0169・ボス戦と創半神族(ドヴェルク)の男
【念話】である事を教えられたシロウは魔力を集中していく。少しずつ気付かれないように後退しながら集中し、十分に魔力を篭められる状態になったら大きな声を挙げる。
「ミキちゃんは後ろに下がって耳を閉じてくれ! 早く! それとエイジ! 済まねえが耐えてくれよ!! 【爆音衝撃】!!」
大爆発のような音がハイコボルトのすぐ近くでし、その一撃で気を失うハイコボルト。それを見て一気に近付き、首に剣を突き刺すミキ。ようやく戦闘が終わってヤレヤレとするも、死体が消えて11層へと転送される。
11層は近くに海が見える地形だった。そこに到着するも、何やらエイジの様子が変だ。ミキがエイジを呼ぶも、エイジは全く反応しない。皆も訝しんだが、どうやらエイジの鼓膜は破れているらしく聞こえていないようだ。
「またコレ? 私が居なきゃどうなってたんだろうね、本当。………【超位修復】!!」
「………ん? あ、あー………。やっと耳が聞こえるようになった。回復するまで随分と時間が掛かったなあ。【超速回復】があるんだから、もっと早く回復してもいいのに」
「お前は何を勘違いしてるんだ。エイジ、お前の鼓膜は破けて耳が聞こえなくなっていたのだ。ミクが回復させたから良かったものの、お前達だけならとっくに冒険者を引退せねばならんぞ」
「そもそも【爆音衝撃】は指向性を持たせる事が可能な魔法だよ? ハイコボルトだけに聞こえるようにすればいいのに、普通に広がるように使うからエイジの耳まで壊れるんだよ。多分だけど気も失ってたんじゃない?」
「どう……なんでしょうね? 言われればそうかもしれませんけど、でも一瞬だったんで問題は無いと思います。本当の戦闘中だと一瞬でもヤバイのかもしれませんけども」
「ヤバいどころか、その一瞬の所為で殺される事もあるな。先ほどの戦いでの一番の問題は、お前達の想定の甘さだ。安易に挑戦してみたいと言った結果がアレだからな。お前達に10層以降は、まだまだ早いという事だ」
そう言われて肩を落とす四人。とりあえず海岸線のような地形を移動しつつ、青い魔法陣を探していく。大きめのビッグキャンサーなどをミク達があっさり倒していくのを見て、自分達の力不足を痛感したようだ。
とはいえ、早い内に凹んだ事は悪い訳では無い。むしろ成功が続くよりも、早めに失敗しておいた方が良いのだ。成功からの失敗はダメージが大きいし目が曇りやすい。本人が認めない可能性もあって反省に繋がらない事もある。
それに比べれば、失敗しても問題無いうちに失敗しておく事は重要だし都合が良い。若い時によくある恥で済むので傷は浅く、それでいて後に続く反省材料にもなる。そんな事を説明して四人に反省を促す。
「反省というのは凹む事じゃないぞ? 何が悪かったのか、どうすれば良かったのかを考えて、次に同じ失敗をしないようにする事だ。凹むだけで終わったら、唯の傷の舐めあいだからな? それだけは止めておけ。何の役にも立たん」
「「「「はい」」」」
説教臭い事も多いが、道を示している事も間違いないローネ。歳を取ると説教臭くなるのは仕方がないのだろう。多くの事を見てきたが故に、若者の粗さが目に付くのだ。
ウロウロしつつ11層を探索していると、先に赤い魔法陣を見つけてしまい、青い魔法陣がなかなか見つからない。随分と探し回りやっと見つけた場所は、水の中だった。
「海岸線の近くだけど、アレは反則だと思う。水と混ざって見難い事このうえない。ワザとああしているなら、間違いなくここのダンジョンマスターは性格が極めて悪い。ハッキリと歪んでいると言える」
「場所が場所だから足下は濡れるけど、ここからさっさと出よう。ここで文句を言ってても始まらないし、そろそろ出ないと夕方が近いと思うしさ」
そのミクの一言で続々と脱出していく。意図的に悪口を言っているのに、こちらに何もしてくる気配が無い。ダンジョンマスターとやらが見えず、手を出しても来ないので悩むミク達。多少でも何かあれば、そこから探る事も可能なのだが……。
