0212・ドラード帝国終了
「で、脳を操って聞いた事なんだけど、最終的にはその場にいた奴等は逃げたみたい。ダンジョンマスターとは金か何かで繋がってたんだろうね。ダンジョンマスターに関しては、私が許す許さないの話しじゃないんだよ、神から「殺せ」と言われてるんだし」
「愚か者とダンジョンマスターの抹殺な。この二点は神からの神命だ。よって取り止めなどという事は無い。殺せと言われている以上は殺す。そこには慈悲も何もない。あってはいかんのだ」
「で、オーロも何となく分かるでしょうけど、私は暴食形態になってバルクって奴を貪り喰った。三人の目の前でね。そしたら恐怖のあまりに失禁してたよ。酷いよねー、本質も出してないのに」
「それは駄目。それをすると精神が壊れる。上級の悪魔でさえ壊れるんだから解放しちゃ駄目だし、危険物として永久に封印するべき。それよりもセリエンテ達も喰ったの?」
「いや、喰ってないよ。バルクって奴はダンジョンマスターと繋がりがあったから食べたけど、セリエンテ達は生きていく為だったからね。下っ端の下っ端をやらなかったら、体を売るしかなかったみたいだし」
「そういう事ですか……。そういえばこの国って人間以外の種族に冷たいみたいですね。隔意があるというか、何というか……」
「かつては西に人間が、東にそれ以外の種族が住んでたの。西はあまり良い土地じゃなかったって聞いた事があるけど、ダンジョンが出来て一変。東よりも豊かになってしまったから、その意趣返しだと言われてるわ」
「あー……そりゃ恨みがあるわな。長い間、自分達は貧しい土地に押し込められてきたってなれば、そりゃあ豊かになったらやり返すよなぁ。そして気付いたらそれが当たり前になったんだろうぜ。そうなったら違うだろって思うけどな」
「まあな。今産まれている子供なんて、貧しい土地で苦労して生きている訳じゃないしさ。もはや、ただ見下したいだけにしか見えない。何というか、こうやって差別が生まれるんだろう。最初は意趣返しだったんだろうけど……」
「そういえばミク、第四皇子が狙われていた理由は何だったのだ? 結局分からないまま死んで、不明なままか?」
「そうだね。そもそもダンジョンマスターとは一度も会わないまま終わったからねえ。あ、セリエンテ達は殺してないけど、善人に洗脳はしておいたから。それと昨日の夜の記憶も消しておいたから安心していいよ」
「何処がどう安心なのかサッパリ分かりませんけど、聞きたくないので分かりました。……そろそろ朝食の行きましょうか、お腹が空きましたし」
そのエイジの一言で皆も部屋を出て食堂にいく。今日から東に移動するので宿の延長は無しだ。注文して席に座り、雑談をしつつ朝食を待つ。すると、おかしな話が聞こえてきた
「知ってるか? 何でも剣のカーター流と槍のジョンソン流の当主が怒鳴り散らしていたらしい。急に剣と槍が消えちまったらしく、誰かに奪われたんじゃないかって探し回ってるそうだぞ」
「その二つの流派ってアレだろ、建国した初代の王様が使ってた剣と槍を貰ったんじゃなかったか? つまり、ソレを無くしたって事じゃねえの? そりゃあシャレにならねえだろ、場合によっちゃ首を落とされっちまうぜ」
「ホントにな。御蔭で大騒動になってんだと。何で消えたかは分からねえらしく、武術大会どころじゃねえってさ。何でも厳重な箱に入れてあった筈なのに、朝起きたら中から消えてたらしい。それでビックリしてるんだそうだ」
ミク達は顔を見合わせてから、聞いた話を考える。前回のダンジョンでドイルという白耳族の持っていた弓、あれもいつの間にか消えていた。もしかしたらダンジョンマスターが生み出した特殊な物は、死ぬと同時に消えるのかもしれない。
あれも確かダンジョンマスターがスキルの力で生み出したとか言っていた。そういう特殊な物が残らないのはむしろ良かったと言える。そんな話を【念話】で行い、朝食を終えた。
朝食後、ミク達は帝都を出て東へと出発する。情報収集をしないのはオーロが居るからだ。彼女は帝国の東の出身らしく、東の地理を知っている。ならば無理に聞き込みをしなくても、オーロに聞けば済む。
それにダンジョンマスターが死んだ今、帝都に長居したくないという事情もある。ダンジョンマスターが居なくなった事はやがて皇帝も知るだろう。そうすれば余所者が疑われるのは当然だ。更にはセリエンテ達が喋るかもしれない。
なので出来得る限り早く、東へと進んでおきたいのだ。仮に追い駆けられても田舎ならば援軍を送り辛いので、気にせず殺しながら移動出来る。負ける事はありえないので、距離のアドバンテージさえ持てば何も問題は無い。
東の国はゴブリンの国だし、帝国とは不倶戴天の敵だそうだ。人間種も好まれないらしいが、かと言って当然のように襲ってくる訳でも無い。そんな国らしい。東の者達は普通に交易をしているので、特に悪感情は無いと言う。
「東の者は何だかんだと言って、帝国にも隔意がありますので……。どっちもどっちというか、どっちも信用せずに生きているというところです。襲われる事はありませんが、長居するのは難しいですよ?」
「そんなつもりはないから大丈夫。私達のやるべき事は神命を果たす事だけど、その理由は肉が喰えるから。ゴブリンだろうと何だろうと、私にとっては肉でしかないしね。むしろ襲ってきてほしいよ」
「「「「「「「………」」」」」」」
「まあ、ミクならそうだな。お前達もそろそろ理解しろ、これがアンノウンだ。それでも神々が見ておられるしミクにも理性はある、だから悪徳な者しか喰わんだろう? そういう取り決めなのだ」
「破ったら私が滅ぼされるからね、流石にそんな危険な事はしないよ。私だって滅びたくはないし肉が食べたいからさ、下らない事をする気は無い。カチンと来たら本質がちょっと出るかもしれないけど、まあ大丈夫でしょ」
「そこはかとなく心配になるのは気のせいですかね? それはともかくとして、ゴブリン……つまり魔物の国かー。帝国以上に「力こそ全て」って感じがするのは気のせいかな。ラノベでそんなパターン多いけど……」
「まあ魔物だからなぁ……多かれ少なかれ、そういう部分はあるんじゃないの? むしろ全く無かったら、それそれで問題だと思うぜ? 侵略してきてるって聞くし、全てじゃなくても力の比重は重いだろう」
どんな国だろうと話し合いながらミク達は歩いて行く。オーロが言うには南のジーム町まで戻って、そこから東に向かう事になるそうだ。
ジーム町から東にソエ村、ジデ村、ホンデ町、サット村、ハイデ村、ゴクト村、アロン村、ニューデ村、ヨーサ町。そして国境というか長い距離が空いている形みたいだ。
ヨーサ町は分厚い壁で囲まれた、ゴブリンの国からの侵略を防ぐ為の町らしい。実質は防衛用の要塞に近く、多額の金銭を使って維持している。その手前にあるニューデ村がオーロの故郷なんだそうだ。
帰るのは久しぶりだが、番を見つけたので凱旋に近いらしい。牛人族は同種族であろうが異種族であろうが構わないが、本能が満足する番でなければならないそうだ。そうでなければ不幸にしかならない。
言っている意味は分からないが、ミキとシェルは「うんうん」頷いているので分かるのだろう。エイジは苦笑いしているが……どうやら色々あったようである。
微妙な表情になりながらも、エイジは口を開いた。




