0166・普通の冒険者の話と酔っ払い
門番に登録証を見せるも、新人である事に訝しがられた。何故ランク1であるにも関わらず、旅をしてきたのかと。普通の冒険者であればランク1など村や町の近くで魔物を狩っている筈である。それに対してミクはあっさりと言った。
「ダンジョンでお金を稼ぐ為だけど? そもそも村や町の近くなんて魔物の奪い合いじゃないの。新人じゃ碌に稼げないし、ダンジョンの浅い層で稼いだ方がマシでしょう。お金がある間に移動するに決まってるじゃない。でないと体を売るしかなくなるんだけど?」
「そ、そうか……すまんな。最近ダンジョンに行っては死ぬ若者が多いので気になったんだ。ダンジョンの中が変わったのか、今までの情報が通用しなくなったらしい。その所為で死者が増えてる。君達も気を付けるようにな」
「「「「はい」」」」
門番の前を通過して町に入った後、四人は溜息を吐いた。ああも簡単に適当な言い訳が出来るものだと………。
「ん? 勘違いしてるね。私が言ったのは若い女冒険者の末路の話だよ。だから適当な事でも、間違ってる訳でもない。そもそも私達はトロッティア王国から一人金貨30枚を奪ったけど、そんなお金は普通の人には無い。男だろうと女だろうと、お金が無くなれば体を売るしかないよ?」
「「「「………」」」」
「ま、ミクの言っている事は唯の事実だから諦めろ。金貨30枚なぞ、そもそも簡単には稼げんのだ。それを最初に手に入れているのだから、お前達は明らかに恵まれた立場だぞ? 普通なら簡単に転落する」
「実際、魔物を倒して生計を立てるって過酷な事。普通はその日暮らしが一年ぐらいは続く。それでも宿に泊まれるなら優秀な部類。大抵は野宿でお金を節約し、その間に身の守り方も習う。ただし、生き残れた場合のみ」
「それって、まさか……」
「そうだ。襲われて身包み剥がされて殺される。あるいは奴隷として売られる。もしくはスラムなどの裏組織の情婦だな。それが若い女冒険者に多い末路だ。そもそも冒険者自体が掃き溜めでもある」
「ちなみに男でも変わらない。裏組織の下っ端で死ぬ。どこかで野垂れ死に。後は、お尻の愛人かな? たとえお尻の穴を売っても生き残れるだけマシ。冒険者なんて村や町で必要なくなった連中がつく職業」
「「「「???」」」」
「たとえば農業に人手が要るから子供を沢山生む。だが、成長してきて邪魔になったから、農地を継がせる子供以外は家を叩き出す訳だ。で、継いだ奴も人手が足りないから子供を多く作る……となると?」
「要らなくなった人手が大量に余るという事……。そういう人が冒険者になって死んでいく?」
「そう、体の良い厄介払い。だからこそ余計にチンピラのような連中が多いのも分かるでしょ、そもそも捨てられてる訳だしね。でも村や町に置いておくと結婚相手を探したりとか色々しなきゃいけないし、生活させる費用も嵩む」
説明を町中で歩きながらしているが、それを聞いた冒険者には何とも言えない表情の者と、怒りに塗れた表情をする者が居た。しょうがないと諦めた者と許せない者に綺麗に分かれているのだが、ミク達に怒りを向けてくる者は居ないのが答えであろう。
そんな話も終え、宿に行って部屋をとる。二軒目で部屋がとれ、二人部屋1つと一人部屋2つをとった。宿には他の部屋も空いているので従業員が広い部屋を勧めてくるが、キッパリと断る。
「私はエイジと一緒の部屋なら何処でもいいし、わざわざ2つのベッドなんて要らない。殆ど毎日愛し合って一つのベッドで寝ているから、もう一つベッドがあったところで使わないの。無駄なお金も無いし、一人部屋でいい」
「はいはーい。サエとシロウも毎晩愛し合ってるので要らないでーす。恋人同士に二つのベッドは要らないよねー」
「あ、はい。そうですか……。あの、そちらの女性三人は、三人部屋でなくても良いのですか?」
