0188・王都のダンジョン攻略開始
エイジ達は詳しい話を聞いた後、それぞれの部屋へと戻って行った。ミクはとにかく召喚者だとバレる恐れがあるので、これからは慎重に行動するように注意する。場合によっては魅了系のスキルを使われる事も念頭に入れておくように強く言った。
実際、西条董二のような奴が出て来ないとも限らないし、ダンジョンマスターがそういう魔物を嗾けてくる可能性もある。とにかくダンジョン内ではダンジョンマスターの方が有利なので、気を付けるに越した事は無い。
そんな事を強く言っておいたのだが、盛っている現状では覚えているかどうか怪しい。明日の朝、もう一度強く念を押しておくか。そう思い、ミクは分体を停止した。
……ローネとネル? とっくに仲良く失神してしていて意識を失っている。今日は女性形態だったのだが、何故か非常に激しく悦んでいた。きっと触手の花が咲いていたからだろう。十本ほどが乱舞していたし。
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翌日。宿の玄関で合流し、再度強く言ってから食堂に行く。表の情報収集の内容はこの時に話されたが、特に何かという事は無く、普通の情報しか無かった。しかしネルとヴァルが語るように、何処でどの情報が繋がるか分からないので本体は紙に記録している。
朝食が終わった後、昼食も買ってから出発しダンジョン前へと移動する。ダンジョン前の魔法陣の列に並び、順番が来たので少し待ってから入った。
1層目は海のある長閑な海岸線だった。なかなか珍しい構成だなと思うも、ダンジョンに入っている者は多い。どうやら魚などを獲っているようだ。そんな長閑な風景を横目に赤い魔法陣へ移動していく。昨日ネルたちが地図を買ってくれているので道は分かっている。
なので迷う事も無く進んで行き、5層のボス部屋に来た。中に居たのは情報通り、ゴブリン五体とハイゴブリン一体だ。もはやエイジ達の敵にすらならず一方的に蹂躙されて終了。足下に魔法陣が出現し6層へと転移される。
6層はうってかわって荒地だった。空気が乾燥している内陸の荒地、そんな光景を見ながら一行は地図の通りに進んで行く。大した魔物も出て来ず、エイジ達の練習にもならない為、適当に薙ぎ払いながら進み10層。
ボスはコボルト五体とハイコボルト三体。地味に難易度が上がっているものの、そこまで大きくは上がっていない。ここまでなら、今のエイジ達だと技術だけで十二分にやっていける。新人の二人が居なくても問題無い。
コボルト五体が攻めて来るも、それは他の人たちに任せる。とにかくエイジはハイコボルトを抑えに行き、その間に他の仲間がコボルトをどんどん倒し頭数を減らす。強力な攻撃が出来ない人員は牽制を行い、その隙にミキかシェルが踏み込んで倒す。
シロウが槍を突き出すとコボルトがバックステップをするが、その隙を待ってましたとばかりにシェルが突く。<アクティブスキル>を使用しなくても、【剛力】を持つシェルの一撃はコボルトの肉体を突き抜ける。むしろやり過ぎなので、途中で止めるように言われる程だ。
深く槍が刺さると抜けなくなる事があり、戦いの最中には致命的な隙となる。だからこそシェルの槍は十字槍なのだ。にも関わらず、全力を篭めると簡単に突き抜けてしまう。コボルトの体が脆いのか、シェルの力が強いのか……。
反対にミキはさっさとコボルトの首を切って放置し、エイジの助けに入っていた。エイジもハイコボルト三体相手に一人では大変だ………という訳でもなく、実は余裕で捌いている。コボルトの攻撃を盾とメイスで捌き、余裕を持って三体の攻撃を凌ぐ。
むしろ凌ぎながらメイスをカウンター気味に当てている為、ハイコボルトは痛みで行動が止まる。そうなるとエイジはシールドバッシュを行い、ハイコボルトを転倒させて時間稼ぎをしていた。よくもまあ、ここまで強くなったものである。
「ゴブリン三体にやられた頃とは雲泥の差だねえ。あの頃の面白エイジは何処に行ってしまったのやら」
「いや、聞こえてますからね! 面白エイジって何ですか!? あの頃はまだ素人同然で、碌に戦った事も無かったんですから、無茶言わないで下さいよ。そんな昔のこ、あいてっ!?」
