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0204・雨の一日




 21層に到着するとそこは山だった。何だか嫌な予感のする地形だが、一行はダンジョンを脱出して外に出る。既に夕方であり、外はポツポツと雨が降っていた。慌てて帝都へと戻り、ミク達は食堂へと滑り込む。


 夕食を注文して一息吐き、食事までゆっくり待とうと思っていると横から話しかけられた。顔を見ると巨人族のセリエンテであり、彼女のパーティーメンバーも全員居る。



 「よう。やっぱり一足先に帝都に着いてたか。あんた達が去って行った後は大変だったんだぜ? 皇子はキレるし、あの騎士はオレ達の所為だとかホザくしよ。まあ、皇子にすげえ怒られてたけど」


 「そもそも明らかにおかしかったですからね。最初から怒らせる気なんじゃないかと思っていました。その結果、言質をとって離れる。言葉は悪いですが、流石の手際だと思いましたよ」


 「本当にな。ああいうのは我々では考え付かない。上手く逃げられるなら逃げたいが、我々も食べて行く必要があるからそう簡単でもないしな。それに、魔物を倒しても収支が悪い事も……」


 「そうなんですか? 俺達は普通に魔物退治だけで儲かってますけど………もしかしてそれって珍しいんですか?」


 「珍しくはないけど、結構な高値で売れる魔物を狩らない限りは難しい。必然的に実力のある者となる。パーティーメンバーが増えるほど、必要な経費も増えるからな。君達がその人数で儲かっているなら羨ましい限りだよ」


 「武具も毎回メンテナンスに出すけど、結構な金額を取られるからなあ。おれたちが使ってる弓矢は特にだ。弓はそこまででもないが矢が酷い。何とか自作してるが、自分で作った物はそんなに良い物じゃないからなー」


 「だから金額の高いま………どうしたんだい? 変な顔をして。何だか妙に気になるね」


 「あー………えー……俺達はメンテナンスとか知らなくて、ネルさんに丸投げしてるので……。すまない。よく分かってないんだ」


 「言葉は悪いけど、下手な者がメンテナンスを自分でしても長持ちしない。そんな事をされるくらいなら私がした方が早いし綺麗。だからエイジ達はそういった事をまったく知らない」


 「はー、成る程ね。ある意味で羨ましいったらないよ。創半神族ドヴェルクが武具をメンテナンスしてくれるなんて、どれほどになれば可能なのか……。あんた達はよく分かってなさそうだね?」


 「「「「は、はは……」」」」



 適当な笑いで流そうとするエイジ達と、それを見て呆れるセリエンテ達。食事後はお互いに宿に戻ろうと思ったのだが、セリエンテは帝都に家を持っているらしく、そこで寝泊りするそうだ。家持ちとは驚きである。


 普通は首都に家など簡単には持てない。職を持っているならまだしも、冒険者という見下される職業で家が買えるという事は、相当程度の信用を得ているという事だ。皇子の護衛だったのも納得出来る。


 会話と食事を終えて宿の部屋に戻ったミク達はゆっくりと過ごす。明日は休みにすると言っておいたので、今日は遅くまで盛るだろう。そんな事を考えつつ今日はネルを満足させ、ベッドに寝かせるミクだった。


 ヴァルの方も終わったようなので、ベッドに寝転び分体を停止する二人。朝まで暇を潰すようだ。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 帝都三日目。分体を起動すると「ザー」という音が聞こえる。どうやら結構な雨が降っているらしい。今日は休みにするつもりだったので問題無いのだが、帝都観光は無しのようだ。そもそもどうでも良かったミクにとっては然して気にもならない。


 ヴァルも起動し雨が降っている事を理解したのか、「今日は休みで良かった」と言っている。何かをしなければいけない日に雨が降っているよりはマシか。そんな事を思いつつ、ローネとネルを起こして部屋を出る。


