0164・ムオ村に到着と愚か者
村長の家に泊まった翌日。朝早くから食堂に行き、朝食を頼んでから適当な雑談をして時間を潰す。
運ばれてきた朝食を食べていると、宿に泊まっていたらしき商人と護衛が来た。そいつらは席に着くとチラチラとミク達を見てくるも、ガン無視されている。
ミク達にいちいち相手をしてやる気も無いし、四人にもそんな気は無い。ミク達に反応が無いと見るやミキとサエの方に視線を変えたが、こちらもガン無視されている。
……それどころか露骨にラブラブな態度をとり始める始末だ。実に容赦の無い四人であった。
朝食後、イゼ村を出発して東へと進む。次がムオ村で、その次がやっとダンジョンのあるフロットン町である。
なかなか時間の掛かる旅路ではあるが、コレが普通だと言われると返す言葉が無いミク。ヴァルに乗って速く移動し過ぎた弊害であろうか?。
街道を移動中も魔法の練習や魔物との戦いの練習をさせつつ、食堂で買った昼食を食べて先を進んで行く。すると、朝の食堂で視線を向けてきた奴等が魔物と戦っていた。どうやら襲われているらしい。
ミク達は待つ事に決め、四人に適当に座って休憩するように言う。四人は顔を見合わせて良いのか聞いてきた。
「アレは助けなくて良いのだろうか? 流石に無条件に助けるなんて馬鹿な事は言わないが、放っておいた場合こちらに難癖をつけてくる可能性がありそうなのだが……」
「難癖を付けてきても無視すればいいだけだよ。そもそも襲われていても助けてやる義務なんてないんだし、そんな事してたら命が幾つあっても足りないよ? しかもミキに何かあったらエイジもサエもシロウも動くじゃん。結果的に全員を命の危機に陥れる」
「それは……まあ、確かに。となると、やはり動かない方がいいんですね。そもそも私達は護衛の仕事とかを請けてないし」
「そうだ。あの馬車を護衛しなきゃならんのはアイツらであって我々ではない。助け合うべきだと言う奴がいたら、こう言ってやれ。「お前だけでやってろ」と。そもそも冒険者ギルドは助け合いのような組織ではない」
「この星でもそうだと思うけど、冒険者というのは放っておけば暴れるだけの連中に、その力の捌け口とお金を与えたのが始まり。だからこそ、元々助け合いなんていう精神は無い。あくまでも、荒くれを集めて魔物討伐をさせる為の組織」
「「「「あ~………」」」」
「という事は、俺の邪魔すんな! って人が多いんですね。そういう人が多いなら、そりゃ助け合いとかの精神は生まれないなー。助けようと近付いたら「俺の獲物を奪うのか」って言われるんでしょ? そりゃ、助け合いは無理だ」
「確かにな。とはいえ、自分の獲物が奪われるかもしれないんだし、そりゃ警戒するわな。実際、多分だけど怪しい奴は多いんだろうし。そうなると警戒するのも間違ってないから、何とも言えないなー」
「エイジ君とシロウの言う通りだねー。流石にそれは無いよ。そんな組織で助け合いとか、間違いなく鼻で笑われちゃうね。それにしても、そんな組織なら信用するのも危険な気がするけどー?」
「もちろんだ。基本的に冒険者ギルドなど、知り合いがギルドマスターをしていない限りは信用するな。奴等は冒険者を都合良く使う道具にしか思っていない。代わりなど幾らでも居ると考えている」
「「「「うわぁ……」」」」
「だからこちらも都合良く使ってやるくらいで丁度良い。ハッキリ言って唯々諾々と従ってると、命が幾つあっても足りない。特に向こうから押し付けてくる仕事は絶対に請けちゃダメ」
「長く放置されている仕事、あるいは厄介な仕事を都合良く押し付けてくるだけだからな。そして、そういう仕事は大抵命の危険度が高い仕事ばかりだ。そのうえ儲かるのはギルドばかり。絶対に請けるなよ?」
