0163・暴走の原因とイゼ村に到着
女性二人が不満を引っ込めた夕食後、四人をミク達の部屋に連れて行き装備を渡す。シロウには竜鉄の短槍と竜鉄のラウンドシールド。それと四人全員に竜鉄で作ったナイフを渡す。解体用にも使える物だ。
サエにはナイフしか渡せないが、筋力が低すぎて強力な弓が引けないのだからしょうがない。弓は思っている以上に筋力を必要とする。機械式の弓ならそこまででもないが、そんな物を作ったら目立ってしょうがない。
むしろ狙われる理由を作るだけなので、今のまま頑張って貰う。筋肉が付けば、もっと張力の高い弓に変えられる事を説明すると、サエも納得していた。流石に良い物を持っているのを、見せびらかす気は無いようだ。
醜い嫉妬が怖ろしいのをよく知っているのだろう。星が変わろうが宇宙が変わろうが、知的生命体が醜い感情を持つ事に変わりはない。それよりもサエは媚薬と精力剤を欲しがったので、ミクは瓢箪に入れてやった。
話も終わったので、恋人二組は急ぐように部屋へと戻って行く。それを見て呆れつつ、ローネとネルを満足させて寝かせたミクとヴァル。さっさと分体を停止して、本体空間に戻るのだった。
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翌日。部屋を出て二組の部屋をノックすると、中から眠そうな三人が出てきた。エイジだけは【超速回復】の御蔭で大丈夫だが、他の三人は体力が回復していないようである。ミク達は気にする事も無く四人を連れて、食堂へと行き朝食を頼む。
「夜遅くまで盛ってる三人が悪い。エイジはスキルの御蔭で回復力は高いけど、他の三人は普通なんだから気を付けなきゃ駄目。当たり前だけど、今日もこのまま移動する。自業自得だから諦めて」
「「「えー………」」」
「ま、諦めろ。実際、寝不足のままでも動かなければ死ぬ。そういう状況は無い訳ではない。なので、そういう状況でも動けるようにする訓練だと言える。とにかく歩け、お前達が悪いんだからな」
「それにしても、昨日そこまで盛ってたの? サエ達は媚薬や精力剤をあげたから分かるけど、ミキは何で? そっちは薬を渡してないから普通の筈でしょ。何で寝不足になってるの?」
「昨夜は遅くまでシていたからですよ。いつもはエイジが頑張ってくれるんですけど、それだけじゃ駄目なので、昨日は私が上で……ま、まあ、色々と///」
「ああ、エイジの上に乗って踊ってたのか。お前も順調に普通の女になっていくな。いい事だ。暴走したら始末せねばならんと思っていたからな。それが無くなって、ヤレヤレというところだ」
「「「「………」」」」
丁度話が途切れたタイミングで食事が終わったので、アブ村を出て街道を歩いて行く。魔法の訓練をさせるも何か言いたそうにしている。何が言いたいかは分かっているので、ミクが先に言い始めた。
「ローネが言ってた事は当たり前の事だよ。そもそも愚か者や犯罪者を殺すという命令を神どもから受けている訳だし、ミキが暴走していたら間違いなく犯罪者の仲間入りだったろうからさ。その時は当然殺すよ?」
「そもそも最初に言った通り、貴女達は監視対象である事を忘れてはいけない。今のままなら問題は無い。とはいえ、未だ監視対象である事に変わりはない。別に揉め事を起こしたい訳でも無いし、暴走されても困るから色々教えてる」
「それにだ、お前達は召喚された際に才能が開花している」
「「「「えっ!?」」」」
「それは事実だ。私達は神より、「召喚された物は才能が開花し、スキルを一つ発現する」と教えられている。つまり、お前たちが持つ才能も開花している訳だ。それがどんな才能か分からん以上は、監視は続くのが当たり前だろう?」
「不思議な事に、優しい人が<人殺しの才能>を持つ事もある。残念ながら、どんな才能を持っているかは本人ですら分からない。実際、殺すと言うのも最終手段。なので、それ以前に止めればいい」
