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0186・ミクの一日 ~王城潜入編~




 朝、皆と別れたミクは適当な路地に入ったりしながら視線が切れるのを待ち、誰からも見えなくなった直後に百足に変化した。そのまま貴族街の方へ向かい、そこを越えて王城へと侵入する。


 最初から小さな百足の姿で侵入している為、【生命探知】にすら引っ掛からないが、これは念には念を入れての事だ。創半神族ドヴェルクの男といい、この星の奴はどんなスキルを持っているか分からない。


 なるべくバレたくないミクは、小さな百足になっているうえに人目に着かないように行動している。まあ、虫自体そういう行動をとるので怪しまれる事は無いのだが……。そうやって進んでいると、ある部屋に人が多いのを発見した。


 ドアの隙間から中に入ると、10人ほどが議論しているらしかった。未だ朝の時間帯である為、ミクは内容を聞いていく。



 「トロッティアの方はどうなっている? 向こうに潜ませていた者からの連絡が全く無いのはどういう事だ。まさかとは思うが……取り込まれたか?」


 「それはあるまい。我が国がトロッティアの王城に潜りこませているのは近衛だ。情報の通りであれば、召喚の間で殺されたのかもしれん。こちらが予期していない間にいきなりされると、事前に察知できない可能性は十分にある」


 「それにしても、誰かは知らんがありがたい。トロッティアの召喚陣が破壊された以上、これでトロッティアの事を考えずに召喚できる。軍部からは評判が悪いが、かといって使わないという選択肢は無い」


 「まあ、軍の連中からすれば、毎日々々訓練しているにも関わらず、召喚された奴が持て囃されれば腹も立とう。気持ちは分からんでもない。我等とてポッと出の奴の案が採用されれば腹が立つのだからな」


 「そうだな。ポッと出の貴様に何が分かる、そう言いたくなるのは当然だ。それを考えれば軍部の連中の気持ちも分からんではない。まあ、そんな事は横に置いておくとしてだ。その召喚陣を壊した美女といのは、我が国に引き抜けんのか?」


 「それが何処に行ったかは分からんらしい。あの国には召喚された者がそれなりに居るそうだが、特殊なスキルを持った者が居たのかすら分かっておらん。そのうち召喚者に話を聞いた者が情報を持ってくると思うが……」



 その時、誰かが部屋に近付いてきた為ミクは慌てて目立たない部屋の隅に逃げ、自分の体表の色を周囲と同化させた。これはエイジ達からカメレオンという生き物の話を聞いて思いついた事だ。


 他者の視覚を誤魔化せる画期的な方法だが、ジッとしている必要があるという欠点もあった。ローネやネルにも看破されたので他にも気付く奴は出てくるだろう。それでも動かなければ極めて優秀なので、ミクは取り入れて使っている。


 部屋の片隅でジッとしていると、誰かが部屋に入ってきて紙を振り回している。どうやら新しい情報が届いたらしい。



 「魔鳥便で送られてきた情報によると、特殊なスキルを持っていたのは六人とある。それとは別に一人は不明だったそうだ。この<人物鑑定の宝珠>でも不明と出た美女が暴れて召喚陣を破壊したらしい」


 「ほう! それは素晴らしいな! その美女をこちらに引き抜く事は出来そうか? 何か手がかりは書かれてないのか? 召喚陣を壊せる程の実力者なら、戦争の時に相当役に立つぞ。適当に顔のいい男でも宛がっておけば良い」


 「こちらの紙には、男女一名ずつの事が書かれているな。若い男性が<超速回復>を、若い女性の方が<勇剣術>を持っておったそうだ。あの一騎当千の剣術か……トロッティアに囲われなくて良かった」


 「こっちには黒狼族と蛇女族ラミアーの事が書かれている。どうやら黒狼族は<剣爪術>、蛇女族ラミアーは<千槍術>というスキルを持っていたらしい。もしかして王都で暴れていた蛇女族ラミアーか?」


