0198・神の加護
とりあえず黙ったので口喧嘩は一旦止め、周りを片付けた後に移動を始める。襲撃地点に止まっても誰も得をしないからだ。まあ、当たり前の事である。
冒険者パーティーは全員無事だったらしく、お互いに慣れた様子で確認し合っていた。パーティーの名は<黒剣>と言い、リーダーの名はセリエンテ。実は豪快な喋り方をしているが女性である。身長は2メートルを超えるほど高い。
いわゆる巨人族と呼ばれる種族だが、その中では小柄らしい。しかし巨人族は身長が高ければ高いほどに反応速度が悪く、身長の低いものほど反応速度が速いそうだ。なのでセリエンテぐらいの身長で丁度良いらしい。
女3男2のパーティーで、盾士、槍士、斧士、魔法使い2名となっている。魔法使い2名は弓なので、割とお金が掛かって困るそうだ。そう言うと、白耳族の男性と人間族の男性が怒っている。
そう、このパーティーは男性二人が魔法使いなのだ。女性の種族が巨人族、黒耳族、牛人族なのでこうなったらしい。ちなみに牛人族は、牛の尻尾が生えていて筋骨隆々な人型の種族である。女性の場合は胸が大きいのが特徴だ。
「それだけじゃありませんよ? 女性は妊娠してなくても母乳が出ます。他の種族だと初潮がくれば大人の仲間入りですが、牛人族の女性は母乳が出たら大人の仲間入りなんです。ちなみに私は早めでした」
「そ、そうですか……。あの、近くないですか? もうちょっと遠くても……」
何故か牛人族のオーロがやたらにエイジにアピールしていたりする。シロウ達はスルーしているも、ミキとシェルはジッと見ているだけだ。あの二人ならドス黒いのを放出していないとおかしいのだが……。
「ウチじゃあオーロだけがカラダを持て余しているんだよ。オレはバルクとヤってるし、エリントはカリオムとヤってるしさ。偶然そうなっちまったんだけど、オーロもイイ男が居たら抜けていいって言ってるんだ。とはいえなかなか……」
「成る程。一人だけ男が居ないのでは揉める元になる。今は大丈夫でも、何れ破綻するのは誰にでも分かる事。その前に何とかしたい?」
「そうさ。オーロは何だかんだと言って、一番の新参だからね。他のパーティーに行ってやり直しも出来る。まだまだ18と若いし、夢破れて帰る歳でもなけりゃあ、仕方なく体を売る歳でもない」
「18って俺やミキと同じですか。寿命がどれくらいか分かりませんけど、若いのは間違い無いですね。まあ、俺達もそうですけど……」
「それはともかく、あんた達は良いのかい? オレ達は仕事を請けてるからいいけど、あんた達は助力しただけだろう? そもそも助力してくれた相手に上から目線とか。だから嫌われるって自覚も無いんだよ、連中は」
「グッ!?」
「善人が居れば、それにつけ込むのが権力者という腐った者どもだ。だからこそ国にまともな者が居なくなるのだが、そうすると民を下賤な者と言い出す。善人につけ込む程度の分際で」
「き、貴様っ!?」
「あの、千年にも渡り生きてこられたのは事実でしょうか? もし、それが事実であれば……」
「ああ、お前は黒耳族だからな。闇半神族である私は先祖になるから、確認したいのは当然か。ミク、すまんが<人物鑑定の宝玉>を貸してくれ」
「りょーかい」
ミクがアイテムバッグから取り出した宝玉を右手で持つ。すると目の前に半透明の鑑定結果が出てくるのだが、それは前に見たものと違っていた。誰の所為かはすぐに分かるのだが、何故なのかは不明である。
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<ローネレリア・エッサドシア・クムリスティアル・デック・アールヴ>
種族・闇半神族
性別・女
年齢・1279
【スキル】・闇ノ香・情愛ノ命・短剣術・暗殺術・投擲術・回避術・歩術・闇神術・天命殺・高速回復・気配察知・魔力察知・罠察知・性愛術
【加護】・闇の神の神子・生命の神・愛の神
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「うん? ………何故、神の加護が増えているのだ? いったい神々が何をお考えなのか知らんが、増えたスキルがアレ過ぎないか? 幾らなんでも私はミキほどではないぞ」
「ちょっと待って! 私ほどではないって、どういう事ですか!? 幾らなんでも良い意味じゃないですよね!!」
「ドス黒いのは事実なのだから当たり前。そもそも危険な愛情を持つミキが持っているスキルという事自体が不穏。流石にローネがアレだと言うのも分からなくはない。それにしても何故神々が……?」
そう言いながらネルはローネから宝玉を奪い、自分を鑑定してみる。すると、ネルの方も変わっていた。本当に神々は何を考えているのだろうか? 半神族だからこそ遊んでいるのだろうか?
