0176・フロットン町近くのダンジョンマスターとは?
次の日。今日はダンジョンアタックの日である。朝から準備をして出発、ダンジョン前で列に並び、魔法陣に乗ってダンジョン内へ。この一ヶ月の間、何度も何度も挑戦してきたので既に慣れた道順である。
4人も軽快に歩いて行き、なるべく体力を消耗せずに10層のボスへ。コボルト五体をエイジが相手にしつつ、ミキとシロウが剣と槍で倒していく。そう、魔法を使うまでもなく倒せるようになっているのだ。
最初の頃を考えれば格段の進歩を遂げている。エイジ一人で十分凌げており、エイジが多少位置取りを変えると、ミキとシロウも位置取りを変えて対処。必ず自分達が有利な状況を崩さない。戦闘としては基本であるものの、上手く出来ている。
五体のコボルトが倒れるとハイコボルトが前に出てきたが、爪の攻撃をエイジに流され、体勢が崩れた所にミキの【風切り】が首にクリーンヒットして終了。11層へと一行は転移されていく。
【風切り】は剣術スキル系にある<使用スキル>、エイジ達は<アクティブスキル>と呼ぶものだ。ミキは【勇剣術】の幾つかのスキルを使用できるまでに今は成長した。
素早く敵を切りながらも動ける余地を残している【風切り】。隙が大きいものの高い威力の攻撃である【岩落とし】。そして、かつてミクがあっさりやってのけた【雷切り】。これらを既に使えるようにはなっている。
エイジは盾の使い方が上達し、魔法も上手く流し弾く事が出来るようになっていた。エイジの場合は<使えるスキル>が無いが、【挺身】自体は地味に高速移動も兼ねているので、上手く使って攻撃に繋げたりしている。
やはり才能が開花しているのは優秀なのだろう、サエは新たに【魔力魔法】と【浄化魔法】が使えるようになり、シロウは【火魔法】と【浄化魔法】が使えるようになっていた。
ちなみに二人が【浄化魔法】を覚えた理由はレイスだ。今のところは殆どレイスしか出てきていないが、30層以降にハイレイスが出現してきている。ハイレイスになると急に抗魔力が上がる為、【浄化魔法】でないと魔力を沢山使ってしまう。
それとヴァンパイアが出てきた時にも【浄化魔法】が無いと大変なので、二人は必死になって覚えたのだ。特に四人はヴァンパイアをかなり怖がっている。
「俺達の元の世界にはヴァンパイアの伝説とか残ってます。最初は女性だったとか、弱点が無かったとか言われてますね。その後に他の話などが足されていって、気づけば弱点が増えてますけど」
「何で弱点が増えるのかよく分からねーけど、実際には居た人とか映画とかの話が足されて、変な風に認識が変わっていったんだろうなぁ。元々は色んな地方にあった民間伝承とか伝説に出てくるんだっけ?」
「確かそんな感じだったと思う。伝染病とかでバタバタ人が死んだのをヴァンパイアの所為だとか言ったのが始まりだったかな? 色んな説があってどれが正しいかは分からないらしいけど」
「まあ、古くからの伝承なんてそんなものじゃないの? 私達の祖国だって色んな話はあるけど、碌でもないものが元だったりする事が多いし。流し雛なんて正にそうじゃない?」
「あー、元々は人っていうか生贄を流していたって話ね。生贄を捧げれば川の氾濫が治まるって考えられてた時代に、本物の生贄を流してたんだよー。それは駄目ってなって、ようやく紙で作った人形を流すようになったんだー」
「流すのは止めんのだな? 生贄に意味が無いと分かれば流すのを止めたりするだろう、普通は。何で流す事は止めんのだろうな? いや、そういう者どもに言っても無駄なのは分かるのだが。何となく思わんか?」
「慣れている海の地形とはいえ、そろそろ気を入れてくれる? 流石に余裕を見せすぎて怪我しても助けないよ?」
「「「「はい!」」」」
ミクに声を掛けられて、すぐに意識を変える四人。気を抜く所と入れる所。キッチリと分かっているようで何よりである。一行は11~14層の海の地形の魔物をスルーし、15~19層の魔物を狩りながら進む。
ここは平原だが、グリーンチキンやタックルカウなどが出てくる。厄介な魔物ではあるのだが、既に戦い慣れた四人にとっては、そこまで苦戦する魔物でもない。グリーンチキンの【風魔法】や、タックルカウの体当たりをかわしつつ倒していく。
四人にとっては慣れた相手でもあり、エイジが隙を作り出せる相手なので強くないのだ。グリーンチキンの【風魔法】はエイジが盾で流すか弾きつつ接近。タックルカウは、突進をギリギリで回避して足を打てば簡単に転がる。
この2種はそこまで強くないのに売ればそれなりの金銭になるのだ。美味しい肉の魔物でもあるので高値でギルドも買ってくれる。ちなみに幾つかはミクがそのまま持ち、本体が唐揚げにして出した。ローネとネルの酒の肴だ。
エイジ達も思い出したように欲しがるので、揚げ物用の油を購入したりしている。そんな層を越え20層のボスはハイオーク五体だ。実はこいつらの方が簡単に倒せたりするので、何とも言えない四人。
ハイオーク五体はミキとサエを見てすぐに突っ込んで来るが、エイジが前に出て邪魔をする。当然連中は一気に薙ぎ倒して女性に近付こうとするのだが、エイジに近付いた時にシロウが【爆音衝撃】を繰り出すと一撃で気絶する。
後は気絶したハイオークを殺す作業である。ミキが剣で首を切ったり、三人が解体用のナイフで喉を突き刺したりして殺害し、終わったら21層の森へ。簡単過ぎて毎回呆れている。
「まあ、仕方あるまい。アレはオークどもの本能のようなものだ。流石にグレーターオーク程になれば本能に忠実ではないからな、気をつけろよ。いつも通り……何て考えていたら全滅するぞ」
その言葉に気を引き締めつつ、四人は森を進んで行く。森というのは非常に厄介で、自分の進んでいる方向が分からなくなる。一定の距離を回るようにグルグルとしてしまい、遭難するという事もあるのだが四人にそれはない。
この四人、方位磁針を知っており、それが雑貨屋で売られているのを発見したのだ。何に使うか分からない物なので二束三文で売られており、喜び勇んで購入している。後で使用方法を聞き、ミク達も関心していた。
どちらでもいいが、常に方角が分かるなら迷う事は無いだろう。肉塊は備わった能力で、そもそも方角を見失うという事が無いので意味が無いが。
とはいえ、人間種という者は色々考えるものだと関心していたら、実はダンジョン産の道具だったのだ。
<鑑定板>で調べたから間違い無いのだが、その時の文言にはこう書かれていた。
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<方位磁針>
磁石を使った簡易的な方角を知る道具。赤いNと書かれた方が北であり、常に方角が分かるという便利な道具。ただし、この道具が通用しない場所もあるので気を付けられたし。ダンジョン産。
この道具をダンジョン内にバラ撒いたのはダンジョンマスターだが、この道具はダンジョンマスターの知識から作られている。
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この鑑定結果を見た瞬間、四人は自分達と同じ故郷の者がダンジョンマスターをしていると確信した。それをミク達に伝えると、ミク達もまた少々考え込む。エイジ達と同じ知識を有した者がダンジョンマスターだと、知らない攻撃を受ける可能性が高い。
知識外からの攻撃は、その一撃が致命傷になりかねないのだ。更に相手がどんなスキルを持っているか分からない。これらを踏まえると、そう簡単にダンジョンマスターに手出し出来なくなったのだった。