とはいえ、ここまでダンジョンマスターからの攻撃というものは無い。なかなか尻尾を掴ませない相手に対し、今は素直に引くのだった。
ダンジョンを出たミク達は夕日が出ている事に慌て、急いで冒険者ギルドに行き獲物を売り払う。それなりの値段にはなったが手続きを終わらせ、すぐに食堂に行き夕食を頼む。
酒場に行かないのは創半神族の男性と遭いたくないからだ。もちろん嫌っているのはネルだけなのだが、創半神族の男性は子供を作る欲求が強いらしい。ヤりたいというよりは、自分の技を教える者が欲しいらしい。
「そんなのは弟子でもとればいい事。わざわざ子供を作る必要は無い。しかも山髭族の寿命は長くない。精々150~200年くらい。結局、自分だけが残る。教え込めたら満足なんだから、弟子をとれば良いだけでしかない」
「わざわざ腹を痛めてまで産む必要は無いな。今は十分に山髭族も居るだろうし、種族の危機という訳でも無い。ならば作らなくてもいいとなるのは当然だな。私も同じだが……」
そんな話をしているのが悪かったのか、食堂に身長の低い骨太な男性が入ってきた。その男性はキョロキョロと周囲を見渡すとネルで視線が止まり、こちらにズンズンと歩いてくる。ネルはあからさまに面倒だという顔を隠しもしなかった。
にも関わらず、この創半神族の男は開口一番、頭のおかしい事を言い出した。
「おう! ここに居たのか、同胞の女。とりあえずワシの妾にしてやるからさっさと来い」
「??? ……何言ってんの、この阿呆は? いきなり来て妾にしてやるとか、貴族並のクズじゃない。これが創半神族の男ねえ。そりゃ遭いたくないって言われる筈よ。頭がおかしすぎる」
「は? お前みたいなゴミに声を掛けておらんのだからしゃりしゃり出てくるな。これだからカス種族は救いようがない。とっとと死んでこいゴミ」
「あ?」
その瞬間、周囲に対し尋常ではないプレッシャーが撒き散らされる。それは創半神族の男に対するピンポイントの威圧の筈だったが、その余波だけで凄まじい被害を齎した。
即座に気絶した創半神族の腹を蹴り飛ばして無理矢理起こす。酒場の外まで失禁者を続出させたが、怒りに震えるアンノウンを止める事など出来ない。
そのアンノウンは片手で創半神族の男の首を絞めながら、宙吊りにして話していく。片手であるにも関わらず楽々と持ち上げており、創半神族のパワーでも外せなかった。
「高がお前如きが何様のつもりだ? 創造神が作り出し命を吹き込んでやった程度の人形の分際で。唾棄すべきゴミに成り下がっているのは貴様だろうが。それとも……アンノウンである私と命の奪い合いをするか? 私は一向に構わんぞ?」
そう言ってミクは創半神族の男を投げ捨てた。「ドシンッ!」という音と共に尻から着地した男は、最初の威勢の良さなど無くし、その顔は恐怖一色に塗り潰されていた。
流石に”何を”怒らせたかを理解したのだろう、腰を抜かしたまま這うようにして逃げていく。必死に逃げようとするも、その後ろからミクは無慈悲な一言を告げた。
「成る程。答えないという事は命のやりとりがしたいという事だな。分かった。では、死ね」
慌てて振り向いた創半神族の男の目の前でミクが手を叩くと、その音で白目を剥き失神してしまった。それを見てミクは「ケタケタ」と笑い始める。
「あははははは……。バカ過ぎる! 偉そうに言っておいてこのザマとはね。せっかくだから、このまま放置して情けない汚物として飾ってやろう。それがコイツにはお似合いだ」
何故かネルが満面の笑みだが、余程に同胞の男には苦労をさせられてきたのだろう。そんな良い気分のままミク達は食事を始めるのだった。
尚、四人も余波で漏らした事は付け加えておく。そのすぐ後にミクが【超位清潔】を使って綺麗にしているので、恥を掻かずに済んではいるが。




