0185・それぞれの一日
王都二日目の朝。肉体を起動させローネとネルを起こしたミクは、宿の玄関で合流し食堂へと移動する。昨日言っておいた通り、今日は情報収集をするのでエイジ達は自由にしていい。ミクはそう言うのだった。
「自由って言われても、さて何をしたら良いのやら。戦闘訓練とか色々あったので、そういう事はまったくしてきてませんし……毎日ヤってますけど、それとこれとは別ですし……」
「まあ、適当にフラフラしてくればいいだろう。私達は色々と調べたりしなければならん、とにかく喧嘩ぐらいなら構わんからやってこい。心配するな。喧嘩を売ってきた奴等も”説教”すれば”改心”する」
「「「「………」」」」 「「???」」
「分からないなら、分からないでいい。後で四人から教えてもらえば済む。それより今日一日くらい素直に休まないと、明日からダンジョンアタックだから」
そのネルの言葉で素直に休む事を決めた六人。さっさと朝食を食べ終わると、王都観光を始めるのだった。その六人を後ろから眺めながら互いに【念話】でやるべき事を確認し、王都に散って行くミク達。
それぞれが王都の一日を始める。
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さて、ミクさん達に休みだと言われたけど、どうしよう? 女の子とデートなんて一度もした事のない男にはハードルが高い。あれだ、元の星と違う事が救いだな。流行の物とかサッパリだし、ファッションにも興味無かったからなー、俺。
この星だと、そういうところを気にせずとも済むから助かる。いきなり流行の物とか言われても、ニワカ知識すらない俺は恥を掻く事しか出来ないからなぁ。それにしても、両腕を完全にホールドされてる。
言葉は悪いが、ミキはまだしもシェルのが猛烈に当たってるんだよな。前にミキが言ってたが、シェルはおそらくHカップだそうだ。それって間違いなく爆乳だよな。いや、色々した事あるから重量感とかは知ってるけど。
あんなに重いとは思わなかったし、挟まれた時の感触は凄……っと、これ以上考えるのは止めよう。ミキが勘付いた。
「まずは何処へ行こうか? 何かを見に行くって言ったところで武具を見に行く必要はないし、雑貨なんかも購入してるし……。何か見に行く所ってあったっけ?」
そう言うとミキがそっと離れ、近くに居た女性に小声で話を聞いていた。その後、戻ってきたミキは行きたい所があると言って引っ張っていく。連れて行かれた所は服屋だった。まあ、分からなくもないけど……。
ミキはこの星の服が合わないとよく言っていた。ま、男の俺でもゴワゴワするって感じるんだから、当然だとは思うけど。ミクさんが持って来てくれた布製の服はやたら柔らかくて着心地が良いから、今はコレを愛用している。
その上から革のジャケットを羽織っているのが、いつもの俺の服装だ。オシャレなんてする気ないし、何よりダンジョン攻略中は様々な所に引っ掛かるからな。弱い布だと直ぐに破ける。それが嫌で革製のジャケットとズボンなんだし。
そんな事を考えていたら、服屋の奥へと連れて行かれた。
「って、ちょっと待って。ここって女性の下着ばっかりなんだけど!? それもエ、あー……んー……夜の下着じゃないの、ココ?」
「そうだよ? 私達で選ぶ楽しみもあるけど、エイジが喜んでくれないと意味が無いしね。だから選んでもらおうと思って」
「えっ!? 俺が選ぶの!? そこはこう……女性が選んで、それを着て誘惑するんじゃないの? 男が選んだらコンセプトが壊れる気がするけど?」
「シェルの胸が当たって嬉しそうにしている彼氏へのオシオキだよ? Hカップで凄い存在感なのは分かるけどさ、それって小さい私に対する当て付けかな? ……違うなら、ちゃんと選んでね?」
ミキがニッコリしているが、滅茶苦茶怖いです。ここは真面目に選ぶべきだと思うも、選ぶ物はある意味で不真面目な物だ。困ったな、どれをミキが着けたらグッと来るだろうか。……どれでもグッと来そうなのが困りものだなー。
というかコレって、ミキが着たい物を探さなきゃいけないんじゃないの? うわ、そうなると難易度が跳ね上がるんだけど……。どうしよう? ミキがどれを着けたいかなんて分からないぞ。
そもそも普通の下着じゃないんだし、困ったな……。
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「ねーねー、次はあっちのを食べようよー」
屋台が出ている所に来たら、早速ベルが食べ物に釣られやがった。まあ、それ自体は悪くないんだけど、何か手間が掛かる子供みたいなんだよな。サエも同じ事を思っているのか微笑ましそうに見てるけど。
それでも夜になると豹変して大人のお姉さんみたいになるし、妙にギャップが激しいんだよなー。そのうえ最近は夜にやたら百合百合しいし。まあ、あれはあれで見ている分にはイイんだけどさ。
「シロウも食べようよー。こっち、こっち」
おっといけねえ。いつの間にかサエも一緒に食べてる。オレも食べよう。でも、感覚は休日のお父さんみたいな感じなんだよな。ま、諦めて”そういう”デートを楽しもう。
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ふむ。この王都のスラムも大体分かったな。ネルはヴァルと一緒に表の情報収集をしているし、私は私で【闇神術】を使っての裏の情報収集だが……今のところは不思議と上手くいっている。
訓練の成果か、それとも泳がされているのか。おそらくは訓練の成果だとは思うがな。【闇神術】の【虚心】を使って確実な情報を聞き出しているし、【影波】を使って周囲を調べているが危険は無い。
それにしても、私の知らない【闇神術】をミクに連れて行かれてから叩き込むのはどうかと思う。それまで長きに渡って時があったのだから、ゆっくりと教えてほしかった。一気に叩き込まれたので維持するのが難しい。
使わないとすぐに忘れそうになる。しかも【闇神術】は強力なものばかりだからな。おっと、後ろに誰かついたな。尾行かどうか調べるか。必要なら始末するが、今は適当でも構うまい。
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「これで大体の情報は集まった。多分だけどこれ以上は難しいと思う。表で集められた情報ならこれで十分。後は本体に精査してもらって、紙を保管してもらえばそれで終わり。どこかで役に立つ……かもしれない」
『まあ、情報というのはそんなものだ。10調べて1役に立てば良かった方だからな。それに今回調べているものは表だけだ、大して役に立ちそうもない。ただ、得てしてこういうものが繋がっていくから困るのだが』
「まったく。そろそろミクが決めていた時間が近いから戻ろう。まだ騒ぎになっていないという事は、事を起こしていないって事。何かあっても絶対に逃げられるから心配も要らない。私達は事前に決められた通りに」
『ああ、分かっている。……っと、何かあったようだぞ?』
「どうやらミクが派手にやったみたい。情報収集に時間が掛かっていたのか、それとも何かする必要があったのか。何にしても合流してから話を聞けばいい」
しかしミクは上手くいったのだろうか? ミクの命は欠片も心配していないけど、私達の事が明るみに出る可能性などは心配してしまう。おそらくミクの事だからそんな失敗はしていないと思うけど、後で聞いておかないと。
もしこちらの情報が漏れたなら、何らかの対処をしないとマズい。ダンジョンマスターに私達の情報が漏れると、常に命の危険に晒される恐れがある。仮にフロットン町の事が漏れなくても、召喚者というだけで殺しに来かねない。




