう言っていた。にも関わらず、実際には襲うだけで何もする気が無かったとはな。ミクの”あの技”は嘘が吐けん。つまり何もする気が無かったのは事実だ」
「第三は当然とも言える。奴等は誰かに言われた後で村を襲いに来たと言っていた。普通なら組織のボスとか幹部なりに命令される。にも関わらず”誰か”としか言わないし、ミクがどんな人物か聞いても答えられなかった」
「男か女かすら分かりませんでしたからね。どう考えても怪しいです。誰かが裏組織の連中を操ってニューデ村に嗾けたとして、いったい誰が得をするんでしょうね? もしくは村に恨みがある奴の犯行?」
「魅了すると言っても70人程ともなれば簡単じゃない。入念な準備をして、気取られないように魅了しなきゃいけない。だいたい村を無意味に襲わせるくらいなら、裏組織を自分の物にした方が早い。それをしない、または出来ないとなると……」
「確実に表に出られない奴だな。国の中枢に関わりのある奴か、それとも貴族関係の奴か、もしくはゴブリンの国の奴か……だな?」
「うん。多分だけどゴブリンの国の奴だと思う。帝国に対する侵略工作の一環なんじゃないかな。人間とそれ以外の種族の対立を煽る。そうやって帝国内部に揉め事を作ろうとしている。何故この結論になるかと言うと、村を襲うだけだったから」
「確かに。村を襲うだけで得することなんてありません。更に対立が酷くなるだけです。そうやって対立して得をする者と考えたら、隣から攻めてきているゴブリンの国ぐらいでしょう。私達の故郷であるヤマト皇国にも、他国からのこういった攻撃はありましたし」
「「「へぇ~……」」」
「まあ、お前達の故郷はともかくとしてだ。魅了系のスキルというのは基本的に、人間種以外の方が発現しやすいのだ。もちろん<蛇女族>など一部例外はあるのだがな」
「ゴブリンの国とはいえ、ゴブリンしか住んでいない何て事はない筈。となると魅了系の種族が居るか、もしくはダンジョンマスターが居る。どちらかは行ってみないと分からないけど、これは仕方がない」
そう結論付けたミク達は、お礼に村長の家にタダで泊めてもらい、村人との物々交換を行った。凍らせていた獲物は結構な村人が求め、代わりにミクは野菜を貰っていく。村に来た商人に売った物の余りらしいが、その量はミクの予想よりも多い。
何故かと思ったら、毎年同じで野菜は余るそうだ。それを毎年必死に消費しており、皆が飽きているものの、多めに作らないと飢饉の年に困るからだと聞く。エイジ達は飢饉が身近な星なのだと改めて思い知った。
今までの道中の村ではそんな話などした事が無いし、聞いた事もなかったのだ。それを聞いた村長は笑いながら、「村の恥になるような事など、普通は言わんよ」と言った。その一言に「成る程」と納得したエイジ達。
見ず知らずの旅人に自分の村は貧しいんです、と見せる阿呆はいない。プライドというより、そういう噂を撒かれては困るという事だ。本当に貧しいと商人すら寄ってこなくなってしまうので、村としては死活問題とも言える。
そんな裏側の話も教えてもらいつつ、またもやオーロは弟にお乳をあげていた。何故か母親や姉の母乳よりも、オーロの母乳を好むらしい弟。魔力が多い事を感じ取っているのだろうか?。
「いや、単に美味しいだけだと思いますよ。俺も飲ませてもらいましたけど、普通に美味しかったです。最初はミキが飲んだんですけど、ビックリするほど美味しいって聞いて、俺も飲ませてもらったんですよ」
「えっ!? ミキちゃんが最初に飲んだの? ………何で?」
「ちょっと気になってね。その……母乳ってどんな味なのかなって疑問に思って、それで飲んでみたらビックリするほど美味しかったの、本当に。その後にエイジも飲んで同じ事を言ったから、やっぱり間違いじゃなかったって思ったよ」
「私も旦那様の後に飲んだけど、ビックリしたね。普通、母乳なんて美味しいものじゃない筈だよ。あれは赤ん坊に与えるものであって、大人が飲んで美味しい筈がないんだけど、何故かオーロの【魔乳】は美味しいんだよねぇ………不思議なもんさ」
「まあ、神様の加護で得たものだし、普通とは色々違って当然だと思いますけどね。でも番って事はエイジの子供は魔力が豊富に育つって事なのか? 羨ましいから、オレの子供が生まれたら頼もうかな……お金払うんで」
「いいね。私とシロウの子供が生まれたらオーロに頼もう。もしかしたら、おっぱいの大きい半身鳥が生まれるかもしれない!」
「いや、多分だけど飛ぶ為に小さいんじゃないかなー? 種族的に大きかったら飛べない気がするけど、そこはどうなんだろー?」
「私達の方を見られても困るぞ? そもそも自分の種族についてでさえ完全に知っている訳でもないのに、他種族など尚の事分からん。まあ、胸が大きいと飛び辛いというのは何となく想像できるが……」
そんな下らない話も終わり、それぞれに宛がわれた部屋に行って寝る。流石に村長の家なうえ、オーロの故郷では出来なかったようである。ミクとヴァルも久しぶりに何も無く分体を停止した。
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次の日、別れの挨拶もそこそこに出発した一行は、何事も無くヨーサ町に着く。村に来ていた商人は元々ヨーサ町の商人で、町に野菜などを供給しているそうだ。そんな事を聞いたなと思いつつ宿をとって食堂へ。
夕食を食べたら宿に戻り、部屋で寛ぎながらも監視は怠らない。妙な連中が後ろをつけて来ていたが、あれはおそらく本命ではないだろう。
「ミク、行くのか? 裏に誰かが居るのであれば、追い駆けて特定せねばならんからな。仕方がない、今日は触手を諦めるか」
そんなローネの言葉を聞き流し、ミクは窓から百足の姿で外に出る。小さい百足の姿で移動し、ミク達の部屋を見張っている連中を逆監視し始めた。コイツらがボスの所へ行ってくれないと追跡出来ない。
ミクがその時をジッと待っていると、一人が外れて移動を始める。他の者達の気配や存在もマーキングしておき、ミクは離れた一人を追い駆けていく。すると、スラムに近い場所の酒場に入っていき、二階の一室をノックする。
コンコン……コン……コンコンコン。そうやってノックすると中から鍵が開く音がし、「入れ」という声が聞こえる。この部屋、何故か窓が無い部屋で外から侵入は出来なくなっていた。
そんな部屋の中にいる、不思議な女達に報告を始めた監視者。それをジッと聞いていくミクだった。




