0208・恐怖のG地帯
「ダンジョンマスターがダンジョンの外に居るっていうのは、外の事に関わり過ぎているからそう思っただけだよ。ダンジョン内の事をしていない訳じゃないんだろうけど、今までのダンジョンマスターに比べて色々おかしい」
『まあ、主が言いたい事はよく分かる。この国の建国者だからか、妙な事をしている感じだ。おとなしくダンジョンマスターをしている訳じゃなく、ダンジョンマスターのスキルを使って政治に介入している感じか』
「それもあるが、第四皇子を暗殺しようとした事もだな。何故そんな事をする必要があるのかサッパリ分からん。そのうえ城に戻ったら手を出さんしな。やろうと思えば城の中にスパイを入れるなど容易いだろう」
「暗殺者も簡単な筈。それこそ脅ぜば従う者は多いと思う。ダンジョンマスターだけど建国者だし、高位の家であるほど知っている筈。建国者の命令となると国家としては重い。もちろん全てに従う訳じゃないだろうけど……」
「皇帝と宰相が話してたんだけど、皇帝の兄達は何故か互いに放った暗殺者に殺されたらしいよ。正直に言って、猛烈に怪しいよね。どう考えても、今の皇帝を即位させる為に暗殺したとしか思えない。ダンジョンマスターがさ」
『その話を聞くと、俺も主の意見に賛成だ。そんな都合よく上手く事が運ぶ事など無いだろう。今の皇帝が狙ったというより、ダンジョンマスターが介入したという方が納得出来る。ダンジョンマスターのスキルは色々な事が出来すぎるからな』
「今の皇帝は元々宰相と共に冒険者をしてたらしい。そしたら急に兄二人が死んで連れ戻されたんだってさ。本当は冒険者を続けたかったみたいだね。”アレ”に脅される立場になるとは思わなかったと言ってたよ」
「ダンジョマスターですか……。一国のトップ、それも皇帝が脅される立場というのも凄いですね。それにしても、執拗なまでに第四皇子を殺そうとした理由は分かりませんけど、その辺りに行動理由があるのかな?」
「どうしても第四皇子を殺さなきゃいけない理由か? ……まあ、プライド高そうな感じはしたけど、それで殺すのもおかしいし……。周りの騎士は一名だけポンコツだったけど、それ以外は普通だったしなぁ」
「第四皇子を殺す為じゃなくて、皇帝を脅す為にやってるって事は無い? 皇太子だと大きな問題になり過ぎるから、第四とはいえ皇太子の弟を狙ってる。場合によったら皇太子の命も無いぞって」
「第四皇子に関わりが無いってなってくると、ちょっと分からないねー。どのみちダンジョンコアを破壊するんだから、それで終わるし。ダンジョンマスターはそこで終了だけどねー」
「まあ、そうなんだけど。……あっ、ミクさん。すみませんが媚薬を頂けませんか? オーロは経験が無いらしいので、できればお願いしたいんですけど……」
「特に問題ないけど、入れ物は……ってコップを用意してたんだね。………はい、入れ終わったよ。話は終わりだし、後は……って貴女達も?」
ミキとシェルとサエとベルの分の媚薬も入れ、ミクは彼女達を部屋に戻らせる。エイジ達が出て行ってヤレヤレと思っていると、ローネとネルがいそいそと準備を始めた。
相変わらずだなぁ……と思いつつ、今日は男性形態で相手をするのだった。アレから媚薬を注入したので大悦びされてしまい、無駄に時間が掛かってしまったが。
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帝都五日目。この日は武術大会二日目だが、ミク達には関係が無い。召喚陣も爆破したので、残るはダンジョンコアの破壊である。今回のダンジョンマスターに関しては、ミクは無理に殺す気は無い。
