0205・帝城にて
宿の部屋に戻った二人はその後もグッタリしているが、それだけ大変な修行だったのだから仕方がない。【闇神術】や【創神術】は非常に強力な反面、繊細な制御が出来なければ失敗してしまう。しかも制御が相当シビアなのだ。
ミクならばあっさりと成功させるだろうが、ミクは神子ではないので使えない。まあ、本人は使いたいとすら思っていないが。それを言い出すと色々面倒な事になるのでミクも何も言わない。もちろん神々には思考などバレている。
とはいえ口に出さなければ咎められもしないので、ミクも思うだけに止めているのだ。それはともかく、部屋に帰ってきた時から分かっていたが、昼食も夕食もとらずに盛っているらしい。本格的に大丈夫だろうか?。
実生活にまで影響を及ぼすなら何処かで……と思っていたら、エイジ達とシロウ達の気配が部屋を出た。示し合わせた訳ではないだろうが、殆ど同時のタイミングだった。仲の良い2チームである。
ローネとネルは流石に今日は厳しいとの事で、さっさとベッドに入って寝たようだ。ミクとヴァルもベッドに寝転がり、分体を停止するのだった。
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帝都四日目。昨日は休みだったものの、雨で特に何も見れなかった。なので、今日は帝都観光の日だ。ついでに武術大会一日目である。ミクとしては、この武術大会の期間中に召喚陣を破壊したい。正に武術大会はいい目眩ましだった。
その予定を起きたローネやネルに話し、今日も休みにする事に決める。エイジ達もシロウ達も特に反対はしないだろう。今日も町に出ずにヤっている可能性が否定できない連中だし。
宿を出て玄関に行くとエイジ達も出てきたので、挨拶して食堂に行く。朝食を注文して今日は観光だと言うと、エイジ達も素直に観光に出ると言い出した。本当かと訝しむも、昨日で”ある程度”満足したらしい。男二人の顔が引き攣ってはいるが。
朝食を食べつつ【念話】で裏の話も伝えておく。召喚陣を破壊しに行くと聞いたものの、エイジ達は驚く事もなかった。何だか拍子抜けではあるものの、騒がないなら何でもいい。
「いや、騒いだりなんてしませんよ。それにアレは壊しておいた方が良いって俺も思いますし、何より被害に遭う人の事を考えたら、無くしておいた方が良いに決まってます」
「オレもそう思います。正直に言って、あんなのを利用し続けられても困るってのが本音です。オレには妹がいるんですが、アレで呼び出されても困りますしね。既に……って可能性は否定できませんけど」
「可能性は低いでしょうけど、無いと言い切れないのがねー。私も弟がいるけど、ここに来たら絶対騒ぐだろうし、恥ずかしいから来てほしくないかなー」
それぞれの家族で色々あるのだろう。流石に問題を起こしそうな家族に来られると、自分が恥を掻くので困るというところか。
朝食後、それぞれバラバラに動き出して町中に散る。エイジ達とシロウ達はデート。ローネとネルは市場調査という名の酒の購入などの買い歩きで、ヴァルは二人についていく。ミクは神命を果たしに帝城へ。
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ミクは怪しい路地に入り人目が切れたら、素早く小さな百足になって帝城へと繋がる貴族街へと進む。大通りの脇をチョロチョロ進んで行く事で、誰からも怪しまれる事無く帝城への門を通過していった。
城への侵入を果たしたミクは、怪しい場所を手当たり次第に探していく。と、ここでも大勢が集まって話し合っている部屋があった。まずはここで内容を聞いていこうと部屋の中へ入る。
「武術大会の賭けはどうなってる? …………まあ、順当なところか。上手くカーター流の当主と、ジョンソン流の当主に分かれてくれてるな。このまま推移していってくれればいいんだが……」
