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0199・逃亡




 「それで、結局はこの阿呆どもが他国を見下していただけか? そんなものは愚王と呼ばれた古の王を始め、山ほど居るのだがな。自分が素晴らしき者などではなく、有象無象の一人だと理解出来たか? 歴史というものを見れば、お前のような者など幾らでも存在するぞ」


 「前に誰に言ったかは忘れたけど、本当の間抜けは自分が間抜けだと気付いていない者の事。いつまでも理解せずに自分は賢いとか、周りを見下して悦に入る者は、そのまま妄想の中に生きていればいい。いちいち出てくるな」


 「「「「「………」」」」」



 他の騎士も馬車の外を歩いているのだが、黙りこくってしまっている。実際、皇子を守っているのならば近衛か何かだったのだろうが、自分のプライドと妄想の区別がついていない部分はあったのだろう。今は考え込んでいる。



 「相変わらず容赦が無いなーとは思いますけど、唯の事実でもあるんですよね。周りを見下してる奴なんてその程度ですし、皇子がそうなら、そういう国だと見做されるだけですから。だからこそ上に立つ人は大変だとは思いますけど……」


 「上に立つ資格の無い人が上に立つと、国の品位を下げるだけなのよね。そもそも家単位でも変わらないけど。その家の品位を下げるからって、子供の頃から外面を良く見せる術だけは叩き込まれたもの。特に御祖母様が凄く厳しかったから」


 「ミキちゃんの家は仕方ないよー。こっちで言えば高位貴族の家でしょ? 徹底的に仕込まれるのは仕方ないと思う。むしろ近衛の家って殆どは貴族の筈だけど、自分の家の恥を晒すなって教えられなかったのかなー?」


 「そういや、そうか。本当に家の体面を気にするなら、身内をまず躾ける筈だもんな? となると、そんな教えすら与えられなかったか、もしくはそういう家って事か? そういう事もあるのかねえ……オレみたいな庶民には分からないな」



 そんな話を堂々としているミク達。騎士達も考え込んではいるものの、自分達の足下が思っているほど磐石ではないと思い始めたようだ。<驕る平家は久しからず>と言うが、驕った者が転落するのは歴史が証明している事でもある。


 そんな話をしつつ進んでいると、再び盗賊のような者が現れた。先ほど襲われていたのと同じ20人ほどが居るが、ここまで動員してでも殺したいとは、余程に嫌われているという事だろう。



 「誰に嫌われているかは知らないけど、相当に嫌われているようだねえ。皇子なんてさ、そう簡単に手を出す相手じゃないよ? 貴族令嬢を強姦したりでもした? ここまでだと、それぐらいしか考えられないけど」


 「そのような事は無い!! そもそも私は女性経験が………」


 「怒ってつい口走っちまったようだね。ま、女性経験が無いならそういう事もないか。しっかし……あんたが言う通り随分としつこいね。念には念を入れて、もう20人用意するって絶対におかしいよ。普通なら一度失敗したら様子見をする筈さ」


 「本当にな。何が何でも殺してやろうという意志を感じるぞ。それに、そもそもこの賊ども、間違いなく戦闘訓練を受けている。流石にこれ程きっちりと武器が使い熟せている時点でおかしい」


 「普通は適当に振り回すか、多少は扱えるという程度。でもこいつらは体で剣を振っているし、足運びもしっかりしている。どう考えても普通の賊じゃない。そう装っているだけ」


 「という事は、相手は皇子だと分かっていて襲撃してるって事ですよね? ……マジかー、ミクさん達が言ってた通りだぞエイジ。やっぱり見捨ててた方が良かったんじゃないか?」


 「そう言うなよ。今さらながらに申し訳ない気持ちでいっぱいなんだからさ。正直に言って最初に言われた通り、見捨てていれば良かったと思ってるよ。こっちを巻き込むだけだし、礼の一つも言わないんだぜ。助けて損した」


 「ま、こういうのも社会勉強の一環と考えるしかないね。旦那様もまだ若いんだし、こういう失敗は若い頃はするもんだよ。そうして、助けてやったって無駄だって知るんだし、反省して納得したら関わらなくなるさ」



 暢気のんきに会話しつつも、きっちり敵を倒しているミク達。この程度ではグレーターオーガを倒せるエイジ達には楽すぎる相手である。


 相変わらずの騎士は睨んでいるが、それ以外の騎士は何となく耳が痛いのか、聞こえないフリをしている。そんな戦いもあっさり終わり、再び歩きだそうとすると急にキレだした。



