0206・召喚陣爆破 (二回目)
再び移動して探し回るもなかなか見つからない。城の中を全て確認しても見つからなかったので、ここじゃないなと思ったミクは離宮に行く。実は城の裏側には複数の建物があり、おそらく皇后や側妃の離宮だろうと当たりをつけていた。
早速そちらに移動して調べて行くのだが、思ったような豪華絢爛さは無く、思っているよりも質素だった。前にローネが言っていたが、豪華な物に囲まれていると疲れるだけらしい。城の中は豪華でも、離宮は質素にして落ち着くようにしてあるのだろう。
そんな事を考えつつ一つ一つの離宮を調べていると、ようやく召喚陣を発見した。一番奥の離宮であり、今は使われていない風に装っていた建物だ。おそらく離宮の様に見せているだけで、実際は召喚陣用の建物なんだろう。
中の召喚陣をどうするべきかと思ったら、またもや本体に爆発物を渡してくる<魔の神>と<狩猟の神>。この二柱は爆破する事に喜びを見出したんじゃあるまいな。そんな風にミクは思っているも、神の命令なら従うしかない。
召喚陣の真ん中に穴を空けて差し込み、線を引っ張って入り口まで持ってくる。後は線の先に魔力を流し、全力で逃走するだけだ。召喚陣用の建物だからか、近くに寄り付く者は誰もいない。必死になって逃げ、平民街に入った所で大爆発が聞こえてきた。
ドカーーーン!!! ガガガ………!!
爆発したのが離宮の奥にあった建物だからか、帝城に被害は出ていないようだ。それにしても凄い爆発であった。帝城に被害が出ていないとはいえ、離宮には出ている可能性が高い。とはいえ大混乱しているうえに、ミクは被害を調べる気も無いのだが。
帝城での大爆発で平民街でも貴族街の近い所まで詰め寄る民が多く、スラムの方面は手薄になっている。ミクはスラム近くまで行き、誰も見ていない事を確認したら素早く女性形態になって服を着る。そして何食わぬ顔で大通りに出るのだった。
そして適当に歩いていると、セリエンテ達が居た。彼女らも大爆発を聞きつけ、慌てて家を出てきたらしい。……オーロという牛人族が居ないが、彼女はどうしたのだろうか?。
「オーロかい? あいつなら途中であんたの仲間の若い男を見つけたからそっちに行ったよ。牛人族は感覚で番を見つけるって言われてるんだけど、オーロの感覚は完全にあの男を番と認めたようだね」
「エイジもどうしてこう苦労する女ばかりが近くに寄ってくるんだか……。ミキが既に重い女なのに、次のシェルも重い女だし、その次は感覚で番を見つける女ってねえ。笑っちゃうくらいエイジを逃がさない女ばかりじゃん」
「ああ、あの女性達もそうだったんですね。もう一人の男性の方にはオーロは見向きもしませんでしたから、間違いなくあちらのエイジ? という方でしょう。その……貴女は御先祖様と関係があるのですか?」
「あるっていうか、何て言うか……。ローネって千年以上に渡って満たされた事が無かったんだってさ。まあ、私がそれを満たしちゃったもんだから、そこからの繋がりかなぁ……ネルも似た様なもの」
「そ、そうですか……御先祖様のそういう事は何とも言い辛いのでアレですが、そういう御関係だったのですね」
「ま、男だろうが、女だろうが同じだよ。満足させてくれる相手じゃないとねえ。それより、さっきのデカい音がなんだったか知ってるかい?」
「さあ? 私も大きな音を聞いたから来ただけで、それまでは帝都の中をフラフラしてたから分からない。ローネとネルはヴァルと一緒にお酒とか買いに行ったよ。私は飲まないから、どうでもいいしね」
「おや、酒を飲まないのかい? そりゃ勿体ない。酒を飲むのは最高の贅沢だっていうのに残念だねえ。そんなに弱いのかい?」