「今年は冒険者も割と有名どころが出ているから分からんぞ。場合によっては負けるかもしれんから、その際の予測をある程度しておかんとな。大損で暴動でも起こされたら困る。流派の名前を背負っているから、態と負ける事は無いだろうがな」
「そうだな。それよりも皇子の件はどうなったんだ? 賊に襲われた件だよ。そもそも皇子は継承順位も低いっていうのに、何でこう命を狙われるんだろうな? 御本人も気位が高いとはいえ、ここまで恨まれるような方でもないぞ」
「そうなんだよな。一番命を狙われない筈の皇子が、何故執拗に狙われるのか意味が分からん。第四皇子殿下だけが妙に狙われるが、皇太子殿下の弟だぞ。しかも仲は悪くない。表に出せんものはあるだろうが、それでも命を狙うようなものは無い筈だ」
「第一、第二の皇女殿下はどうだ? 自分の弟の為に邪魔な者を……という線はないか?」
「それはないだろう。もしそれをすれば側妃殿下の実家が黙っておらん筈だ。皇后様の御実家はヴァイセリオン侯爵家だぞ? 間違いなく秘密裏に暗殺される。あそこは帝国の裏を強固に支える家だからな」
「そうなのだ。何故ヴァイセリオン侯爵家の皇子が命を狙われるのか不思議でしょうがない。そして命を狙われているというのに、何故かヴァイセリオン侯爵家が不気味に沈黙しているのも分からん。もしかして……」
「それ以上は考えるな。何が裏で蠢いておるのか分からんのだぞ。明日の朝日を拝めぬ体になりたいか? ……ああ、裏に首を突っ込んでも碌な事にならんよ。我等のような文官は大人しくしておくに限る」
どうやらあの皇子は第四皇子だったらしい。属国を視察させるには丁度良かったのか、それとも他に何か思惑があったのか。それはともかくとして、これ以上聞いてもしょうがないミクは召喚陣を探して移動していくのだった。
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次に気になったのは皇帝の執務室だ。見つかるようなら離れるのだが、相変わらず見つかる事も無く入れた。ミクは分体との関わりを薄くしている部分もあるので、余計に見つかり難いのだと思われる。
「ふーむ………本日は武術大会であるというのに見に行く事も出来んか。仕方ないとはいえ、時々皇帝の椅子が面倒になってくるな。兄上方が下らぬ事をした所為だが……」
執務室の中では精悍な顔をした、まだ30代半ばのように見える男性が執務を行っており、その横には初老の男性が座る机もある。どうやらそちらは宰相らしい。
「懐かしいですな。あの時は陛下も私も、慌てて家に戻されました。何があったのかと思ったら、皇太子殿下と第二皇子殿下がお互いに放った暗殺者の手で亡くなるという、前代未聞の事が起きましたからなぁ」
「せっかく当時のダンジョンの奥で、フロストベアを倒した帰りだったのにな。私がアレに脅される立場にならねばならんとは……」
「ゴホンッ! ……陛下、どこに耳があるか分かりませぬ故、気を付けて下され。それはそうと、何故あの方は第四皇子殿下だけ命を狙われるのか、私はともかく陛下にさえ説明がありませぬ。それもダンジョン内ですらなく……」
「分からん。かれこれ八年も無しのつぶてだ。何かをしろという命は来るが、こちらに姿を現した事など一度もない。その癖、こちらの命は握っておる。姿も分からぬ上に声も分からん。どうする事も出来んよ」
「我が国を建国した怪物。そろそろその呪縛から解き放たれたいものですな。前に召喚した者も生贄として差し出さねばなりませんでした。いったい何時までこんな事が続くのやら」
少なくとも国の中枢は、相当の不満をダンジョンマスターに対して持っているらしい。それが分かっただけでも良かったかと思い、ミクはその場を後にするのだった。
それにしても、第四皇子の命を狙っているのがダンジョンマスターとは奇怪な話である。ここのダンジョンマスターはダンジョン外の事に関わり過ぎだろう。
案外、ダンジョンの外に普段は居るのかもしれない。ミクはそんな予想をしながら、召喚陣を探して移動するのだった。