 「ええい、先ほどから聞いておれば好き勝手言いおって! 貴様らなど要らぬ、さっさとこの場から失せろ!!」


 「はあ、やっと言い出した。さっさと言えばいいのに、無駄に気が回らないバカだよ。本当、バカはこれだから困る。じゃあ、皆行こうか」



 そう言ってミク達は早歩きで進んで行く。実はあれだけボロクソに言っていたのは、先ほどの一言が欲しかったからだ。誰かに責任を押し付ける形で、関わらなくてもいいという言質げんちを求めていた。


 その為、最初からローネも喧嘩腰で話していたのだ。実は賊を始末したタイミングでミクは仲間に【念話】を使っており、その時に怒らせて言質げんちをとって逃げるという事を提案している。騎士が喚いた後、全員から了承されたのは言うまでもない。


 そして現在、スタスタ歩いて先を進んでいる。正直に言えば、あんなバカどもとは関わる事も御免なのだ。【念話】の際にエイジやシロウから謝罪を受けているので、ミク達はエイジやシロウに怒ってなどいない。


 ただ一刻も早く、あのバカどもから離れたかっただけだ。それが叶ったのでヤレヤレというところなのだが、このままだと追いつかれる可能性が高い。だから走って行く事にした。


 村や町の間は、だいたい馬車で一日ぐらいの距離に作られている。その為、次の町で泊まると奴等と鉢合わせになるのだ。せっかく逃げられたのに再度関わるなど御免被るミク達は、素早く移動する事にした。


 走って移動しセンマ町に着いたミク達は、町の外周を迂回して先へ。人の目が無くなったらミクとヴァルが大きな狐に変化し、皆を乗せると一気に走って進む。幸いにも国境近くなので、そもそも人が多くない。


 一気に走り抜けたミクとヴァルは女性形態と男性形態に戻り、歩いてドウ村へと近づいて行く。夕方前に着く事が出来て安堵しつつ村に入り、宿へと行って部屋をとる。


 二人部屋を三つとり、食堂へと移動して早めの夕食を注文した。これでゆっくり出来ると、今日の話を始めるのだった。



 「それにしても酷かったですね。いや、俺が悪いんですけど、あそこまでだとは思ってもいませんでした。最初の王城から貴族に関わる事なんて無かったので、本当にあそこまでとは思ってなかったです」


 「普通ならば皇子が礼をすると言っている以上は期待する。多少理不尽な目に遭っても礼に目が眩んでな。だが私達からすれば要らんものでしかない。むしろ皇族と関わる損の方が大きいのだから、さっさと逃げるに決まっている」


 「そもそも冒険者稼業で十分なお金が稼げるなら、権力者との関わりなんて邪魔なだけ。奴等は他人を都合よく使う事しか考えていない。前にも言ったけど、美徳は仲間内だけにするべき。他人に対して美徳を持つ必要は無い」


 「「はい」」


 「こういう時代なんだなーと、ハッキリ分かる人達だったよね。礼というもので釣り、言外に他人を利用しようとする。上手くいかないとみると護衛と言い出したけど、実際には私達を都合よく利用しようとしてただけ」


 「本当にねー。口には出さないで「分かるだろ?」って感じなのも酷かったよね。アレって絶対、後で「そんな事は言ってない」って言う気だよー。サイテーな連中だし、貴族ってあんなのばっかりなんだろうね」


 「あの冒険者達には申し訳ないけど、あんな連中に使われたくねーわ。もともと請けた事ないけど、ますます依頼を請ける気が無くなっていくな。魔物を売れば儲かるんだし、ランクなんてどうでもいいや」


 「今日はねー、思いっきりヤってスッキリしよう。それが一番良いよー」


 「確かにそう、それが一番。だからシロウ、頑張ってね!」


 「………」



 急に冷や水を浴びせかけられ固まるシロウ。エイジも同じ目に遭うらしく、シロウに同情する視線を送っている。そしてそれに呆れるミク達。


 いつもの日常ではあるのだが、女性陣の性欲が治まる気配は無いらしい。スキルが増えてから更に強くなっているので、男性陣は原因に気付いていたりする。それでも口には出さないが。


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