 宿の延長をしておき、エイジ達と合流したら食堂へ行く。朝食を注文して待っていると、近くの席から話が聞こえてきた。どうやら職人らしい。



 「昨日スラムの連中が消えてたって大騒ぎしてたけどよ。アレって結局どうなったんだ? オレは昨日も一日仕事浸けだったんで詳しく知らねえんだ。スラムの奴等が居なくなったってなったら万々歳なんだがなぁ」


 「お前んトコの親方は脅されてたんだっけ? だったら居なくなってくれた方がいいわな。昨日行った娼館じゃスラムの連中が居なくなったんで別の連中が入り込んでくるかもってさ。一斉に居なくなるって変だけどよ、どうせどっかから入り込むだけだろ」


 「それがどうも違うらしいぞ。上の方々はスラムの連中が居なくなったのを気に、スラムの建物を全部壊すんだと。その為に兵士が巡回してるらしい。壊して更地にしちまえば、変な奴も入り込めねえだろって事らしい」


 「「ふーん……」」



 どのみち更地にしても建物が出来て人が居なくなり、そこがスラムと化す。そんな事を繰り返すだけなので根本的な解決にはならない。そもそもスラムが出来るのは、人が集まるのと仕事が足りないからだ。まあ、犯罪者が集まる場合もあるが、それは例外だと言える。


 だからこそ田舎にはスラムが殆ど無い。一部に例外はあるものの、田舎は仕事が無ければ都会に行くのでスラムが出来ないのだ。代わりに都市部にスラムが出来てしまう。都市部も作りたくてスラムを作っている訳ではなく、出来てしまうのだ。


 そんな話をしつつ宿に戻った一行の内、エイジ達とシロウ達は朝からヤるらしい。好きにしろと思いながら、ミク達は部屋に戻り、ローネとネルを本体空間に連れて行く。いきなりでビックリしたようだが、神に言われた以上は仕方ない。


 本体空間には<闇の神>と<創造の神>が待っており、【闇神術】と【創神術】の訓練をさせられている。【創神術】は【錬金術】や【錬成術】の強化版みたいなもので、素材があれば好き勝手に物作りが出来るスキルである。


 ネル自身は物作りがつまらなくなると言って使わないのだが、神としては叩き込んでおく必要があるのだろう。一切の容赦なく修行をさせている。ミクとヴァルは適当に見つつ、ゆっくりと過ごすのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 昼食も本体空間でとって夕方。ようやく解放されたローネとネルは、宿の部屋に戻ってきてグッタリしている。情け容赦の無かったシゴキは本当に辛かっただろうが、ミクは二人を食堂に連れて行く。


 夕食を注文してグッタリしている二人を前にゆっくりしていると、近くに座った客が武術大会の話をしていた。



 「剣のカーター流と、槍のジョンソン流の当主が帝都に着いたらしい、まさかの大雨の日に来るってツいてねえよな。今から大丈夫かって心配になるわ。大して強くないんじゃ皆が離れていっちまうぞ?」


 「流石にあっさり負けるって事はねえだろうさ、名が轟いている流派なんだからよ。もちろん知られてねえ強い奴は居るかもしれねえし、冒険者でもいきなり強い奴が出るてきたりするけど」


 「そうだぜ。ロッソマンとかエッサイカ、ウェルイトにカドサンダも居るからな。幾ら昔から名が轟いている流派っつったって、そう簡単には勝てねえんじゃねえか? 案外あっさり負けるかもってオレは思ってる」


 「そんな簡単には負けねえだろ。弟子だって活躍してるじゃねえか。カーター流のセイダンやゴッテ、ジョンソン流のピージャーやサーストも居る。ああいう奴等を見てたら強いって分かりそうなもんだけどなぁ?」



 何だか喧嘩腰で会話をし始めたが、どっちが勝つかに興味も無いミク達は無視して食事を済ませる事にした。どんな流派だろうが、アンノウンにとっては唯のザコでしかない。


 そもそも人間種が勝てる相手ではないのだから当然ではあるのだが、ローネやネルにすら勝てないだろう。どんな有名流派だろうとそんなものである。


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