0202・帝都ドーラ到着とダンジョン
ジーム町を出発してから四日、帝都ドーラにようやく着いた。あれから特に目新しい情報も無く、毎日歩き続けてようやくといったところだ。ここまで追いつかれる事も無く歩いてきたので、おそらく皇族は明日だろう。
門番に登録証を見せて中に入り、宿の部屋を確保するものの二人部屋が空いていなかった。仕方なく三人部屋を二つ、ミク達は四人部屋を確保した。少ない人数の部屋でやりくりしている冒険者が多いらしい。それと武術大会の所為だ。
武術大会を見る為に多くの人が集まっており、ミク達が部屋を取った宿も大通りの宿である。安宿はとっくに満室で、既に空いている所などなかった。酷い所では一人部屋に五人が泊まっている。流石のミク達も呆れた程だ。
大通りの宿は高いのだが、それでも背に腹は変えられないし、空いているだけマシである。武術大会は三日後から開催されるので、これからも見物しに増えるだろう。今部屋をとらないと、もう野宿しかなくなる。それが分かっているから高くとも納得した。
食堂に行き夕食を注文したら、明日からの予定を立てる。とはいえ、明日は一日ダンジョンだ。皇族の馬車が来る可能性が高い。
「帝都観光なんかしていたら間違いなく顔をあわせる結果になるだろう。遭いたくない時に限って遭うものなのだ。世の中というのは不思議とそう出来ている。遭わない為には、それだけの事をせねばならん。なので明日はダンジョンだ」
「まあ、力説されずとも分かります。似たような事は今までの人生で何度もありましたから。それよりダンジョンは良いんですけど、ここのダンジョンは変わっていないっぽいので、地図を買って行った方が良いんですかね?」
「買って行った方が良い。仮にいきなり変わったら、それはそれで仕方ない。たとえダンジョンマスターが変えたといっても人間種。どこかに癖は出る筈。なので地図がある事は悪い事ではない。前のところでは撤去されていた」
「ああ、そういえば確かに。オレ達が着く少し前に変わって、地図が役に立たないからって売ってなかったんでしたね。確かに無ければ買えないか」
とにかく王族を避けた後で観光をするべく、明日はダンジョンに篭もる事を確認する。夕食後、部屋に戻って少し話し、ローネとネルを寝かせた後で出発。帝都のスラムに移動する。
現在は武術大会の前なので、感知系のスキルを持っている者が居る可能性は高い。なので終始小さい百足状態で情報収集を行う。スラムの者達を麻痺させては情報を聞きだし、終わったら本体空間へ転送する。
本体が貪っても変わらないので本体に食べさせ、分体はひたすら情報を聞き出していく。その中には幾つも面白い情報があったが、その中でも最大のものは皇族の祖先がダンジョンマスターという事だった。
しかしこの情報は同時にマズいものでもある。あの皇子からダンジョンマスターに、ローネとネルの情報が流れる恐れがあるのだ。それと皇族は、ダンジョンマスターに物理的に脅されているという情報もあった。
そして召喚陣。何処かは分からないが帝城の中に召喚陣があるらしい。ほんの五年ほど前に召喚したらしく、今は使えないそうなので急がなくてもいいようだ。とはいえ、確実に壊しておく必要がある。
流石に帝都のスラムは数が多いうえ、裏組織の中にも勘付く奴がいて大変だった。もちろん誘き出して喰らうのだが、何名かダンジョンマスターと関わりのある奴がいた。これがどう出るか分からないが、既に喰ったので後の祭りである。
ミクとしては麻痺させている以上、喰わないという選択肢が無い。もし喰わずに戻せば、何らかの拍子にバレる可能性がある。ならば他の関係ない連中と一緒に消えてくれた方が良い。そうすればダンジョンマスターの配下を狙った訳ではなくなる。
流石にミクもダンジョンマスターの配下を狙った訳ではないが、そう思われると躍起になって犯人を捜される恐れがあるのだ。流石にそれは色んな意味でマズい。だからこそ有象無象と一緒に消えてもらい、埋没させてしまう事にした。
スラムの全てに消えてもらうのには時間が掛かり、気付いたら朝焼けが出始めていた。何度かスラムと関わりの無い者も調べに来たが、そういう者はスルーしたので時間が掛かったのもある。
ミクは宿の部屋に戻り、女性形態になるとベッドに寝転がるのだった。
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帝都二日目。殆ど休めていないものの、疲れもせず睡眠も必要がないミクからすれば、いつもと変わらない朝。外では走り回る足音が聞こえる。おそらくスラムの連中が消えた事に気付いたのだろう。お金も奪っておいたし。
ローネとネルを起こし、部屋を出てエイジ達を待つ。意外に早く出てきたエイジ達と合流し、食堂に行って朝食を食べる。周りからスラムの連中が消えたという話が聞こえてきた瞬間、エイジ達は何があったのかを悟った。
もちろん言葉を発するでもなく、態度に出す事も無い。「またか」と思っているくらいで、それ以上特に何も思わなくなっている。そもそも犯罪者など以外を食べたりはしないのだから、どうこう思う必要も無い。
朝食後、昼食も買ってから冒険者ギルドへ移動する。そこで地図を買い、ダンジョンへと行ったら並んで順番待ちだ。周囲の装備などを観察するに、あまり良い物は持っていないらしい。
帝都に売っている物が良くないのか、それともお金を持っている冒険者が周りに居ないのか。どちらかは分からないものの、それなりの装備の連中が大半だ。多少良い装備の者も居るには居るが、それもそこまで大した物ではない。
順番が来たので中に入ると、1層目は草原だった。ここのダンジョンは5層毎にボス部屋らしいが、とにかく魔物が強くて多く厄介らしい。最初の層から強くはないらしいが、6層目からガラッと変わると書いてある。
まずは先へと進んで行き、5層のボス部屋。出てくるのはフォレストウルフ七頭だそうだが、最初のボスから難易度が高い。足に咬みつかれたら、それだけで重傷を負うし病気に感染する恐れもある。なかなかに怖い連中なのだ。
エイジが盾を使って上手く注目を集めて防ぎ、その間に速攻で始末していく。特にミキが足を潰していくので、シロウやサエは止めを刺すだけで済む。シェルは串刺しにし、ベルは攻撃をかわして足を薙いでいく。
やはりエイジ達の相手にはならないので、さっさと倒して先へと進んで行く。6層からも草原だが、大量のファングボーアが居る。猪肉ではあるが、アレが大量に突進してくるとしたら厄介だ。
そう思っていたら、左の方で撥ねられた人が吹っ飛んでいる。流石にシャレにならない威力らしく、鉄の鎧を着ていた男はグッタリしているようだ。とはいえ死んではいないみたいなので、仲間は倒すことを優先している。
それも凄いが撥ね飛ばされる層というのも凄い。それが当たり前だと誰も驚かないのだろう、周りの冒険者もスルーして歩いて行く。ミク達もスルーし、さっさと先へと進む事にした。
そのまま進んで行き10層のボス部屋前、次のボスはオーガ七体だそうだ。ノーマルクラスとはいえ急に難易度が跳ね上がっている気がする。このダンジョンは明らかに難易度の設定を間違えているだろう。
自分で戦った事が無いから分からないのか、それとも適当に設定しているだけなのか。ダンジョンマスターが居る筈なのに難易度が高すぎる。
「もしかして魔力が足りていないんですかね? それなら分からなくもないですけど。それでもオーガが七体って……盾が二人居ても捌くのは大変ですよ? 明らかに殺す気しか感じられませんね」
新人を超えた程度の実力では突破は難しいだろう。オーガ七体とはそういう数である。