「ほら、下らん余所見なんぞしているからだ。目の前にいる奴は殺しに来てるんだぞ、真面目に戦え。本当に真面目に戦っていれば、周りの雑音なんぞ聞こえんか流せる。下らない事にいちいち反応するな」
「言ってる事は正論なんだけど、アレをやられたら多分オレも反応するだろうなぁ。集中してる時ほど妙な事が気になったりするんだよ。何故か分からないんだけど、やたらに気になって集中出来ないんだ。一度ああなると集中力がなかなか戻らないんだよなー、本当」
「魔法使いがそうなると致命的、早めに克服した方がいい。肝心な時に使えないでは、味方を死なせる恐れがある」
「まあ、そうなんですけど。一度集中が途切れると何故かどうにもならなくなるんですよね。それで発動しなくて、焦れば焦るほど魔法が使えなくなって、焦りだけがどんどん募って……。アレって何とかなる方法あるんですか?」
「何度も同じ失敗をしつつ、自分なりの解決法を見つけるしかないな。こうやれば落ち着く、ああやれば落ち着くとかな。一種の暗示だから、誰かに聞いても意味は無い。焦っている時に「大丈夫」と自分に暗示を掛ける事で、冷静になれずとも魔法は使えるようになる」
「ああ、冷静になれずとも魔法が使えて失敗しなきゃいい訳ですもんね。無理矢理に冷静になろうとしなくてもいいんだなぁ……おっと、お疲れさーん。相変わらずだけどミキちゃんとシェルさんの威力高すぎな。まあ、エイジも最近は威力高いけど」
「そっちもお疲れさん。……まあ、何時の間にか【怪力】なんてスキルを手に入れてたしな。神様の御蔭だろうけど、このスキルの御蔭で盾で弾いたりしやすくなったから、神様ありがとうと思ってるよ」
「実際にエイジが【怪力】と【健脚】のスキルを貰った辺りから、凄く最前線で安定するようになったし不安も減ったからね。それまでは派手な音がする度に心配でしょうがなかったよ」
「もう11層なんだし、そろそろ喋ってないで進むよ。隊列組んで」
「「「「「「はいっ!」」」」」」
11層からは平地で歩きやすく進みやすい。代わりと言っては何だが、この層からは鳥系の魔物が出てくる。その所為で空から奇襲される為、平地ではあるが厄介な層となっているようだ。
このダンジョン、新人や経験の少ない者の事も考えた作りになっている。人を多く入れようとしているのか、エイジ達は上手く運営してるんじゃないかという評価だ。そういった重要な会話は【念話】でしつつ、一行はダンジョンを攻略していく。
この層はビッグリザードやグリーンボア、空からはウィンドスワローなどが攻めてくる。予想以上に上下からの攻撃が激しい為、苦戦するものの着実に進んで行く。そして15層のボス部屋の前、到着してすぐに作戦会議を始めるエイジ達。
「まさかボスがオーク15体とはなあ。急にボスの難易度が上がってないか? ハイクラスが居ないとはいえ、オークが群れで一気に来たら防げないぞ。魔法で潰してくれると助かるんだけど……?」
「まあ中央にエイジ、右翼か左翼はオレが開幕で潰せばいいとして、もう片方はどうする? 連中、絶対に横並びで突っ込んでくるぞ。それで隊列を掻き乱すって戦法なのは考えなくても分かる」
「女性と見れば襲うオークを上手く使うには、それが一番良いと思うしね。やられる方からすれば腹立たしい事このうえないけど」
「私とベルで頑張ればいけるんじゃないかなー? 私が【魔力衝波】を使って、ベルが【疾風強撃】を使えば大丈夫じゃない? 多くても八体だろうしー」
「………うん、分かった。それでいこう」
作戦は決まったようだ。【魔力衝波】は自分の前方扇状に魔力で衝撃を与える魔法だ。そして【疾風強撃】は、かつてミキを吹き飛ばした魔法である。
本来はもっと威力がある魔法なのだが、あの時はミキに怪我をさせるなという命令があった為、威力を抑えてあった。なので、魔法で一体ずつ倒していけばいいという事だ。
左翼に居る女性陣にオークを集中させつつ、男二人が後ろから強襲する形になる。オークである以上は必ず女性に突撃するので、男では囮の役目が出来ない為こうなった。
最後に作戦をもう一度確認し、一行は15層のボス部屋に入って行く。果たして作戦通りに上手くいくのだろうか?。