「うん? 私達も毎晩愛し合っているから要らないぞ? どうせミクがどっちかのベッドで一緒に寝るだけだし、二つあれば十分だろう」
「二つあれば問題ない。後、大抵ミクは私のベッドで寝てる。ローネは寝相が悪い事が多い。偶にミクが落とされそうになっているから危険」
「それは仕方ないだろう。流石に寝ている時の事を言われてもどうにも出来ん。そもそも私の意識が無いのだしな、すまないと言うしかない」
そんな話をして断るのだが、高校生四人だと微笑ましい顔と嫉妬の視線だったのに対し、ミク達の場合は一部の女性から熱視線が向けられていた。流石のエイジとシロウでも分かったぐらいなので、相当の熱量だったのだろう。
一行は宿を出て酒場に行き、少し早い夕食を注文する。ローネとネルは酒を頼んでいるが、高校生達は飲まない。これはアルコール教育が行き届いているのと、エイジ達の故郷では酒を飲む人が減った事が原因だそうだ。
「アルコールってビックリするぐらい体に悪いんですよ。それと煙草。オレ達の故郷じゃそれを子供の時に習うんで、手を出す人は多くないんですよ。もちろん違法じゃないですけど、体を悪くしてまで飲むのもなぁ……ってトコです」
「俺達の祖国じゃ、お酒が飲める年齢まで法で決まってますからね。とはいえ、飲んだところで注意されるくらいですけど。飲んで何かの犯罪をしない限りは捕まりませんね。俺も飲む気は無いです」
「お酒の美味しさを知らないのは悲しい事。とはいえ言いたい事は分かる。お酒を飲んで暴れる人などは多い。ああいうのは酒飲みとは認めないし、叩きのめすべき。酒飲みの矜持も無い奴に飲ませていい物じゃない」
「ほう! 随分偉そうな事を言うチンチクリンじゃねえか? テメェ如きガキに酒飲みの何が分かるってんだ? ああ!」
「ほらきた、ウスラバカ。私がガキなら、お前は母親の腹の中だ。私はこう見えて982歳。お前は私より年上なんだろうな? 答えてみせろ」
「ああ!! テメェみてえな小せえガキが何をホザいてやがる! フザけてんじゃねえぞ!!」
酔っ払った男がネルに殴り掛かってきたが、ネルは片手で受け止めた後で拳を握り潰した。「ベキベキ」とも「ビキィッ!」とも聞こえる音がして、男の拳の骨は砕ける。
そもそも創半神族のパワーは山髭族より遥かに上なのだ。山髭族以上の筋肉と骨の密度を誇るのが創半神族である。喧嘩相手としては最悪の部類に含まれるのを、どうやら知らないらしい。
「創半神族であるネルに喧嘩を売るとは、唯の阿呆だな」
「「「「「「「「「「創半神族!?」」」」」」」」」」
「ん? もしかして創半神族は知られているのか? ならば闇半神族はどうなのだ?」
「「「「「「「「「「???」」」」」」」」」」
「何故か闇半神族は知られていないみたい。創半神族だけなのかな? 光半神族は?」
「「「「「「「「「「???」」」」」」」」」」
「どうやら私の種族だけが知られているみたい。いったいどういう事? 言葉は悪いけど、光半神族や闇半神族より地味な筈。なのに何故?」
ネルが首を捻っていると、近くに居た山髭族の男性が話し掛けてきた。
「あの、自分は山髭族なのですが、この町には酒造りをしている創半神族の方がおりましてな。その方の酒を求めて国の各地から訪れる人が後を絶たぬのです」
「あー、同胞が居るとは思わなかった。それで創半神族だけが知られてるのか。まあ、どうでもいいけど。同胞に会ったところで対して話す事も無いし、男だと「子供を作らないか?」と言われるだけだから、余計に会う気にならない」
「どっちなんだ?」
「町に住んでらっしゃるのは男性です……」
その一言で途端に興味を失ったネル。料理も来たので酒を飲みながら食事を楽しむのだった。
尚、拳を潰された男は居なくなっていたが、ミクとヴァルが五種の感知系スキルで追跡している。今日の夜にでも喰われるだろう。




