0175・それなりに痩せたエイジと黒いミキ
「少なくともさ、あの女は【魅了】の危険性を何も理解していなかったって事は無い筈なの。何故なら、この星でも男はバカだっていう言い方をしてたから。つまり、元の星でも男を【魅了】してた筈なのよ。そいつが急にポカをやらかすと思う?」
「確かにそう考えると短絡的だな。特に王都で【魅了】を使うというのが短絡的だ。王都の民は確かに多いだろうが、そんな所で精を集めた所でバレるのも早いだろう。逃げる事も考えれば損しかない。やるなら地方都市だろう、村は狭すぎる」
「もしくは冒険者だけを狙うとか? ゴロツキに近い連中の言う事なんてまともには取り合わない。多少の情報が漏れた所で問題は無い筈。それに、ミクが見たのも冒険者相手に奪っていた状況。つまり、あの蛇女族の頭は悪くない」
「そう考えると……って、ああ。才能の事もあったのか。良くも悪くも才能が開花している以上は、そう簡単におかしな事をしませんかね? 才能が開花しているからこそ、調子に乗りそうな気もしますけど」
「そこは多分、言い出したらキリが無いんじゃないかな。少なくとも、あの蛇女族の女性が死んだかどうかは定かじゃない。死んでいてくれれば楽なんだけど……」
「おっ! ミキも分かるようになってきたな。そうだ、あの場に居た奴等は少なくともお前達のスキルを知っている。場合によっては、お前達のスキルの情報が流出している可能性もあるのだ。狙われる可能性もゼロじゃない」
「私達は狙われたところで対処できるけど、貴女達はそうじゃない。ある程度は戦えるようになったけど、今まで以上に警戒しないとマズくなってきている。そろそろトロッティア王国が召喚したという情報も出回る筈だから、気をつけないと駄目」
「有用なスキルを持っていると狙われるって事ですね? オレとサエは………ああ、珍しい召喚者ってだけで狙われるんですか。ついでにこの星の人達と顔が違いますから、目立つでしょうしね。色々マズいなー」
「必ず一人では出歩かない、外に出る時は四人と私達の誰かと一緒に出る。何かあればすぐに相談する、ってくらいかな? 特に私かヴァルなら調べられるから、どっちかに声を掛けてくれれば守ってあげられる」
「五種の感知系スキルですか……最初聞いた時には唖然としましたけどね。気配とか魔力とかなら分かるんですけど、精神とか魂魄が既に不明なのに、存在って何ですか? 意味が分かりません」
「そう言われてもね。他にも【生命探知】も使えるし【波動感知】も使える、更に【不浄察知】に【水気探知】も使えるよ。ただ、前者二つは使い勝手が悪いから使わないし、後者二つはアンデッドと水場を見つけるスキルだからね。意味合いが違うんだよ」
「「「「へー……」」」」
そうやってスキルの事を話している最中に、店員が追加注文がないか聞きに来たのでエイジとシロウは追加した。が、その時女性店員がエイジに色目を使う。その瞬間、ミキから黒いオーラが噴出した。
もちろん、そんなオーラは現実には無い。だが、幻視できるレベルで黒いオーラが噴き上がっているのだ。女性店員は顔を引き攣らせながら足早に去っていく。
ここ最近、こういう事が明らかに増えていて大きな問題となってしまっている。
「またか、お前は。もう少し大人しく出来んのか? エイジが痩せてきたら見た目がそれなりに良かったからではあるんだが、そんな事はよくある事だ。大体シロウもよく色目を使われているが、サエは流しているだろう」
「………」
「まあ、気分の良いものじゃないけど、ミキちゃんは隠せてたのにねー? 最近まったくと言っていいほど我慢できなくなってるけど……もしかして二人の間に何かあったー?」
「いや、特に普段通り変わらないけど……。ごめん、俺の前以外がどうかはちょっと分からない。痩せてきて見た目が随分マシになってきてるのは分かるんだけど、今さら見た目でモテてもなぁ……としか思わないし」
