0165・騎士の話とフロットン町に到着
夕食後、宿の部屋に戻ってゆっくりするミク達。四人は各々の部屋に戻り、早速盛っているらしかった。
ローネとネルは「若さ」を語りつつ酒を飲んでいる。ローネはエールだが、ネルはミードだ。とても美味しそうに飲んでいるようで何よりである。
「やはりデスホーネットのハチミツは凄い。キリッとしているのに甘くて、でもしつこく無いのに酒精は強い。思っているより飲みやすいけど、すぐに酔う危険なお酒。流石は即死毒のデスホーネット……!」
「驚き方の意味が分からんが、美味しいというのは伝わった。私も飲んでみたいが、この星にデスホーネットが居るか分からんからな。居るなら手に入るから飲むのだが、居ないなら手に入らん。味わうと欲しくなるだろうし困ったものだ」
「………な、なんてこと。コレが二度と手に入らないかもしれないなんて……! ぜひデスホーネットを探すべき。ダンジョンの中も隅々まで。きっと何処かに居る筈だし、居なければダンジョンマスターを脅して生み出させる」
『滅茶苦茶な事を言っているな。とはいえ侵入者を殺す為ならデスホーネットかそれに近い者は召喚するんじゃないか? 何といっても小さくて毒が強力なうえに群れているからな。魔物としても非常に厄介だ』
「だからこそアレだけ怖れられていたのだからな。ミクが貪った以上は倒せるどころか、根絶させる事も可能なんだろうが……。まあ、する意味は無いな。ハチミツとしても異常なほど美味しいし、そういう意味でも根絶の必要は無い」
「私としてはアレの毒を改良して、もう少し反応が出ないで殺せる毒にしたいかな? もしくはもっと濃縮して散布用にするか。どのみち使いにくい毒だから、何とも言い辛いんだよね」
そんな話をしつつ、ホロ酔いの良い気分のまま襲ってきた二人。しかしミクとヴァルにあっさりと撃沈された。今回は二人とも女性形態だったが、何故リクエストされたのかは謎のままである。
聞く気も無い二人はさっさと停止し、最低限の監視だけをするのだった。
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翌日。食堂で朝食を食べて出発し、東へと歩いて行く。
昨日ボコボコにされた連中は、朝も食堂に倒れたままだったがスルーされていた。どうやら村の者にも悪行が浸透したらしく、誰も助けようとなどしなかったようで捨て置かれていた。
まあ、犯罪者の末路などあんなものだろう。未だ気を失ったままだったが、命がある事は確認しているので問題は無い。犯罪者が制裁を受けただけだと考えると、極めて普通のことでしかないのだ。こういう時代では。
今までと同じく魔法を使わせながら歩き、魔物が出てきたら戦わせる。後ろからアドバイスなどもしつつ順調に経験を積ませていると、馬に乗った騎士が進路側からやってきた。そのまま素通りしていったが、馬にちょっと興奮している四人。
「おおー。馬に乗れるって格好良いな! こう、騎士って感じの装備だったし、マントが風に揺れてたよ。普通に想像する騎士って感じの五人だったけど、アレって何なんだろう? 街道の巡察?」
「騎士どもは常歩だったからな、急ぐ内容ではないのだろう。特に気にしなくてもいいと思うぞ。そもそも騎士の行動など考えても無駄だし、アレらは高給取りの癖にそこまで役に立たんからな」
「えっと……役に立たないんですか? 立派な騎士っていうのは、やっぱり居ないんですかね。騎士も内実は武士とあんまり変わらないって言われてたし、所詮はコネが物を言うって聞いた事もあるしなぁ」
「騎士の殆どは貴族の子。でないと読み書きやら教養が無いからしょうがない。お茶のマナーとか、食事のマナーとか、ダンスのマナーとか。平民には分からない事が必要にもなる。実力だけなら兵士止まり」
