0179・39層のボス戦と愚か者の終焉
30層のボス戦を終えて31層へと転移した。ここは墓場となっていてハイレイスなどが多数登場する。更にはリビングアーマーやスケルトンメイジ、ハイゾンビドッグなども出てくる厄介な場所だ。
ただ、既に攻略の糸口は見えている。実は33層までは進んだ事があり、東、西、南に転移魔法陣があったのだ。その順番でどんどんと進んでいき、出てくるハイレイスは全てミクとヴァルが喰らっていく。
もちろんダンジョンマスターに教える訳にはいかないので、拳で殴りつけるように倒していく。一瞬だけ口にして喰らっているので、ダンジョンマスターも分からないだろう。一気に走るように進み34層、無事に北に魔法陣を発見する。
35層目に突入すると沼地の地形であり、非常に足がとられる構造だった。そこでミクとヴァルとローネが身体強化を使い先を見に行く事に。北から順に見に行くと、すぐに転移の魔法陣を見つけた。
あの醜悪な男の頭だと、次は東西南北の逆ではないかと思い進むと、何とそれが大正解だった。何の捻りも無い男である。一気に進み39層、ボス部屋の前まで辿り着いた。
途中では落とし穴や毒の噴き出す罠、毒矢が飛んでくる罠や大きな音の鳴る罠などもあった。それらをかわしながら何とかボス部屋まで辿り着いたが、未だ39層である。あのダンジョンマスターは40層が最奥と言っていた。
「つまり、ここが実質の最奥であり、40層はあの男が篭もって震えている層という事ですね。そういえばですけど、ミキちゃんが【誘惑の魔眼】とやらに抵抗できたのって、【精神耐性】の御蔭ですか?」
「その部分は大きいだろうな。例えばだが、私やネルは【精神耐性】を持っていない。だが、それ以上の能力を素で持っている。何故なら私は闇半神族であり、ネルは創半神族だからだ」
「神に作られた私達は、非常に高い毒耐性や精神異常耐性を持っている。もちろん絶対に防げる訳ではないけど、おそらくあの程度なら効果は無い。貴女達も意識を強く持っていれば効かない筈」
「成る程。さっきはいきなりやられたから、ミキは受けてしまったと。【精神耐性】があるから気を強く持っていれば何とかなる……んですか?」
「まあ、何とかなるだろ。とにかくダンジョンの最奥までいってダンジョンコアを破壊するぞ。ダンジョコアを破壊すればダンジョンから叩き出されるらしいからな。以降はダンジョンマスターのいない普通のダンジョンになるらしい」
「そうなんですか? オレは壊れて無くなるのかと思いました。残るならこれからも冒険者で賑わいそうですね、いきなりダンジョンが無くなったら混乱しそうですし」
「まあな。中には消滅するダンジョンもあるらしいが、詳しい事は知らん。たしか、一定範囲にダンジョンがもう一つある場合に消滅するんだったかな? 他にも条件はあったと思うが覚えていない」
『あまり時間をかけても対策をとられるだけだ。そろそろ中に入ってボスを倒そう。どのみちダンジョンコアを移動はさせられんのだ。さっさと壊してしまうべきだろう』
そのヴァルの一言で39層のボス部屋に入る一行。中に居たのは老婆と腕が翼の女性、そしていつか見た蛇女族の女性だった。そして、その後ろには巨大なゴーレムがいる。
前に居る女性達を踏み潰す勢いでゴーレムは動くが、女性達に逃げる様子は無い。腹の所にハートマークのような模様があるのは共通しており、あの醜悪な男に支配されていると思われる。
「ミクさん! あの女性達、どうにか助ける事って出来ないんですか? 幾らなんでもあまりに可哀想です!」
「助けられるとは思うけど、助けた所為でエイジやシロウに惚れたらどうするの? 体で支払うとか言われたらどうする気? 私はここで始末しておいた方が良いと思うけども」
「………助けてあげて下さい。仮にそうなったにしても、無意味に死ぬよりはマシな筈です! エイジに手を出すなら私が何とかします!!」
「えー。確かに可哀想だけど、シロウに関わってくるのはなー……。はーい、分かりましたー」
