0214・盗賊殲滅戦
肉やお金の話をすると、何故かニューデ村の村長の家に行く事に。半分強引に連れて行かれた感じだが、そこはオーロの母方の実家だった。どうやらオーロは、村の中ではそれなりに高い地位にあったみたいだ。
にも関わらず、何故村を出る事にしたのかと思ったら、気を利かせる形で出たらしい。無理に出る必要は無かったものの、牛人族としても胸が大きくなかったそうで、それで村の為に出たとの事。意味が全く分からないミク達。
牛人族としては胸の大きい女性が好まれるそうで、村の中の八割は牛人族だ。村の中で番も見つからなかった事もあり、オーロは村を出て人の多い帝都に行く事にしたんだそうな。結果として2年後にエイジに出会う訳だが……。
「そもそも俺って召喚者だからさ、召喚されなければオーロの番は見つからなかったの? それとも番って複数の場合もある? 俺は唯の人間だし、ちょっと分からないんで何とも言えないんだけど……」
「お前、召喚者か!? ……いや、だからどうこうと言う訳では無い。だからオーロ、睨むのは止めてくれんか? それよりも召喚者ならば強き力を持つのであろう? 頼む! 村を助けてくれ!!」
「……えっと、助けてくれと言われれば助けたいんですが、この一行のリーダーは俺じゃなくてですね……。ミクさん、助けてあげても良いですか? 前回の事があるので判断がちょっと……」
「ああ、村なら構わないよ。前は貴族っぽかったから助けたくなかったんであって、村なら特に問題は無い。特に助けてくれって頭も下げてるしさ。これが助けて当たり前っていう態度なら、完全に無視するんだけどね」
「当然だな。助けて当たり前なぞ貴族のようなゴミと同じだ。そんな奴等はこの世から減らしておいた方が良い。なので助けてやる価値など無い。世の中というものは、そういうものだ。村の中も変わらんのだしな?」
ミクが言った言葉に「ムッ」とした村人が居たが、ローネの言葉を聞くと黙った。自分達だって気に入らない奴は助けないのだ。それを他人にやれというのは唯の傲慢でしかない。
静かになった村長宅に急に赤ん坊の泣き声が響く。誰か入ってきたのだが、それはオーロの姉らしい。そんな姉は抱いている子供を連れてオーロの母親の下に来た。
「お母さん。赤ちゃんが泣いてるんだけど、多分お乳だと思う。私があげるよりも、お母さんがあげなきゃ駄目でしょ? ……ってオーロ!? お帰り、村に帰ってきてたのね。それで番は見つかった?」
「見つかったけど、弟が生まれたの!? お母さんもやるわね。それより、お乳をあげるなら私があげるわ。こう見えて<牛の神>と<乳の神>と<魔の神>から加護を賜ったの。だからね、魔乳っていうお乳が出せるようになったのよ!」
「「「「「「「「「「魔乳!?」」」」」」」」」」
その驚きの後、ミクが<人物鑑定の宝玉・一級>を取り出してオーロに使わせる。するとオーロが言った通り神の加護があり、魔乳という魔力が大量に含まれた母乳を出せるという事実から、赤ちゃんにはオーロがあげる事になった。
「いやー、それにしてもオーロが神様の加護を賜る何て驚きだのぉ。番も見つけてくるし、万々歳じゃな。………うん? 東へ行くとか言ってなかったか?」
「言ったわよ。色々な所を旅するらしいから、当然私もついていくし、その途中で故郷に立ち寄ったの。心配しなくても、皆とんでもなく強いから大丈夫よ。……むしろ喧嘩を売ってきた奴等に同情するぐらい」
「そ、そうか……。とはいえ気を付けるんじゃぞ。既に一度出て行ってしまった。いや、見送ってしまった以上は止める権利はワシらにないからの。それ「村長!」より……なんじゃ?」
