0170・捕縛と侵入
下らない食堂での揉め事が終わった後、食堂を出ようとすると兵士が雪崩れ込んできた。周りは急に現れた兵士に驚くものの、ミク達は兵士が来ているのを知っていた。ネルは気配系のスキルを持っていないが、当然予想している。
あれだけの威圧を振り撒いたのだ。騒ぎにならない方がおかしいし、騒ぎになれば兵士が出張ってくるのは当たり前の事だからだ。声を張り上げて威圧した者を探しているのだが、それは馬で移動していた女性騎士だった。
「威圧を振り撒いたのは私だけど、いったい何の用? 原因となったのは、そこの腐れ汚物の所為なんだけど。そいつを調べるのが先だと思うよ?」
「お前が威圧をふ!? ………街道で会った女冒険者ではないか。そこで倒れているのは……創半神族か!? その男は面倒なのだぞ。酒作りは上手いのかもしれんが、他種族への見下しと差別が酷いのだ」
「と言われてもねえ……。そもそもこの汚物が仲間のネルを妾にしてやるとかホザいた挙句、私をカスとか言ってきたんでこういう目に遭わせたんだよ。これでもマシな方だと思うんだけどね? 本来なら殺す気だったし」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
「流石にそれは聞き逃せんのだがな。まあ、殺してはいないのだろうが、やっていればとんでもない事になっていたぞ。唯でさえ相手は神に関わりのある種族だ。国としても、そなたらを捕まえて処刑せねばならなくなるところだ」
「ふーん。コイツの所為でねぇ……」
ミクは失神している創半神族の男を再び蹴り上げて無理矢理起こす。その行動を女騎士が咎める前にミクは片手で持ち上げ、女騎士の前に連れて来た。女騎士の目線に合うように持ち上げて話させていく。
「ほら、目の前にお前を助けてくれる奴等が現れたぞ。嘘でも何でも好きに話せ。それがお前の末路だ。………ほら、どうした? お前を助けてくれる奴等じゃないか、さっさと話せ」
「あ、いや……その………わ、ワシが全て悪かったので、この方々は何も悪くない。被害があったのならワシが全て弁済いたそう。だ、だから穏便に頼む。騒がんでくれ……!」
「どんな種族でもバカは居る。同胞の男どもがバカなのは分かりきってる事。良くなった事など私が生まれてから千年ほどの間、一度たりともなかった。同胞の男は阿呆ばかり。大人しく弟子をとっていればいいのに、何故か自分の子供に技術を継承させようとする」
「そ、それは別に間違ってないのでは? ……というより、その話し方だと貴女も創半神族という事になるのだが……」
「私も創半神族で間違いない。だからこそ、このバカは私を妾にしてやるとかホザいた。そしてミクを侮辱し激怒させたのが威圧の原因。私達半神族という神に作られた種族でさえ、ミクの前では殺されるしかない。コイツはそんなバケモノを激怒させた」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「私は闇半神族だが、冗談でも何でも無く殺されるしかないぞ。その阿呆が怯えているのもその為だ。たとえ国家が総力を挙げても虐殺されるしかない怪物が、この世の中には存在する。もっとも、知らない事は幸せでもあるのだがな」
「しかし……どれだけの暴力を示されようが、私達は法に照らし合わせて貴女を捕まえて調べねばならん。たとえ死んでもだ!」
「「「「「「「「「「隊長!!」」」」」」」」」」
「いや、普通に捕まるけど? 私としてはコイツが創半神族だったり、酒を作ってるからという理由で手心を加えたり、おかしな罪をデッチ上げるなと言ってるだけ。激怒した所為で威圧の制御が甘くなったのは事実だしね」
「「「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」」」
「何で驚かれてるのか理解できないけど、どうせ十日間ぐらい鉄格子の中なだけでしょ? 特に大した問題でもないよ。ヴァルとローネとネルには四人の事を頼む事になるけど、牢の中の間はお願いね」
「まあ、戻ってくるまで待っておこう。どのみちダンジョンで四人を鍛えねばならんしな。少なくとも一ヶ月以上は滞在する事になる。揉め事を起こしたまま逃げても誰も得をせんし、気にするな」
「そうそう。そもそもそこの腐れ汚物が悪いんだし問題ない。それにヴァルが居れば大丈夫。ミクと同じくらい強いし」
女騎士と兵士はよく分かっていなかったが、ここには居ない誰かなのだろうと思い、ミクを囲む形で兵舎へと連れて行った。あれ程までの実力者があっさり捕まっていく姿にポカーンとしているが、そんな周囲を無視して一行は宿に戻った。
宿に戻った者達はそれぞれの部屋へ行き、それぞれの恋人との一夜を過ごしていく。尚、ミクがいない為、ヴァルには二倍の苦労が圧し掛かったようだ。
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次の日。牢の中で分体を起動すると、女騎士が鉄格子の向こう側に居た。一応挨拶すると、向こうも挨拶を返してくれたが、何やら微妙な顔をしている。どうやら早速何かがあったようだ。
「何だか微妙な顔をしてるけど何かあった? もしかしたら早速貴族が横槍を入れてきて、私を処刑しろとか言い出したかな?」
「なっ!? ………何故と言えばいいのか、それとも何処の貴族もやる事は変わらんのか。いったいどちらなのだろうな?」
「ふーん。あまりにも予想通りで詰まらないね。もうちょっと捻った新しいのを期待したいところだけど、貴族程度には無理なのかなぁ……?」
「貴女もボロクソに言うな。間違ってはいないと思うが……。とりあえず私の方でなんとかしてみる。最悪は私の一存で逃がす事になると思うが。そこは許してほしい」
「それよりもさ、貴族の全部が騒いでるの? ここの領主一家だけ? それとも一人か二人だけが騒いでるの?」
「………横槍を入れたのは先代侯爵だと聞いている。私程度では会った事も無いがな。まあ、とりあえずは気楽に待っていてくれ。おそらくは問題無い筈だ、止めるように頼んでもいるのでな」
「りょーかい」
(さて……侯爵という立場の相手に閣下と敬称をつけて呼ばない貴女は、いったい何処の誰なんでしょうねえ~? ま、とりあえずは夜になるまで、ゆっくりと待つ事にしますか)
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牢の中は夕食しか出ないし、出るのは余り物の硬いパンが一個と水だけだ。とはいえ、食べ物も飲み物も必要ないアンノウンにとっては、何の痛痒も感じない事でしかない。
そのパンを水で流し込んで食べたら、寝転んで目を瞑る。この牢には朝の女騎士以降、食事を持って来た兵士以外は誰も来ていない。つまり取り調べも何もされていないのだ。それは百歩譲って構わないとしても、誰も監視していないのは不自然である。
とはいえスキルで監視されている可能性は高いので、夜中になってヴァルと【念話】で会話をしたら、呼び出して即座に百足に変化する。その後、ヴァルと情報交換をしたら鉄格子の外へと出て行く。
この町の領主の館は、日中に五種の感知系スキルで調べていたので既に判明している。そこへと素早く移動し、二階の窓から侵入していく。窓から入ったミクは百足の体を更に小さくする。
中に入って怪しんでいた反応を調べて行くと、最も怪しんでいた反応の近くにあの創半神族の反応があった。これは都合が良いと、ミクは非常に小さくなった百足の姿で部屋の中に侵入する。
一定以上に小さくなると【生命探知】では拾えない為、現在ミクが居る事はバレていない。そんな中、ゆっくりと話を聞いていくのだった。