というより、ダンジョンの中に居ないのであれば、誰がダンジョンマスターか分からないからだ。ミクは自分の予想がそこまで間違ってはいないと思っている。ダンジョンマスターが、必ずダンジョンに居る必要が無いからだ。
攻略が難しいダンジョンを作り出し、後は外をフラフラしつつ偶に戻ればいい。そこまで安定しているならば、外に出ていても問題無いだろう。それに今までのダンジョンと違い、侵入者を通さないという意志が稀薄な気がするのだ。
数が多くて厄介なダンジョンだがそれだけで、何がなんでも殺す、という意志が薄い感じがどうしても拭えない。ミクはダンジョンの中で、そういったものも感じ取っていた。そこがダンジョンマスターが外に居るという根拠の一つでもある。
それゆえ、攻略するならダンジョンマスターが不在の間に一気に攻略すべきだと思うのだ。その辺りをローネとネルに語っているのだが、寝起きだからかイマイチ聞いていない。「まあ、いいか」と思い、覚醒するまで待つのだった。
宿の玄関でエイジ達と合流し、食堂に朝食を食べに行く。昼食も買ったらダンジョンへ。一度通過した場所では特に苦労する事も無く、一気に前回到着した21層まで来た。山の地形だが、なかなか嫌な予感がした地形である。
少し調べてみて理解した。この地形ではポイズンバタフライが出てくる。更にはブラックセンチピードとフライングコックローチなども出てきて、地獄絵図と化す。エイジ達は暴れるだけでまともに戦えていない。
落ち着かせるも上手くいかないので、更に暴れさせる事にした。面倒だからといって、ミクがフライングコックローチに火を着けたのだ。【火弾】が直撃して暴れ回るフライングコックローチ。それを見て更にギャーギャー暴れるエイジ達。
途中から楽しくなってきたミク達は、徹底的に火を着けて遊ぶのだった。ちなみにミク、ヴァル、ローネ、ネルの四人は、コックローチに対して忌避感などは無い。単なる虫の一つとしか認識していないので、エイジ達が騒ぐのが理解出来なかったりする。
火の着いた虫が暴れ回るのを何度も見て、ようやく慣れて落ち着いてきたエイジ達。まさかの精神攻撃に余計な疲弊をしてしまうのだった。
「アレは生理的に受け付けない虫なんですよ。俺達の故郷に出るのはもっと小さい虫ですけど、あいつら毒にも耐性を持つ非常に厄介な虫なんです。それよりも何で百足とゴキが一緒に居るんですかね? 百足ってゴキを食う筈ですけど」
「そうなの? それにしても最悪。まさかこんなダンジョンの層があるとは思わなかった。最低の層だよココ。とにかくここまで戦いたくないのは初めて。蝶や蛾、それに百足ならいいけどGは駄目。耐えられない」
周りも「うんうん」頷いているので本当に駄目らしい。エイジ達だけではなく、シェルやベルにオーロも駄目なようだ。何故、虫如きにここまで駄目なのか分からないが、仕方なくミク達が倒して進む。
百足は切り裂き、蝶や蛾は吹き飛ばし、コックローチには火を着ける。そうやって突破していき25層。ボス部屋に入った途端、エイジ達は発狂した。何故ならボスはグレーターコックローチ七匹だったからだ。
急に難易度が跳ね上がっているが、何としても攻略させまいとする意志が感じられる。この辺りから急になのだからよく分からないが、ミクはかつて<魔女ゼルダ>が使った【火焔爆熱】を使用した。
この魔法、ミクが魔法陣ごと喰らったから発動しなかったが、元来は爆発炎上する強力な火球を無数に作り出して飛ばす魔法である。上級に分類されるのは伊達ではないのだ。ミクには欠片も効かない魔法ではあるが。
【火焔爆熱】を使ったミクは、21個の火球を作りだして一匹につき三つを飛ばす。グレーターコックローチはカサカサ回避するものの、その火球は凄い速さで追尾し、激突して爆発炎上を起こす。
グレーターコックローチ七匹は瞬く間に殲滅されたのだった。