「村長! 奴等が来た! 武装しとるぞ!! ざっと見て70人はおる。村で戦える者なぞ20人ほどしかおらん。他は武器なんぞ握った事もない。このままじゃ、奴等の好き勝手にされちまう!」
それを聞いたミク達は村長の家を飛び出し、村の入り口へと行く。何処の村でもだいたいそうだが、魔物の被害を減らす為に柵を立てて堀は掘られている。なので、村の入り口以外から盗賊が来る可能性は低い。
入り口の向こう側に70人ほど見て取れる。この数なら中堅の盗賊団とも言えるが、見たところ人間ばかりに見える。この国では人間以外は一段下に見られるのだから、普通は人間以外の種族が多くないとおかしい。
「てめえら! 散々猶予を与えてやったっていうのに、このクソ村の連中は用意もしなかった! つまり奪われても良いって事だ!! 全て奪え、抵抗するヤツぁブッ殺せ!!」
「「「「「「「「「「おぉ!!!」」」」」」」」」」
そう言って攻めて来るものの、村の外に走り出て盾を構えたエイジに対し、立ち止まった盗賊どもは嘲笑する。その間にミク達も戦闘態勢に入ったが、それを見て更に笑う盗賊団。
「ギャハハハ! 見ろよ村の奴等、しょうもない冒険者を雇ったみたいだぜ! いったい何処のボクちゃんだ、てめぇは! そこを退かなきゃ死ぬぞ? ………ほーう、オレ様の言う事が聞けねえか。なら、死ねや!!」
チンピラ盗賊が片手で剣を袈裟に振るが、エイジは盾で流しつつ【スキル】を使って攻撃する。実はエイジも攻撃の為の<アクティブスキル>は使えるのだ。殆ど盾での活躍なので使う機会は少ないのだが。
「【強打旋】!!」
このスキルは全身を回しつつ力を全て武器に乗せる攻撃で、当たれば大きい威力が出るが隙が大きく、回避されると途端にピンチになる。そういうスキルだが、盾を上手く扱えるエイジとは相性が良かった。
上手く盾で流す事で大きな隙が作れる事。また【怪力】持ちのエイジが全力を篭めても壊れない棍棒がある事。この二点から、あまり使われないマイナースキルは大きく化けてしまう。
ドガッ!!! と大きな音がして、盗賊の頭は潰れた。後は死体が倒れるだけである。そもそも普通の人はスキルを持っていても一つか二つしかない。この星ではもう少し多いかもしれないが、どのみちエイジ達のように大量に持ちはしないのだ。
アレは神の加護がある御蔭であり、普通の者と比べても明らかに優遇されている。もちろん神が誰を優遇するかなど神の勝手であるので、エイジ達にどうこうと言っても無駄な事だ。全てはミクを通しての気もしないでもないのだが。
それはともかくとして、その凄惨な死体を見て逃げるだろうと思っていたら、盗賊達はむしろ暴走するように突っ込んできた。何やら奇妙な盗賊どもだが、まずは殲滅しないと始まらない。なのでミク達はドンドン殺していく。
「【風切り】!」 「【穿突】!」 「【疾風弾】!」 「【魔霊矢】!」 「【風魔突き】!」
それぞれのメンバーが魔法やスキルを駆使して戦い、ミク達4人は適当に戦っている。一部の連中は両足を潰しており、動けないようにして放置。他の奴を倒しつつ、情報を持っていそうな奴を残す。
オーロは弟にお乳を与えながら皆の戦いを見ているだけだ。当たり前だが、ミク一人でどうにでもなる事を知っているので慌ててもいない。エイジが怪我をすれば慌てるだろうが、ミクが回復できるので一瞬慌てるくらいだ。
そんなザコを殲滅する仕事も終わり、生かした奴から情報収集をしていく。すると興味深い事実が分かってきた。碌な事をしない連中であるし、同時に何故人間ばかりだったのかも分かった。
なかなかどうして面白くなってきた、と密かに喜ぶミクだった。




