0187・ミクの一日 ~召喚陣爆破編~
再び王城内をウロウロするミク。花が咲き誇る中庭の庭園にも行ってみたが、特に面白い事も何もなかった。まあ、肉塊に情緒を解する心は無いので仕方がないだろう。肉を食べたいという食欲はあるのだが……。
そうやってウロウロしていると、更なる地下への階段を発見した。
それは王城の地下牢を探索している時だった。一番奥の牢屋の壁の向こうに空間を感じたミクは、どうやって向こう側に行くか悩んだ後、百足の体が通れる大きさに壁を”喰らった”。
そうやって掘り進めていくと、やはり向こう側に空間が有り、ミクは先へと進んで行く。下へと降りていく階段があり、その先には扉があってしっかりと施錠されていた。今度は扉の一部を喰い破って侵入する。木の扉だったのでミクにとっては簡単な事だ。
中に入ると石畳があり、そこには召喚の魔法陣が描かれていた。どうやらこんな所に隠していたらしい。さて、どうやって壊そうかと考えていると、<魔の神>と<狩猟の神>が本体の所に来て、召喚の魔法陣の事を話した後である物を手渡してきた。
召喚の魔法陣は表に見えている部分はダミーで、石畳の中に本物の魔法陣が刻まれている。そしてそれは破壊されると消去されるようになっており、下界の者には理解出来ないように工夫もされている。真神語が分からなければ魔法陣を完成させられないのだ。
それはともかくとして、<魔の神>と<狩猟の神>が渡してきたのは細長い棒のような物だった。神はこれを魔法陣の中心にセットして、伸びている紐の先に魔力を流したら全速力で逃げろと言っている。その言葉に激しく嫌な予感のするミク。
しかし神の命令なのでやらない訳にもいかない。已む無く魔法陣の中央に穴を空け、棒を差し込んで紐を扉の方へ引っ張っていく。魔法陣の中心に立っている棒をエイジ達が見たらこう言うだろう、「ダイナマイト」と。
十分に紐を伸ばしたらミクは紐の先に魔力を流し、即座に全速力で大脱走を始めるのだった。扉を抜け、一番奥の牢の壁も抜け、地上に戻ったら王城の外へと一目散に駆けて行く。貴族街に入った所でそれは起きた。
ドゴーーーン!!! ガガガガ、ガラガラガラ………。
「………」
ミクが唖然とする程の爆発が起き、王城の一部が完全に崩落したのが見える。どうやら地上部分は強固に作ってあるらしく無事なようだが、屋上の部分は乗っかっていただけらしい。その塔みたいな部分が崩落して下に落ちた。
まあ、神がやれと言った事であり、ミクは命令に従っただけに過ぎない。流石にここまでの破壊にしなくても良かったんじゃないかと思うが、<蛇の神>と<鳥の神>がミクの肉を使った事に対する腹いせだそうだ。
それを聞いて思わず遠い目になるミク。コイツらは何をやってるんだと思うのも仕方あるまい。仮にも神だろうと思うも、よく考えればこんな連中だったと思い直し平民街へと移動する。それにしても派手な爆発だった。
後で皆に問い詰められた時に面倒な事になるなと思いながら、スラムの方に行って誰も周囲に居ない事を確認したら、服を着てズボンを履き、ブーツを履いたらネメアルの毛皮を羽織る。久しぶりのスタイルだ。
既に夕方も近い為、そろそろ待ち合わせの宿に戻ろう。そう思い宿の部屋に戻ると、既に全員が戻ってきていた。なので、まずは食堂に行って夕食を食べる事を提案する。話をしたいところだが色々あり、長く時間が掛かってしまう。
先に食事をしてからにしようと提案し、食堂に行って注文したら食事を待つ間に適当な雑談をする。爆発があったからだろう、食堂に居る客は少なくゆっくり食事が出来そうだ。外は五月蝿いが……。
運ばれてきた食事を終え、宿の部屋に戻った一行はミク達の部屋に集まる。狭いもののベッドの上などに座り、【消音空間】の効果がある魔道具を使う。
これでようやく話が始められると、ネルが口を開いた。
「……ふぅ、これで話しても大丈夫。それにしても随分と派手にやったみたいだけど、何故? ミクならもっと穏便に出来た筈。王城が壊れて大騒ぎになってる。まあ、だからこそ私達は疑われてないとは思うけど。いったい何があったの?」