「そうそう。仲間や恋人だっていうなら止めればいいだけ。私達だって余程の事をしない限り殺す必要は無いと思ってる。ただ、ミキは未だに暴走の可能性が無くなってない。エイジの事だと暴走する可能性がある」
「「「あ~………」」」
「えっ!? ちょっと待って。私、そう思われてるの!? 大丈夫だよ! 暴走なんかしたりしないって! 大体なんで私が暴走するなんていう話に!?」
「いや、エイジ君に誰か知らない女性が近付いたらどうするのー? 私はミキちゃんがいきなり剣を振り回しても驚かない自信があるよー。だって………実際にやるでしょ?」
「………」
「それでエイジを切っても、女を切っても、場合によっては私達からの粛清だからな? その事は正しく理解しておけ。お前の中にはドス黒いものがあり、それはエイジへの愛情と執着に変わった。暴走の原因が明確になっただけだ」
「そうだね。何が危険で、どういう理由で暴走するか分からなかったのが、エイジを基点に暴走する事が確定しただけ。それでも分からなかった頃に比べれば、警戒が楽になったのは間違い無いんだけどさ。根本的な部分は欠片も解決してないしねえ」
「「「「………」」」」
「確かに言われてみればそうかな? 根本的な部分が解決したかと言われると………特には解決してないか。場合によっては他の人への攻撃を庇う事もあり得るんですかね?」
「ミキを殺させたくないなら、そういう事もあり得るかもしれない。ただ、エイジが他の女を庇ったとなれば更に暴走するのは確実。場合によってはエイジもグサッとやられるかも」
「そ、そんな事はしない! する訳が無い! エイジの居ない世界に意味なんて無い!!」
「それが重いと言ってるんだが、何も理解していないな。まあ、お前はそれで良いのかもしれんが……。エイジなら受け止められるかもしれんし、今は様子見という事だ。話を纏めるとそうなる」
「ま、あれだ。ミキちゃんが暴走したらオレ達全員で止めればいいだけ。それさえ憶えてれば問題無いさ。ミクさん達が動く前に、オレ達で何とかすりゃいい。流石に知り合いが云々は嫌なんで協力するぜ?」
「私も当然。だって友達だし、絶対に助けるよー!」
「それ以前に俺が止めれば済むんで、しっかり見ておかないと。………アレ? そういえば何でこんな話になったんだっけ?」
「夜遅くまで男の上に跨って腰を振るからだ。お前達が寝不足なのが原因だな。暴走したらという話をしたのは私だが、それは唯の現実でしかない。ほら、魔法が失敗してるぞ。話をしながらでも使えるようになれ」
現実として見れば、確かに暴走の原因が明らかになっただけで何も解決していない。その事を改めて理解した三人と、何となく分かった一人。そんな一行は夕日の中、やっとイゼ村に着いた。
すぐに宿に行くも既に満室であった為、仕方なく村長にお金を払って家に泊めてもらう。二部屋を借りる事が出来たが、村長の孫娘がやたらに色目を使っている。……シロウに。
エイジもミキも我関せずと関わらないようにし、ミク達は興味も無いので無視。サエがシロウの腕を抱えて孫娘を牽制している。サエと孫娘は視線でバチバチやり合っていたが、孫娘が村長に叩かれて終了となった。
食堂へと移動しながら、一行は隠す事なく呆れていた。
「村長の孫娘って、まだ八歳でしょ? あの歳で男を誘惑しようとするんだね。人間種って不思議だけど、そんなものなのかなぁ……」
「ああいうのは偶に居る。マセガキとはいえ、彼女であるサエが居るのに堂々と色目を使っていたぞ。流石にアレは珍しいと思うが、他にも居ないとは言えん」
サエがご立腹で、シロウが必死に宥めている。ミキも「子供のする事だ」と言っているし。エイジは「シロウはロリコンじゃない」と言っている。
……エイジの宥め方はどうなんだと思うが、何故かその一言で納得したサエ。それもどうなんだろう?。