「現実は世知辛いもんだと思うけど、よくよく考えれば騎士だからって強いとは限らないのか。俺達が勝手に兵士より騎士の方が強いと思ってるけど、実際にはそんな事はないんだなぁ」
「騎士は要人警護の仕事とかが多い筈だ。そんな場所で物を言うのは外見と知識でな、実力は二の次となる。それで自分達の方が優秀だと思いこんでいる連中。それが騎士だ。貴族の子なのだから分かるだろう?」
「もちろんだけど、まともな連中も居る。多くはないけども。そういう奴等が出世する訳でもないのが面倒なところで、実家の家格とか派閥の力関係とか、コネとか色々なものが複雑に絡み合っている」
「「「「うわぁ……」」」」
「幻滅した! 騎士に対して幻滅した! いや、武士も似たようなものって聞いた事あるけど、結局は詰まらない話でしかない。俺達は騎士だと言いつつ、やってる事は醜い権力争いじゃん」
「貴族の連中が居るんだから、やる事はそれしかないに決まっているだろう。平民から騎士になれる奴も稀には居るが、そこからが大変だからな。貴族の私設騎士団ならそこまででもないが、国の騎士団は内部で権力争いしかせんぞ?」
「そもそもだけど、騎士としての実力はそれなりにあればいい。騎士がやるべき事は本来現場での指揮。兵士を細かく指揮するのが騎士の役目だから、そこまで個人の実力が無くても構わない」
「私設騎士団の場合は、貴族の身を守るので実力の部分が大きいのだがな。兵を指揮するのが騎士で、騎士を指揮するのが貴族だと考えれば分かりやすいだろう。近衛騎士団、国の騎士団、領地の騎士団、貴族の私設騎士団と四つある」
「国家間の戦争に出るのが国の騎士団でー、領地を守る戦いに出るのが領地の騎士団。で、貴族の命を守るのが私設の騎士団って事ですねー。近衛騎士団は王族を守るのかな?」
「ああ、それで間違ってない。さっきの騎士達がどこに所属しているのかは分からんし、私達の知らん騎士の形があるかもしれん。この星はそもそも私達が生きてきた星ではないからな」
そんな話をしていたら、先ほど通った騎士達が後ろから来て話し掛けてきた。
「この道を通る怪しい者を見かけなかったか? 青年よりも歳をとっている見た目で、顔は面長、右の眉の付近に切り傷のある男だ」
「…………うん? それってもしかして昨日、ミクが死に掛けるまで殴った奴じゃないのか? 私達に殺人の濡れ衣を着せて手篭めにしようとしたヤツ。確か騒いでいた奴がそんな風貌だったと思うが……」
「確かにそんな感じの顔だったと思う。でも、あの男は多分まだ倒れてる。ムオ村で無実の罪を押し付けて手篭めにしようとしてきて、ミクに死に掛けるまでボコられた挙句、朝も食堂で倒れたままだった」
「そ、そうか……分かった。情報に感謝する。とりあえずムオ村まで行ってこよう。よし、行くぞ!」
「「「「ハッ!」」」」
そう言って騎士達は去って行った。多少警戒していたものの、この国の騎士はマシだったのだろうか? それとも……。
「こっちに手を出してこないのは女性の騎士が一番偉いから? それともこの国の騎士は立派? いや、それはない」
「だね。普通にあの五人がマシなんじゃないの? 数が少なくなれば偉そうな事を言ったりとかしないもんだよ。人数がいれば調子に乗るだろうけど」
「まあ、それはな。兵士だろうが盗賊だろうが変わらん。そしてそういう連中こそ、形勢が不利になるとすぐに逃げ出す。最後まで戦う奴などいない。基本的に最後まで戦うのは、狂乱好きか殺し合いの好きな奴だ」
「そういう人が暴れると、勝っている側は被害を出しそうですね」
「その通りだ。勝っている側は当たり前だが命を惜しむからな。そこから逆転され、追いつめられたという戦いも過去にあった。お前達もそうだが、本当に勝つまでは気を引き締めておけ?」
ローネの説教が始まりそうだったが、目の前にフロットン町が見えてきたので霧散した。四人は安堵の息を吐きつつ、フロットン町の門番に近付いていく。