「逆。私、強すぎて酔わないの。だから飲んでも無駄にしかならないし、別に美味しいとも思わないから飲まないだけ。酔えないから飲んでも無駄だし、それなら酔える人が飲んだ方が良いからね」
「ほー、そりゃ良い事を聞いたよ。ならこれから酒場に行ってあたしと勝負しようじゃないか。負けた方が全額払う。それでどうだい?」
「別に良いけど、私料理も食べるよ? それでいいなら勝負を受けるけど」
それで決まり、セリエンテ達と昼前から酒場に行く事に。まあ彼女達と共に居れば爆破犯と疑われはすまい。そんな打算もあり、ミクは彼女につき合う事にしたのだ。タダで食事も食べられるし。
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夕方前の酒場。そこには完全に倒れて寝ているセリエンテと、10人前以上を食べて、ワインの大樽を一人で飲みつくしたミクがシラフのまま食事をしていた。酒場の客もマスターも全員が唖然としている。もちろんセリエンテの仲間もだ。
そんな中で未だに優雅な所作でゆっくり食事を続けているミク。その時、酒場の入り口が開きローネ達が入ってきた。ローネとネルはミクの座っているテーブルの席に座ると、食事と酒を注文する。その後、ヴァルが座って食事を頼む。
「まあ、見ただけで何となく分かるが、このバカがミクに挑んで叩き潰されたのだろう。自分に自信があったのだろうが、ミク相手では負ける以外にない。私達は知っているが、知らなければ勝てると思い込むのであろうな」
「大樽一つ分のお酒が無意味に消えた。残念だけど仕方ない。バカが喧嘩を売った所為ではあるんだけど、無くなってしまった以上は文句を言っても無駄。それにしても自称大酒飲みは碌な事をしない」
『主は大酒飲みを超えているからな。幾ら飲んでも酔う事は無いのだから、飲ませる意味が無い。更に主は酒を好まんので余計に飲む意味が無いからな。何故圧倒的な強者に挑むのか理解できん』
そんな会話をしながら酒を飲み食事を楽しむローネとネル。食事をしながらミクと会話しているヴァル。セリエンテの仲間達は諦めたように溜息を吐き、飲食代を支払うのだった。
そんな酒場での食事も終わった帰り道、騎士達がウロウロしているのを見ていると話しかけられた。怪しまれているというより、怪しい者を探しての聞き込みのようだ。
「申し訳無いけど、私は知らない。朝も早くからセリエンテに誘われて酒場で飲んで食べてたし、酒場に怪しい奴も来なかったしね。ローネ達は?」
「私達も見ておらんな。帝都をウロウロしたり酒を買ったり、酒の肴を買ったりしていただけだ。後は観光だな。武術大会は迷ったが、行くのは止めた。仮に見に行くにしても明後日からだろうしな」
「流石に一日目は挑む者も多いし、その殆どは大した事がないヤツばかり。そんなのいちいち見てもしょうがない。見るなら実力者が揃う三日目にするべき。最初から見たって見物料の無駄」
「そ、そうか。まあ、怪しい者を見たら騎士に報せてくれ。ではな」
そう言って騎士は離れていった。ミク達はそのまま宿に戻り、部屋に入るとすぐに魔道具を起動する。もちろん【消音空間】の効果がある魔道具だ。その後、本当の話し合いを始める。
「それにしても帝都内に騎士や兵士が多いね。仕方ないとは思うけど、ここまで多いと、ある程度の期間は疑われる可能性が付き纏うかな。とはいえ、今回もやれって言われたからやっただけだし、私に文句を言われても困るよ」
「やはりそうか。どうせそんな事だろうと思っていたが、どうしてそういう命令が下るのだろうな? 毎回派手にする必要が何処にあるのやら。挙句の果てには武術大会の最中だぞ。まあ逆に言えば、だからこそ疑われる可能性は減らせるか」
減るというより、薄まるが正しいのではなかろうか?。




