0189・15層のボス戦とダンジョンマスターのルール
15層のボス部屋。オーク15体が登場するボス部屋だと紙には記載されている。にも関わらず前方に20体、後方に20体の計40体が出現した。明らかにおかしな数であり、どう考えても不自然だ。間違いなくダンジョンマスターが介入している。
「エイジ達は前方20体のオークを倒すこと。後方は私達が殺るから気にしなくていい。エイジ達なら問題無く勝てるだろうけど、明らかに事前情報と違う。ダンジョンマスターが介入しているから気をつけるように」
「「「「「「はい!」」」」」」
「オークか、大した相手では無いが面倒だな。適当に切り捨てて始末するか。こちらの手の内を見せてやる必要など無いし、介入したのもその辺りに理由がありそうだしな」
「同感。いきなりボス部屋の内容が変わるなんて普通はあり得ない。間違いなくダンジョンマスターが介入している。むしろ露骨に介入してくるダンジョンマスターだと分かったので、対処はそこまで難しくない。幾らダンジョンマスターといっても万能ではないみたいだし」
「まあ、万能だったらこっちを簡単に殺せる訳だしね。でも、そんな事は聞いた事が無い。となると、何でも出来るって訳じゃなさそうなんだよね。おそらくは何がしかのルールに則った事しか出来ないんだと思う」
「そのルールが分かれば、こちらの対処も楽になるんだが……。ま、それは高望みか。オーク如きでは特にどうもこうも無いから、幾ら増えても問題は無い。アイツらには丁度いいだろうしな」
適当に会話をしながらでも、一撃でオークを倒していくミク達四人。あっと言う間にオーク20体を皆殺しにし、後はエイジ達に任せるべく観戦を始めた。ミク達からすれば、オークなどその程度の存在でしかない。
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少し時は巻き戻って、こちらはエイジ達。いきなり想定よりも増えたオークに多少混乱したが、やる事は変わらないとエイジが前に出る。その事で他のメンバーも少し落ち着き、自分のやるべき事を思い出した。
「とにかく女性陣は左翼で作戦通りに対処してくれ! シロウは想定より多い数の耳を何とか頼む、最悪は俺ごと壊してくれても構わない。とにかく誰も死なずにここを突破する。いくぞ!」
その掛け声と共にエイジは前に出て行き、オークを迎え撃つ。オークどもの目は既に女性達をロックオンしているが、目の前のエイジを邪魔に思い先に叩き潰そうとする。そのオーク達に浴びせられるはシロウの【爆音衝撃】。
今では【魔力回路】と【集中力】のコンボで、極めてスムーズに魔力を篭める事が出来るようになった。それ故、今まで以上に強力な魔法となっているのだが、それだけ魔力の消費量も激しくなっている。
そこで役に立つのが【魔ノ理】スキルであり、これは魔力の自然回復量を引き上げる効果を持つ。所持しているだけで効果のある、いわゆる<パッシブスキル>と呼ばれるものに分類される。
シロウはより魔法使いとしてのスキル構成になってしまっているが、神が介入してこうなってしまったのであって本人が求めた訳ではない。まあ、本人が求めても魔法使い系になっただろうから、特に問題は無い訳だが。
エイジを攻撃しようとしていたオークを含め、大凡10体の耳は破壊できたであろうか? その後ろから更に来ているオークを迎え撃つエイジ。とはいえ、彼に出来るのは盾とメイスで邪魔をするくらいである。
ゲームではなく現実である為、メイスに多数を攻撃するスキルなど存在しない。なのでシールドバッシュを行い、体当たりで敵を転倒させる。ないしは味方の所に行く前に頭をカチ割るなどして倒すしかない。それでも邪魔できたのは三体だけだった。
残りの連中を通してしまったので後ろから強襲しようとするも、サエから耳を潰した奴等を始末するように指示がきた。止むを得ず、エイジは耳を押さえているオークを始末していくのだった。
シロウはベルが使うのと同じ【疾風強撃】を使い、隙のあるオークを吹き飛ばしたりしている。七体のオークが襲ってきているといっても、全てが一斉に襲ってこない以上は十分に対処可能だ。その程度の経験はエイジ達にある。
ミキが素早く【風切り】で首を薙ぎ、シェルは【穿突】を使って十字槍の枝で首を突き裂いている。そうやって可能な限り素早く始末していった御蔭だろう、結局そこまで苦労する事無くオーク20体を全滅させたエイジ達。
やっと終わったと思ったのも束の間、地面に魔法陣が現れ16層へ転移させられた。その事で既にミク達の方は終わっていたのだと悟る。16層は事前情報通りに森だった。その風景を見ながらエイジ達と話す。
「ようやくそっちが終わって次の層に進んだのはいいんだけど、さっきのは間違いなくダンジョンマスターの介入だったね。ローネやネルとも話してたんだけど、いきなりボス部屋の内容が変わるなんて普通はあり得ないから」
「やっぱりそうなんですね。明らかにおかしかったですから。そもそもオーク15体だって聞いてるのに、いきなり倍以上の数が出現しましたし。完全にこっちを殺しに来てますよね?」
「それは間違い無い。流石にオーク40体は多すぎる。まともに攻略させる気が無い。一斉に来られたら殆どの冒険者が耐えられずに飲み込まれる。ダンジョンマスターとしては、私達を15層で殺したかったに違いない」
「となると、ダンジョンマスターとしてはこれ以上進ませたくないって感じですかね? オレ達を進ませるとマズイと思っているのか、それとも……いや、地図はまだあるんだし、他の冒険者は先に進んでる訳だから……」
「完全に私達だけを狙ってるよねー。オークを大量に使ってきたし、私達を手篭めにしようとしてるとか? もしくは売り飛ばそうとしてるとか、そんな感じかなー?」
「さて、どうだろうねえ。全てのダンジョンマスターがそればかりを考えているとは思い辛いけれども、何がしかの考えが有ったからこそいきなり変えてきたのは間違いないよ。それが何なのかだけど……」
「それよりも周囲に魔物が現れ始めたから対処しようか? 考えるのは帰ってからでも出来るよ?」
ミクの一言で即座に頭を切り替えるエイジ達。本当に変われば変わるものである。かつてなら慌てるだけで、なかなか弛緩した空気は変わらなかっただろう。ここまでになっているのは立派だが、それでも死ぬ時は死ぬのが冒険者である。
彼らは未だその事を正しく理解できていないが、理解出来た時は誰かが失われた時である。なので彼らにとっては理解出来ない方が良いだろう。そんな事をつらつら考えながら、ミクは先頭のエイジに指示を出していく。
エイジはミキの言葉を頼りに魔物の位置を把握し、的確に魔物の攻撃を防いでいる。ポイズンスネークやクリムゾンスネークなど、あからさまに毒を持つ魔物塗れな森の層。ここまで来ると流石にダンジョンも殺しに来るようだ。
それでも毒消しを買ってきていれば対処できる範囲内なので、どう考えても攻略不能という訳じゃない。こういった部分からでも少しずつダンジョンマスターのルールを読み取っていく事は出来る。
エイジ達の知る創造物と同じとは限らないので、その辺りは現実の事として考える必要がある。それでも侵入者に滅茶苦茶を強いる事は出来ない。その事は既に分かっている事である。
もし理不尽を強いる事が出来るのであれば、フロットン町のダンジョンでとっくにエイジ達は殺されていないとおかしい。あの男がそれをしない筈は無いのだ。となると出来なかったと考えるべきである。
少しずつ、ミクはダンジョンマスターのルールを解き明かしていくのだった。