 「それは違うであろう。もし召喚者であれば簡単には捕まえられん。簡単に捕まえて、すぐに処刑できた以上は違うであろう。召喚者が簡単に捕縛や殺害出来るなら苦労はせんよ」


 「それはそ……こっちはとんでもないぞ。褐色肌の女が居たらしいが、この女は<闇の神の神子>で<闇半神族デック・アールヴ>という種族だったらしい。聞いた事も無いスキルを持っており、年齢は1279歳とある」


 「こっちには創半神族ドヴェルクの女性が居た事も書かれているぞ。見た事も無いスキルを持ち、年齢は982歳。二人の半神族の女性は<不明>な美女と一緒に居たそうで、仲間のように見えたらしい」


 「ちょっと待て、という事は<不明>の美女というのは半神族よりも上の立場にあるという事か? それとも実力が上という事なのか? ……先ごろ、<人物鑑定の宝玉・一級>というのが出て騒ぎになったが、アレなら見破れるかもしれん」


 「仮にそうだったとして、どうやってくだんの美女を特定するのだ? その褐色肌の女を探すか? そうすれば見つけられるかもしれんが、創半神族ドヴェルクもそうだが、気位が相当高いぞ。こちらの言う事を碌に聞かんかもしれん」


 「確かに。酒一つ作らせるだけでも、いちいち持ち上げたり何なりとせねばならんのだ。いったいそんな面倒な事を誰がするのだ? 申し訳無いが私は断らせてもらうぞ」


 「私もだ。………先ほど言っていた、面の良い男でも宛がったらどうだ? それなら文句も言うまい」


 「馬鹿にするなと激怒されたらどうする? その瞬間、交渉など完全に吹っ飛ぶぞ。そんな危険な事をするというのか? 私は反対させてもらう。そんなリスクなど背負い込めんからな。他にもっと良い手はないのか?」


 「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」



 これ以上は聞いていても仕方がないので、ミクはそっとドアの隙間から部屋を出た。それにしても、やはり他の召喚者から情報が漏れたか……と、ミクは内心で舌打ちするのだった。仕方がないとはいえ、ああも正確な情報が漏れると困りものであろう。


 そんな思いを抱きながらバレないように王城内をウロウロする。王の執務室に入ってもみたが、特筆して聞く意味も無い事ばかりだった。そう思い出ようとすると、誰かが入ってきた。再び色を周囲と同化させるも入ってきた者にビックリする。



 「陛下。昨日さくじつお話した通りでこざいますので、再び任務に戻ります。御挨拶が簡便な事はお許しを、それでは失礼いたします」


 「うむ? そちらにはまだ届いておらなんだか、そなたの侯爵領への任務は終わりだ。………そう睨むでない、我が娘可愛さに横槍を入れた訳では無い。侯爵領の者にはとっくにバレていたというだけよ。そなたと共に行かせた近衛から、そう報告があった」


 「バレていたのですか……。コレでも頑張ってきたのですが、申し訳ございません」


 「硬いの……別に気にせずとも良いというのに、そなたは変わらん。そなたの母と真によう似ておる。似ておるが故にな、己の命を軽く見ておるところも変わらん。少し城にてゆるりと過ごし、頭を冷やすがよかろう。そなたは己が見えておらぬ」


 「………畏まりました。失礼いたします」


 (侯爵領で出会った女騎士が、まさか王女だったとはね。どうりで先代侯爵とあっさり言う筈。とはいえ、言葉の端々にそれが出てしまう時点で潜入者としては失格だね。でも、何かこっちに関わってきそうなのは気のせいかな?)


 「………ふぅ。あれは庶子ではあるが、我が子である事に変わりはないというのに。どうしてああなってしまったのか。己の立場を弁える事と卑屈になる事は同じではないぞ。どこまでいっても我が子、つまり王女である事は変えられんのだ。それが王族の宿命。ま、いずれ分かろう」



 王族の親子関係に興味も無いミクは、さっさと移動を開始するのだった。


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