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<ネルディリア・アトモスト・ヴァイヘルム・ドヴェルク>
種族・創半神族
性別・女
年齢・982
【スキル】・創造の眼・夜ノ心・星ノ愛・短槍術・棍棒術・回避術・頑健・創神術・鍛冶・木工・縫製・魔道具・魔装具・料理・酒造・星夜の調
【加護】・創造神の神子・星の神・夜の神
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「………ありがたいけど、コレは何? 夜の神という神様を初めて知った。それに星の神様も。御会いした事も話した事も無い神様が何故……?」
「あいつらの事だから遊んでるんじゃないの? 簡単に言うと、加護を付けやすい奴に付けてどうなるか見てる。もしくは、加護を付ける事での肉体への影響などを見てるんじゃないかな?」
「………実験?」
『おそらくはな。神々も色々したいのだと思う。良くも悪くも、今までは出来なかった事をしているのだろうな。主の事もある。神々にも何か考えがあるのだろう。おかしな事もするので何とも言えん部分はあるが』
「それよりも、本当に神に関わりある種族だったのか……!? 何故そんな者が我が国に来る!? 答えろ!!」
「止めぬか! 半神族の方となれば悠久を生きる方ぞ。礼を失しておれば恥となるは当たり前であろうが! 帝国の顔を汚す気か、貴様は!? 我が帝国以上の歴史を持つ方であると、貴様は理解しておらぬのか!」
「………」
「気に入らんのだろう? デカい面が出来んからな。こういう奴等は国に乗っかって大きな顔がしたいだけよ。そんな者は腐るほど見てきたのだ、私はな。貴様のような者は千年の昔からずっとおる。阿呆としてな」
「グッ、グググググ………」
「何も変わらない愚か者。いつの時代でも、どんな時代でも居る間抜け。そういう者は本当に居なくならない。長く生きる者にとっては、何故そんなに愚かで居られるのか理解不能。頭がおかしい、もしくは狂っているとしか思えない」
「あっはっはっはっ………。そんなに古くからあんな間抜けが居るのかい!? 本当に権力者って奴は変わらないね! そんな調子でハリベット王国でも居たんだろうさ。オレ達がやたらに睨まれてたのも、その所為かい」
「幾らハリベットが半属国みたいな状態とはいえ、見下していると足を掬われるんですけどね。帝国は今まで大きく膨らんできましたけど、いつか萎む時が来るんでしょう。それが今なのかもしれません」
「散々色々な場所を飲み込んできたからな、暴力で。何れ、それが返ってくるだろう。東には魔物の国すらあるというのに、それを建前にして攻めてきたと聞いている」
「建前とはどういう事だ?」
「御祖先様を何と御呼びすれば良いのか分かりませんが、かなり東の方にはゴブリンを始め、魔物の国があると言われています。少なくともゴブリンの国は何度か攻めて来た事があるそうで、それを建前に帝国になる前の王国が攻めてきたと伝わっています」
「成る程。よくある事か……」
どうやらこちらには魔物の国があるらしい。良いか悪いかは別にして、行く事になる場所の情報を得ていくミク達だった。