四人は無言で「コクコク」頷き、ギルドにあまり近寄らないでおこうと思うのだった。そうしていると戦闘は終わったらしいので歩き始めたのだが、死者が一名と大怪我が二名いるらしい。
その横をスルーして歩いて行くミク達と四人。ある程度離れた所でミキが口を開こうとしたが、先にミクに制される。
「助けなくて良かったのか? って言いたいんでしょ? ああいう奴等は助けても無駄。私が使える魔法なんかを簡単に口走る。自分のスキルは他人にバレないようにしろってローネに言われたでしょ?」
「そうだぞ。ああいう奴等を助けたとて、バカどもは酒場などで簡単に口走り、その結果貴族に囲われたりするのだ。助けたとしても何の得もない。むしろ損しかないのだから助けるべきではない」
「他者を助けようとするのは美徳。でも、残念ながらそれは身内の中だけにするべき事。自分が美徳を持っていても、他人も持っているとは限らない。そして美徳を持つ者と、その周囲だけが不幸になる」
「「「「………」」」」
そんな話の後、四人は無言で色々考えていたようだが、その間も歩き続けてムオ村に到着した。夕方ではあったが、何とか部屋は確保できたので食堂に移動。夕食を注文した後で適当に雑談をしていると、何だか騒がしくなった。
見覚えのある奴等が入ってきたかと思えば、いきなり訳の分からない事を言い出した所為である。
「こいつらが後ろから襲ってきやがったんだよ! その所為で仲間が死んじまったんだ! 皆、協力してくれ! あいつらをっ!?」
ミクは立ち上がった瞬間、激烈なプレッシャーを周りに撒き散らす。その瞬間、誰も彼もが動けなくなった。否、動けるのはヴァルとローネとネルだけになった。他に誰も動ける者は居ない。
「お前達がゴブリンとコボルト程度に手間取ってた所為で遅れたっていうのに、そのうえ死んだら私達の所為だと? 本気で言っているのなら、何処まで耐えられるか試してみようか?」
ミクはバカな事を喚いていた奴を一人一人丁寧にボコっていく。顔中が血だらけになっても止める気配は無く、既に嘘を吐いて追い込み、ミク達を手篭めにしようとしたと口にしたが、それでも止める気は無いようだ。
白目を剥いて気絶しても尚、執拗に殴り続けるミクは、周囲から完全に怯えられている。流石にそろそろ死ぬんじゃ……となって、ようやくローネが止めた。
「ミク、そろそろ止めねば死ぬぞ? 存外に脆い奴等だが、その程度で止めるしかないな。オモチャにすらならん奴等だが仕方あるまい」
「ああ、本当だ。高がこの程度で死にかけるって、どんだけ弱いのよこいつら。まあ、ゴブリンやコボルト程度で死人を出すくらい弱いから仕方ないか。それより私の食事まだ? いつまで待たせる気?」
「は、はい! すぐに!!」
店員が慌てて料理を持ってきたが、ミクを怖れていて慌てて落としてしまうところだった。ミクが「ピクッ」と反応したが、落とさなかったのでセーフだろう。ミクもそれ以上は反応していない。
「何をビクビクしてるのか知らないけど、そもそも私達を手篭めにしようとしたゴミが死に掛けただけでしょうにね。それとも、私達が手篭めにされていれば良かったとでも言う気なの? ここの奴等は」
ミクが周りを見渡すと一斉に視線を逸らすが、死に掛けまで殴ったのも手篭めにする気だったからと考えると分からなくはない。実際、殺されていても文句は言えないのだ。しかも仲間の死を利用しているクズである。
それに理解が及んだ時、周囲の者達も四人も死に掛けの連中を睨んでいた。ミクがやった事はアレだが、強姦は犯罪の中でも重い罪である。そのうえ、ミク達が殺人をしたとデッチ上げたのだ。詐欺罪まで追加される。
同情の余地など無い。




