0191・手鏡?
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<迷宮の手鏡>
空間の神が冗談で作り、折角だから<喰らう者>に使わせようと送り込んだ物。この手鏡のあったダンジョンのダンジョンマスターは関係が無い。手鏡には自分を中心にした一定範囲が映り、地図などを作成しやすくなる。神級道具。
ダンジョン内でしか効果が無く、ダンジョン以外では綺麗に映る”壊れない”手鏡でしかない。
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「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
鑑定結果にミクを含めた全員が唖然とするのは当然だろう。高が手鏡であるにも関わらず”壊れない”とはいったいどういう事なのか? あまりにも不穏な文言でしかなく、正直に言って神の製作物である以上は事実なのだろう。
しかし壊れないという事は、この手鏡を盾として使う事すら可能という事である。もちろんそんな事はしないのだが、どうせしないのだから壊れる物で良かったのではあるまいか? よほど、壊されたくない理由でもあったのか、それとも面白そうだからこうしたのか……。
神々はああ見えてノリが軽いことがあるのだ。おかしな事を軽いノリでやられても困るのだが、そんな事を斟酌してくれるほど神は甘くない。甘くないというか、細かい事を気にしないが正しいだろう。他者の意見など、どうでもいいのだ神々は。
同じ神ならばまだしも、それ以外の存在などに心を砕かないのが神々である。信じても救ってなどくれる訳が無いのも神々だ。本当にそういう連中なのだから、ミクが神々に対して白い目を向けるのも分かろうというものである。
「ま、まあ、神の作られた物だからな……。壊れないのも仕方ないのだろう。そこは置いておくとして、自分を中心にした一定範囲とはどういう事だろうな? 本当に自分の周りが完璧に映るのなら、石壁迷宮の壁の先も分かるという事か?」
「……ちょっと分からない。これはダンジョンで使ってみて調べるしかないと思う。流石に神が作られた道具は理解出来ない。私達が想像する物とは何か根本的に違う気がする」
ネルのその一言により全員が手鏡に関する事を放り投げ、考える事を止めた。
そもそも神が創った<神級道具>の事など考えても無駄である。そもそも本体空間の本体と、分体のミクが繋がっている方法すら分からないのだ。考えても徒労に終わる。
少し遅めの昼食を食べた後、それぞれの部屋に戻っていったエイジ達。昼間からヤるらしく、女性二人が男を引っ張っていった。あそこまで毎日ヤってよく飽きないものだとミクは思うが、そういえばローネもネルも飽きていないなと思い直す。
ミクもヴァルも快楽が理解出来ないので面倒臭いという思いもあるのだが、様々な事を考えると発散させておいた方がいいので付き合っている。ミクとヴァルにとっては、その程度の事でしかない。
そんな事を考えつつローネとネルを撃沈したミクは、後をヴァルに任せて少し出る事にした。王都内を見て回る為だが、召喚陣がどうなったかの情報を集める為でもある。まあ、名目としては城での大きな音の正体という形で聞き込むのだが。
王都内を歩きつつ色々な人に聞いていくが、情報が錯綜しているのか妙な事になっている。王城の地下でドラゴンの子供を飼っていたとか、それに怒った母ドラゴンが子供を取り戻しにきたという荒唐無稽な物も中にはあった。
ただ一番多かったのは、王城が何者かに襲撃されたというものだった。流石に荒唐無稽なものが有力な情報としては出回らないかとは思うが、同時に城が襲撃されるという事を王都民が笑い飛ばさない事にミクは驚いた。
普通は王城が襲撃されるなど簡単には信用しない筈である。特に平民街や貴族街で何も起こらず、王城でだけ起きたのだ。何かの実験の失敗や、魔法の暴発とは思われていないのは何故か?。
何故そこまで王都民が王城の襲撃を信じているのかまでは分からなかった。感覚的なものなのか、それとも何がしかの確固たる理由があるのか……。そこが分からない為にモヤモヤしたものを抱えたまま、ミクは宿の部屋へと戻る。
部屋の中では既にローネとネルは起きており、ヴァルは居なかったが二人でシていた。気まずい空気が何故か流れたが、ミクはスルーしてヴァルを呼び情報を話していく。
何故かそろーっと服を着た二人は、身だしなみを整えつつミクの話を聞くようだ。
『何故かは分からないが王都民が襲撃されたと信じている、そういう者が多いという事か。何とも言えないが、確かに妙だな。平民街にも貴族街にも何も無く、何故か王城という一番警備の厳しい所が襲撃された。それも近衛騎士が守っている場所だ。確かに変だな?』
「別に変でも何でもないぞ? むしろ私達の方が分かりやすいだろう。単純に言うと「そうだったらいいな」という事だ。要するに、贅沢をしている連中に天罰が下ったんだ、ざまーみろ! という心境だな」
「うん。おそらく信じているというよりは、権力者が傷を負ったのが嬉しいだけ。つまり王城がどうこうという事はどうでもよくて、権力者がダメージを負ったという痛快な出来事を信じたい者が、それだけここ王都には多いという事」
『それは王が信用されていないという事じゃないのか? この国の政治が不安定な感じはしないが……』
「ヴァルは勘違いしているな。権力者に対する不満というのは必ずある。無い国などあり得ないぞ? どれだけ権力者が節制し国民の為に努力していても、国民は権力者に不満を持つのだ。何故なら王の過酷さを知らんからな。だから贅沢をしている”だけ”だと思い込む」
「ローネの言う通り。王という仕事は非常に過酷。まともな神経では出来ない程に大変。でもバカはそういう部分に対し、何故か都合よく見ないフリをする。そして贅沢をしているという部分だけ見て、愚かに騒ぐ」
「そもそも王が民と同じ食事をして同じ服を着てみろ、他国からの笑いものにしかならんし、それは自分が王である国を貶める事にしかならんのだ。むしろ王が贅沢をするのは義務だとすら言える。自分達の国はこれほど凄いのだと言う為にな」
「そこを分かっていないバカか、それとも他国の諜報員が「王は贅沢をしている」と騒ぐ。それに騙されている民は間抜けそのものだけど、愚かだから自分が正しいと思い込む。本当の間抜けは、自分が間抜けだと理解できない。救いようのない生物」
途中から話は少し逸れたが、何となく長い人生の中で色々見てきたんだろうと思ったミクは、適当に相槌を打ちながら二人の話を聞いていくのだった。
夕食の時間も迫っていた為、話を打ち切り部屋を出たミク達は、エイジ達とシロウ達の部屋をノックする。慌てたようにドタバタ中から音がするので、先に食堂に行く事を伝えて宿を出た。
食堂に入り夕食を注文したミク達は、席に座って雑談をしながら待つ。そんな食堂に慌てて入ってきたエイジ達とシロウ達も注文し、近くの席に座る。身だしなみが酷いが、さっきまでヤっていたのだから仕方ないのだろう。
服を整えながら息も整えている。ミキとシェルはまだマシなのだが、サエが完全にアウトである。顔が上気しており、さっきまでヤってましたと言わんばかりの表情だ。そのうえ先ほどからシロウとベルと交互にキスしている有様である。
シロウは落ち着くように言っているが、ベルが気にせずキスしたり服の中に手を入れたりしている。その度にサエが艶かしい声を上げるので、流石にミキが怒って注意した。
「私も我慢してるのに!」と。
……周りの客も揃って「怒る理由がおかしくないか?」と思うのだった。




