0183・王都イーセンに到着
翌日。襲撃される事も無く起動したミクは、肩透かしを喰らったものの諦めてローネとネルを起こす。宿の玄関で合流したら食堂に行き、食事をしてから昼食を買って出発。再び東へと進んで行く。
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あれから六日、今は王都イーセンへの街道上を歩いている。デフ村からはハゼ村、ソロト町、ヤーデ町とあり、そこから北にウェク村、パッテ町、そして王都イーセンとある。
途中の村や町でも特に何も無く、一行は順調に王都イーセンの近くまで来ていた。魔物との戦闘の際に必要になった為、シェルの槍とベルの短剣と投擲用のナイフを作った。もちろん竜鉄製の物である。
シェルの槍は十字槍であり、ギリギリ短槍の長さとなっている。これは閉所でも振り回す事を考慮しての事だ。ベルの短剣は戦闘用の物でハンドガードが付いている、それが二本。そして投擲用のナイフが三本となっている。
二人とも戦う事には何の問題も無くなりつつある。当初は腕や足がある事に戸惑っていたが、今では特に戸惑う事も無く、元の体も含め両方使い熟せている。そういう意味でも二人とも優秀なのだろう。
魔物との戦いなども行いつつ歩いていると、馬が走ってくる音が聞こえた。道の脇に寄り、馬が通る邪魔にならないようにすると、馬五頭に乗る騎士達が通って行く。しかし、その先頭に居た人物には見覚えがあった。
「あれ? さっきの先頭に居たのって、前に見た女騎士の人ですよね? 物凄く急いでいた気がしますけど、何かあったんですかね。俺達に関わりが無ければいいんですけど……」
「嫌な予感がせん訳でもないな。手前の町で面倒な噂話を聞いたからな。アレ絡みだとすると面倒なうえ、あの女は思っているより上の立場となるぞ。召喚者の事を理解しているという事だからな」
実は一行は手前の町であるバッテ町の酒場で、ある噂話を聞いたのだ。噂話というか正しい情報と色々な噂だが。厄介なのは遂に情報が出回り始めた事である。その噂話はこういうものだった。
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「おい、知ってるか? 何でも黒狼族っていう聞いた事の無い種族の奴が、トロッティア王国で殺されたらしい。ただよー、どうやら女に殺されたそうなんだよ。一戦ヤって寝たところをグサッとされたんだと」
「偶にある事だが、その黒狼族? とかいうのは聞いた事ねえな。人狼族と何処が違うんだ?」
「さあ? 俺も詳しくは知らねえよ。ただなあ、この話には続きがあってよお。実はソイツ、召喚された奴らしい。不思議に思わないか? 召喚されてるのに普通に女遊びしてるんだぜ? 召喚したのなら徹底的に利用する筈だろうに」
「確かにそうだな。大分前に西のハデノン王国の召喚陣が壊されたのは有名だし、残っているのはこの国と西のトロッティア王国……と後どこだっけ? いや、もう無かったか?」
「覚えてねえが、少なくとも近くには無かったと思うぜ? ハデノン王国の召喚陣って、確か召喚された奴が激怒して壊しちまったんだったか? 確か特殊なスキルで焼き尽くして使えなくなったんだった筈」
「それで合ってたと思うぜ。それにしても召喚って何百年かに一回しか使えねえんだろ? そのうえ召喚された奴等って凄いスキルを持っていたりするらしいし、羨ましいよなー。俺にも凄いスキルがあったら、もっと良い人生だった筈なのによー」
「その代わりに国にコキ使われ続けるけどな。女とか宛がわれるけど、代わりに戦争に出されるんだぜ? そこで死んだらそれで終わり。それが果たして良い人生か? とは思うけどな」
「おい! お前らビッグニュースだぞ! ビッグニュース!」
「何だよ、トロッティアで召喚があった事なら今話してるっての。それ以上にビッグニュースなんだろうな?」