「ちょっと待って下さい。それより皆さんは情報収集をしていたんじゃなかったんですか!? 何で王城での爆発にミクさんが関わってるって確定してるんです?」
「それはミクが王城にあるであろう召喚陣を破壊しに行ったからだ。王都に来るまでの町で、この国にも召喚陣があるという話をしていただろう? 私達は情報収集で、ミクは召喚陣を破壊しに行っていた」
「そんな事をしてたんですか。でもそれって大丈夫なんですか? 王城って物凄く警備が厳しいと思うんですけど……。見られてたらオレ達が疑われかねませんよ?」
「シロウは忘れているかもしれんが、ミクは好きなように自分の姿を変えられるぞ? ある時は鳥になって飛んでいたり、ある時は百足の姿になって侵入していたりな。今回はいつも通りの百足の姿だったんだろう?」
「そうだね。百足の姿って便利なんだよ、壁とか天井に張り付く事も出来るし、小さな隙間から侵入できる。足音も人間種には気付かれないほど小さい。聴覚系のスキルを持ってたら別だけどね」
「成る程。そうやって侵入してきたんですね。それはいいとして、何故あんな派手な事をしたんですか? 明らかに爆発でしたよね?」
「一つずつ話をしていくと、まず会議室のような所に侵入して会議の様子を聞いてた。トロッティアの召喚者から私達の情報を聞き出したみたいで、その話し合いをしていたんだけど、面倒な事になったのは確実だね。特にローネとネルの容姿は特徴的だから」
「「「「「「あ~……」」」」」」
「ちょっと待て。容姿の事を言うなら、ミクもヴァルも十分に特徴的だろう。私達だけではない筈だ。まあ、褐色肌だったり、背が低くて骨太だったりするが。とはいえ我々だけではないだろう」
「まあ、それは置いといて話を進めるけど、次は王の執務室に行ったんだ。ただ普通に執務をしてただけなんで出ようと思ったら、例の女騎士が入ってきた。侯爵領に潜入していた王女だったけど、バレてたんで潜入は終わりになったみたい」
「アレは王女だった? だったらもっと穏便に処理できた筈。何故あの同胞の男を野放しにしてる? 国としてさっさと処刑してしまえばいい。どうせ創造神様が新たに作られる。アイツは要らない」
「「「「「「………」」」」」」
「……その後もウロウロして探したんだけど見つからなくてさ、王城内を探検してたんだよ。そしたら地下牢の一番奥の向こうに空間があるっぽくてさ、どうやって行こうか困った後、壁を喰って進んだんだ」
「何と言うかねえ。改めてアンノウンがバケモノだという事がよく分かるよ。私の元いた星でも「アンノウンには絶対に手を出すな」と言われてたけど、話を聞くと桁が違い過ぎて笑うしか出来ないね」
「その壁の向こう側に行ったら階段があって、更に降りた突き当たりに鍵の掛かった扉があった。隙間が無かったから扉も喰って進んだら、その先に召喚陣をようやく見つけたんだよ。で、どうやって壊すか考えてたら……」
「考えていたらー?」
「<魔の神>と<狩猟の神>が本体の所に来てさ、こんな形の棒を渡してきたんだよ。それを分体に送って召喚陣の真ん中に設置。紐を引っ張って行って、扉の近くに来たら紐の先に魔力を通して、後は全速力で逃げた。で、貴族街に入った辺りで爆発。王城の上にあった塔が崩れ落ちてたよ」
「「「「ダイナマイト……」」」」
「ん? エイジ達は知ってるのか?」
「そういう形の爆発物が俺達の元いた星にはあるんです。それにそっくりだと思って……。ダイナマイトは導火線という紐というか線の先に火を着けるんですけどね。それにしても、よく似てるなぁ」
「似てるんじゃなくて絶対ワザとだよ。<蛇の神>と<鳥の神>が私の肉を使った腹いせだって言ってたし」
「「「「「「「「………」」」」」」」」
神の腹いせで壊された召喚陣……。その場に居たミクとヴァル以外は、何とも言えなくなったのだった。