「まあ、そうだよな。第一印象は見た目で決まるって言うけどさ、彼女が居るんだからそこまで見た目どうこうは無いんだよな。精々、彼女に恥を掻かせないようにしていれば良いだけだし」
「そうだねー。変な女が声を掛けてくるようになっても鬱陶しいし、それぐらいで特に問題無いよー。それに、元の星と違うからそこまで整えられる訳でもないもん」
「そもそもヴァルよりは見た目が落ちるのに、妙にエイジに声を掛けてくるのは何故? シロウにももっと声を掛けて黒いオーラを分散させるべき」
『急に何を言ってるんだ、ネルは? 俺の事は横に置いておくとして、今は誰かさんの黒いオーラだろう。別の意味で覇気があった、あのドス黒いオーラを出すのは良い事ではない。エイジは夜に出来るだけ解消しておけ』
「えっ!? 今以上にですか? ………まあ、はい。やってやれなくはありませんので頑張ります。でも、それだけで解消しますかね? 何だか難しいような……」
「問題無いだろう。少し聞いたが、ミキがドス黒いのを持っている原因は、基本的には愛されていないからだ。子供の頃から愛さない家族だから歪んだのだろうな。貴族にはありがちな事だし、だからこそ奴等は親子で殺し合いをする」
「近くに居るのがメイドと教育係だけだと、親は他人にしからない。だからこそ親を平気で裏切るし殺す。でも、それは親の怠慢が跳ね返ってきているだけ。自業自得であり、因果応報でしかない」
「それでミキちゃんは愛情に飢えているって事ですかー? 何か違うような気がするんですけどー?」
「違うな。正しくは自分が愛情を持って接したら、愛情を返してくれる事だろう。要するに誰かを愛し、その人から愛されたいのだ、ミキは。その最初のきっかけがエイジだったという事になる。そして目の前で大怪我をした」
「ああ、だからこそ周りの男を憎んでた訳ですか。自分の愛情を否定されたような気分になったから、余計に鬱屈したものを溜め込んじまったと」
「そう、シロウの言う通りだ。つまりミキという女にとって、最初から最後までエイジは最重要人物という事になる。言うなれば、自分の愛する男を奪う奴は殺す。という状態になっている訳だな」
「「「「………」」」」
『そして本人に自覚無し……と。これが星川美輝という人間の正体か。まあ、分かったのならコントロールする方法もあるのだろう? 俺や主は、人間種の心の機微がハッキリとは分からんからな』
「私達だって分からんさ。心は複雑怪奇だ。とはいえミキを安定させる方法は難しくない。エイジがバカになれば良いだけだ。エイジがバカになって、四六時中イチャイチャしていればいい。それで安定する」
「「「………」」」 「//////」
「一人だけ反応が違うのが答えだよね? 私にはよく分からないんだけど、そんなに難しい事なの? 元々エイジはバカなんだし、特に問題無い気はするけどね」
「いや、それは酷くないですか? ………バカになるのは良いんですけど、なるなら気合い入れないと無理ですね。正直、今までのモテなかった自分とは完全に真逆なもんで」
「言いたい事は分かる。男にとっては大変なんだよな。気合い入れないと出来ない気持ちは本当よく分かる。人前でのイチャイチャってなかなか冷静でいられないっていうか、すっごく恥ずかしいんだよ」
「とにかくエイジには頑張ってもらう。これから先の事を考えてもミキの安定は急務。そもそも痩せたら結構男前なエイジが悪い。ちゃんと責任をとらないと駄目」
「はぁ……男前といわれてもピンと来ないんですけど、分かりました。今さらミキ以外と付き合うって事も無いですし、頑張ります」
「それじゃあ、部屋へ戻って満足するまでシてこい。お前達は若いんだし大丈夫だろう」
「食堂で容赦ないですね!? 戻りますけど!」
そう言ってエイジはミキと食堂を出て行った。ミキはエイジの腕を抱きながら素早く歩いて行く。むしろエイジを引っ張っている有様だ。黒いオーラさえ出さなければ王子様系美少女なのだが……。
残ったメンバーは溜息を吐きながら食事を流し込み、さっさとそれぞれの部屋へと戻った。