「お、おお。……そっか。あ、いや、コレは知ってるか? 何でもトロッティアで召喚された奴が暴れて、召喚陣がブッ壊されたらしい。それで二度と召喚できなくなったみたいだ。上手く直せねえんだと」
「へー、ブッ壊されたのか。まあ、隣の国に強い奴が召喚されなくなったんだから良かったぜ。オレ達の国は召喚できるからな、上手く協力させて戦争に使えばいい。オレは庶民で本当に良かったぜ」
「お前さっきと言ってる事が「まだ続きがあるんだよ」違うじゃねーか!! ……って何だよ。もったいつけねえで、さっさと言え」
「実はよ、トロッティアで暴れた召喚者ってのは、すっげえ美女だったらしいぜ。デカイ剣を振り回して、その場に居た近衛の連中なんかを皆殺しにしちまったんだと。何でも近衛騎士団長すら殺されっちまったんだそうだ。恐えよなー」
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「そろそろ情報が出回るかと思ってはいたが、本当に出回ると面倒だ。召喚者に逃げられたとして緘口令でも敷くかと思ったのだが……いや、敷いたからこそ今まで情報が出回らなかったと考えるべきか」
「おそらくは敷いてる。でも人の口を閉じる事なんて出来ない、どこかで確実に緩む。その事自体は織り込み済みだとは思うけど、一人目のダンジョンマスターを始末するまで出回らなくて良かったと思うべき」
「確かにそうだけど、その情報だけであんなに急ぐかな? 何か他にも理由はあると思うけど。そもそも情報だけなら届ける方法はいっぱいあるからね。召喚者の話って態々騎士を五人も遣わせる事?」
「そうは思えませんね。となると、何かどうしても伝える事が必要になったか、それとも何かを運んでいるのか。俺達の元の星なら大きさとかで色々分かるかもしれませんけど、この星にはアイテムバッグがあるんですよねー……」
「アイテムバッグの中に入れられたら、大きさなんてサッパリ分からないもんなー。そうなると余計に想像もつかなくなるし、それにあの女騎士って侯爵家の騎士なのか? ミクさんが捕まった後も見なかったしさ」
「貴族の監視をする為に、秘密裏に騎士が送り込まれる事はあると聞くがな。その辺りは政治の事で興味が無いから詳しくは知らんが、妙な行動をする騎士は居ると聞いた事がある」
「埋伏の毒かそれともスパイか……ってどっちも大して変わんないか。そういう事もあるかもしれないんですね。そういう疑心暗鬼になりそうな事は俺は嫌ですよ。やりたい人だけがやればいいって心の底から思います」
「それはな……っと、そろそろ見えてきたか。アレが王都イーセンで間違い無いだろう。それにしても時間が掛かったな。仕方がないとはいえ、今度からの移動は走って行わせるか?」
「「「「「「えー……」」」」」」
「エイジも痩せたし、そろそろゴーレムを作っても良いけど……どうする? 馬車も作ってもいいけど、意匠とかが分からないから買った方が早いと思う。それを改造した方が楽」
「ヴァルに牽かせた方が圧倒的に速いけど、それは今の状況じゃ難しいね。最近は男の姿が多いっていうか、殆ど男の姿だし。そうなると馬車を引っ張らせるのは魔導人形にするしかない」
「まあ、魔女の使い魔は圧倒的に優秀だからな。<魔女>も使い魔の背に乗って移動していたくらいだ。疲れもせずに走り続けられるからな。反則と言ってもいいくらいに移動が速い。まあ、あの女はダンジョン内でも乗っていたが」
王都イーセンの門が近付き人が増えてきたので、余計なお喋りは止めたミク達。何処で誰が聞いているか分からないし、誰が本気にするか分からない。与太話として流してくれるなら良いが、こういう場所では止めておいた方が無難である。
ミク達は門の前の列の、一番後ろに並んで順番を待つのだった。




