0207・新しきオーロ
ミク達が話し始めようとするとドアがノックされ、許可を出すとエイジ達が入ってきた。そこまでは良かったのだが、その中にはオーロが居る。ミクは何故オーロを連れてきたのかエイジに聞く。
「エイジ、その女をこの部屋に連れてきた理由は? これから話をしなければいけないんだけど、私達はそ…………」
「ミクが固まったか。となると、しばし待たねばならんな。いったい何を言われているのか分かっ!?」
突然ミクは右手を肉塊に変え、オーロを飲み込んでしまう。その瞬間、何があったか理解したエイジ達はミクに聞く事も無く、ベッドに座ったりして話を始める。今日一日、聞きたかったものの聞けなかった事を。
「今日あった爆発、アレってミクさんがやった事ですよね? 朝のアレから色々な所に騎士や兵士が居ますし、なんと言っても質問される回数が多過ぎて辟易しましたよ。何回も何回も同じ質問をされましたし」
「最後の方はエイジ、顔が固まってた感じだったよね。必死に笑顔で話そうとして、逆に不審者みたいな顔をしてたから。騎士の人も分かってくれたのかスルーしてくれたけども、相当に酷い顔だったよ?」
「旦那様がああなるのも仕方あるまい。私達でさえ、あの頻度で声を掛けられて辟易していたのだ。私達はあからさまに顔を変えていたからだろうな、騎士が旦那様の顔を見て理解したのは」
「シロウも同じだったよねー、必死に取り繕った顔をしようとしてたけど、面倒臭さが滲み出そうになるのを必死に堪えてた。御蔭で稀にみる酷い顔になってたよー」
「仕方ないだろ? あそこまで酷いとは思わなかったぜ。声を掛けられて散々疑われて解放されたと思ったら、次の路地でまた声を掛けられるんだ。いい加減にしろって思うのは当然だろ。本当に鬱陶しかった」
「面倒だったねー。同じ人達で固まってればいいのに、一人一人居るから毎回止められるんだよ。本当、嫌になるー」
今日の愚痴を皆で言い合っているとミクが再起動した。結構長かったので面倒な事があったのかと思ったら、やっぱり面倒な事があったらしい。下らない事でしかないので、溜息を吐きながらミクが話す。
「あのオーロに私の肉を与える為、<牛の神>がスタンバイしてたんだけど、<魔の神>と<狩猟の神>が来て口論を始めたんだよ。シェルとベルは腕や足を変化させる為だったから納得した、でもオーロには必要ないだろうってさ」
「まあ、あの女の手足は人間と変わらんからな、必要が無いと言われればその通りだ。とはいえ、そんな事は<牛の神>もご存知だろう。ならば何にミクの肉を使うのだ? 何か必要な事がある筈だ」
「<牛の神>はね、牛人族の母乳を改良したいと常々思ってたんだってさ。何でも魔力を多く含ませる事によって子供の魔力量を増やすとか、そんな事を話してたよ。それは下界の全ての種族に恩恵があるって言ってたね」
「成る程。<牛の神>は牛人族の女性を乳母にしたがってる。そうする事で、地位を向上させようとしているんだと思う。もしくは牛人族の女性を増やそうとしてる? 魔力を増やせる乳母となれば取り合いになるのは確実」
「確かに子供の魔力量が増えるとなれば、貴族は取り合いをするでしょうね。そういう所は目敏いでしょうし、自分の子供が上のランクに行けるかもしれないとなれば……逆に狙われて危険かもしれない」
「拉致、誘拐って事? 確かにこんな時代の貴族だとやりかねないな。利益があるなら奪い合う。それ自体は当たり前だけど、そこで平然と殺し合いになるのがどうもなー。飛び過ぎている気がするんだ。もうちょっと段階踏もうぜって言いたくなる」
「あー、分かるわ。こっちってさ、いきなりなんだよな。いきなり刃物抜くとか、いきなり殴りかかってくるとか、オレ達にしたら早過ぎるんだ。もう少し我慢する段階があるだろ? って、本当に思う」
「元の星が10段階なら、こっちって3段階ぐらいしかないよねー。通常、殴る、殺す、ぐらいしかない感じ。通常、会話1~5、喧嘩1~3ぐらいあって、最後に殺す。普通はこうだと思うー」
話の最中に突然ミクの右腕が肉塊になり、中からオーロが出てきた。いきなりで驚いたみたいだが、宿の部屋だと知って安心したらしい。本体空間では神々に会っていたのだ、気は休まらなかっただろう。
安堵しているオーロに<人物鑑定の宝玉・一級>を使わせて鑑定する。すると、相変わらずおかしな事になっていた。
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<オーロ・サンディアーラ>
種族・牛人族
性別・女
年齢・18
【スキル】魔乳・愛ノ猛進・吶喊・槍術・斧術・長柄術・走術・頑健・治癒魔法・乳愛術
【加護】牛の神・乳の神・魔の神
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「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「また神どもの所為でおかしなスキルになってるねー。あいつらは新しいスキルでも作りだしたいのかな? 流石に神どもが何も考えずにやってるって事は無いから、何かあるんだろうけどさー。あいつら絶対に説明しないんだよ。余計な事は一切教えないし」
『まあ、神どもの事を話しても仕方あるまい。主はオーロに使わせるハルバードでも作ってきたらどうだ? スキルを見る限りはそうなるだろう?』
「まあ、そうだね。本体でハルバードを作りつつ、今日何があったか話していくよ。流石に裏切ったらどうなるかは分かっただろうし、神どもの監視もある以上はオーロが裏切る事はないでしょ」
「もちろんです! あ、あんな風に神様の前に立たされるのは二度と御免ですよ。幾らなんでも恥ずかしいですし、どうしてあんなにジロジロと見られるのか分かりません、まるで見世物のようでした!」
「まあ、見世物っていうか、そもそも欲とかそういったものは欠片も無いからね。どう改造するかを話していただけだし。あいつら態と真神語で話してたから、オーロは一切分からなかったでしょ?」
「ええ。神様が何を仰っているか、まったく分かりませんでした。神様の前に全裸で立たされ、あれこれと話しておられる前でジッとしていただけです。猛烈に恥ずかしかったですけど」
「それよりも、そろそろ今日の話を始めてくれ。このままではいつまで経っても始まらん」
「了解、了解。私は帝城に侵入したんだけど、最初に行ったのは会議をしていた部屋。文官が会議をしていて、そこでは武術大会の賭けの話と、第四皇子の話をしてた。あの皇子、第四皇子だったみたい」
「だとすると皇位継承権も低い筈。ならば何故狙われる? 執拗に殺そうしているし、帝都までの道で少なくとも100人は嗾けていた。流石におかしいし滅茶苦茶。第四であろうと皇子にするような事じゃない」
「第四皇子だけど皇后の息子らしいよ。皇太子の弟で仲が悪いとかは無いみたい。文官も何故狙われるのかって首を捻ってたよ、皇后の実家を考えたら手を出さない筈だって。どうも皇后の実家は裏の事をしている家で、ヴァイセリオン侯爵家っていうそうだよ」
「裏を牛耳っているか、裏の主力の家か? それは手を出さんだろうな、普通は。その割には執拗に狙われているが……」
「その後、皇帝の執務室に行って分かったんだけど、第四皇子の命を狙っているのはダンジョンマスター。そしてそのダンジョンマスターは、この国の建国者だった。その事から、ダンジョンマスターは普段、ダンジョンの外に居るんじゃないかと思う」
ミクがそう言うと、その場に居た全員が一斉に驚いた。