「流石にな。ミキちゃんでさえ堪えて助けようとしてるのに、それは無いと思われてもしょうがないと思う。それよりも、助けるってどうやって助ければいいんですか?」
「えっとコレをは、あっ!?」
その時エイジを攻撃していた老婆を、ゴーレムが後ろから殴り殺してしまった。
この場の誰も理解していないが実はこの女性、ハデノン王国からダンジョンマスターの男が連れ去ったメイドの女性である。
被害者である彼女の人生は、最後までクズに振り回された人生であった。一人の女性を地獄に落とした者も、これから地獄に落ちる事になる。それがせめてもの手向けであろうか。
ミクは素早く<聖霊水>を2人に渡し、それを相手にぶっ掛けるように言う。その後ヴァルと共に前に出ると、【深衝強撃】を使ってゴーレムを破壊していくのだった。
一方、メイスではなくコップを持ったエイジは、蛇女族の女性の攻撃をいなして<聖霊水>をぶっ掛けた。すぐに女性は倒れて動かなくなったので、仰向けにし呼吸が出来るようにしておく。
シロウの方は、腕が翼の女性の空中からの攻撃を防ぎながら、【爆音衝撃】を放ち気絶させる事に成功。落ちてきた所を受け止め、<聖霊水>を頭から掛けた。後は放っておくだけだ。
ゴーレムを破壊し終わると赤い魔法陣と青い魔法陣が出現し、宝玉のような玉も出現した。ミクはそれをアイテムバッグに入れ、他のメンバーに青い魔法陣から脱出するように言う。
エイジ達は渋ったものの、ミクが強い表情で言うので従う事に決めた。ミクはヴァルに皆と助けた女性を守るように言い、一人で赤い魔法陣に乗る。この後はアンノウンが本質を解放するだけだ。それで終わる。
40層に到達したミク。すると目の前には見た事もない形の大きな屋敷と、ズラッと大量に並んだ魔物達、その後ろで高笑いをするバカが居た。
「あはははは………僕が罠を仕掛けていないとでも思ったのか! お前達を殺す事など難しくないんだよ!! おまけに一人で来るとか、あまりにもバカすぎる。お前は屋敷の中にあるダンジョンコアに届く事も無く、ここで無様に死ね!!」
「こういう時に人間種ってどう言うんだっけ………ああ、思い出した。遺言はそれで終わり? それで終わりなら、さようなら」
「は? 何を言ってるんだ、コイツは? ははは、魔物の大群を見て頭が……くる………なん、だ、おま、えは?」
「私はアンノウンの<喰らう者>。星を喰らい尽くす肉の塊であり、星を滅ぼす為に生み出されたモノ。貴様如き脆弱な存在と一緒にしてもらっては困るな。さぁ、お前も喰われろ」
「ヒッ!? た、倒せ!! あのバケモノを倒せーーーーーー!!!!」
ダンジョンマスターの男は恐怖からあらん限りの声を出す。その声を受けて魔物は肉塊に挑むが、ただただ無意味に喰われていくだけだ。<暴食形態>をとっているミクは、正しく全てを喰らっていく。
魔物の腕も足も腸も心臓も、魔法や魔力や闘気、精神に魂までをも喰らい尽しながら、止まる事無く屋敷の方へ進んで行く。ダンジョンマスターの男は残っている魔力を全て消費しドラゴンを生み出すも、出現した瞬間に貪り喰われた。
「は、はは……この世の終わりだ。神話生物が居るなんて聞いてないぞ。あ、あんなの勝てる訳がないじゃないか……! 何でチートを越えるバケモノが居るんだよぉ!!!!」
その言葉がダンジョンマスター最後の言葉だった。彼は肉塊に喰われ、精神も魂も貪り尽くされた。肉塊に喰い荒らせないものなど存在しない。星そのものすら喰らうのが肉塊である。
ミクは全てを喰らった後、女性形態に戻り屋敷の中に入る。玄関入ってすぐのホールにダンジョンコアは飾るように置いてあった。地面から棒が伸び、その先に爪で掴むようにしてダンジョンコアが嵌まっている。
ミクはその前で腰を落とし右腕を引くと、真っ直ぐに握った拳を突き出す。それは正しく正拳突きであった。その全力の一撃でダンジョンコアごと粉砕し、ダンジョンマスターの機能を完全停止した。
その後、40層が崩壊すると同時にミクはダンジョンの外へと放り出される。………全裸で。




